赦し俺の中には後悔しかなかった。
選択の後悔、行動の後悔、あの時の後悔
重く自分にのしかかりあの時にこうしていれば、ああしていればとずうっと俺を責めたてる。たらればなのは分かっている、でも あの時自分の選択を貫いていたら、言いつけを守らずお傍にいたら、怒られてもいい軽蔑されてもいい、ああなる前に一緒に逃げ出していたら。ファウスト様は心に傷を負うことも怪我を負うこともなかった、仕える者として俺は何も出来なかった。
「レノックス」
「はい」
「そう固くなるな、明日は良い日になる」
星が瞬く夜空の下、優しくそれでいて誇らしげに笑っていたファウスト様を今でも思い出す。そしてその後刑に処されるファウスト様に何も出来なかった自分の無力さに打ちひしがれ死にたくなるのだ。
何百年経ってもずっと俺はこの後悔に苛まれるのだろう。ファウスト様に出会ってもこの苦く重苦しい後悔は消えなかった、ファウスト様にお前のせいじゃないよと言われても俺の中から消えることは無かった。
否、俺自身が消えることを許さなかった。ファウスト様が許しても俺が許さない。
「レノ?」
「…ファウスト様」
「そこで何をしている?」
ファウスト様がこちらに向かって駆け寄ってくる、心配そうにバイオレットの瞳を揺らして。
俺は一体何をしていたんだろう、過去のことに深く考え込んでいたのは覚えているがどうしてここに居るのか全く検討がつかない。
「陽が隠れた真夜中は冷える、中に入ろう
なぜ中庭になんていたんだ」
「…星を、見てました」
「今日は生憎の曇りだ、星空なんて見えやしない」
戻るぞ、と手を引かれ暖かなファウスト様の部屋に連れていかれる、空気の暖かさが身に染み自分の体が冷えていたことに気づく。くしゅんとくしゃみをすればこんな時間に外にいるからだとため息をつかれた。
迷惑をおかけしたのなら謝らなければならないと思いすみませんと言うとそうじゃないとまたため息をつかれてしまった。どうしたらいいのかわからずぼうっと部屋を見渡しているといつの間に作っていたのかマグカップに入ったコーヒーを差し出してきた。
ありがとうございますと受け取り1口飲むと、程よい苦味と良い香りが口に広がる。
「美味しい?」
「とても」
「ならいい」
そう言うと嬉しそうな顔でコーヒーを飲んでいるファウスト様、どうして嬉しそうなのかは分からないけれど彼が笑顔ならそれでいい。何も話さず何もせずにお互いコーヒーを飲んでいるが沈黙が嫌にならないのはファウスト様だからだろうか、何となく落ち着く。そう思っていると彼が口を開いた
「…レノ、どうして外に居たんだ?」
少しだけ不安そうに中庭にいた事を問われた、俺は本当のことを言った方がいいのか嘘をついた方がいいのか迷ったが、嘘をつくのは苦手なので正直に話すことを選んだ
「考え事を、していました」
「なんの?」
「…過去の事です」
「何回も言っているだろ、レノは何も悪くない。もうあの頃に囚われなくてもいいんだ。」
諭すように優しげに話すファウスト様、