ワンドロ【好み】「君の体格ならこの服の方が似合うだろう」
「小物くらいこだわったらどうだ? 長く使うなら良いものがいい。今度一緒に見に行こう」
「……よく使っているから、傷んだだろうと思って選んだだけだ。今日は君の誕生日だろう。お祝い。……あ、ちゃんと僕の稼ぎだからな! なんだその顔は!」
「アルハイゼン?」
かけられた声に意識が浮上した。
目を開けば、視界には金色。
休日の夕刻はいつもよりも空気が澄んでいるように感じる。
「起きたか。そろそろ夕食にしようと思うんだけど」
リビングのカウチで読書をして、知らぬ間にうたた寝をしていたらしい。
カーヴェは夕陽の差し込むステンドグラスを背景に身を翻す。エプロンの紐がいつもの外套のようにふわりと舞って、その動きに釘付けになった。
「うん? なんだ、じっと見て」
キッチンに立つときは暑いからとひとまとめにされた髪と、曝け出されたうなじが寝起きの視界に眩しく感じる。
「いや、そのエプロンは?」
「君のだよ。昨日買ったんだ」
「……なぜ君が着ている」
部屋着もいつもと同じように背中がぱっくり開いていて、そこから見える素肌と筋肉に眉を寄せた。隠れている前面も胸元が空いているのだろう。
背中を向けていたカーヴェが振り返った。
「僕のエプロンは今洗濯してるからね。センスがいいだろう? 君の周りのものは僕好みのものばかりになったな。感謝したらいい。センスがあるものばかりだぞ」
「君好みのものを買うために使った金は、俺のだったと記憶しているが」
「そ、それは別にいいだろ! それに、僕があげたものだってあっただろう!」
「あぁ」
カーヴェが誕生日にと買ってきた小物入れ。それは今、玄関先で二人分の鍵をのせている。
「つまり俺は君好みにされていると?」
「なんか、言い方がやらしいな……。君を飾るものはちゃんと、君をより魅力的に見えるようにって僕が選んだんだ。僕だけの好みじゃない……はずだろう。え、そうだよな?」
疑問を口にするカーヴェの側に立つ。
どうしたんだと問いかけてくる顔に視線を合わせて、エプロンに覆われた彼の腹。その少し下に手をあてる。
「安心したらいい。俺を君の好みにしたのと同じように、君のここも、俺好みにしてある」
「はぁ!? なっ……」
一気に朱色に染まる顔を見てさらに言葉を続けた。
「何か勘違いを? 君が作る料理は随分と俺好みになったな。だから君の味覚も俺と似てきたのだろうと言っただけだが」
「あ、アルハイゼンっ!」
伸びてくる手をかわしてひと足先にキッチンへ。
久しぶりの揃った夕食。
彼の手料理。
カーヴェのことだから数日前にアルハイゼンが久しぶりに食べたいと言ったカレーシュリムプだろう。
だってこんなにも、彼しか作れない香りが二人の部屋の中に充満している。
End