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    「無下限の摂理」
    最終話 導入 全ての回収をはじめよう。

    『ねえ、雪璃くん』
    見知らぬ綺麗な着物の女の人だった。男の人もいたように思う。みんな俺を見ていた。急にいなくなった父と母をさがしてきょろきょろしていたところに、話しかけられて、みんなちょっと怖い雰囲気で、心細い気持ちで顔をあげていた。
    『悟様のこと、好き?』
    唐突な問いかけは、でも疑問には思わなかった。
    『うん。さとるくん、かっこいい』
    『友達だと思ってる?』
    『うん。ともだちだよ。今日もあそぶんだ』
    『友達を守りたい?』
    よく意味がわからなくて、目を瞬いてその顔を見ていたように思う。ゆっくり考えてから、俺はしっかり頷いた。
    『守りたい! だってさとるくんすごいもん!』
    笑った俺は頭を撫でられて、それから綺麗なグラスで水を貰った。やけに冷たくて美味しくて、体に染みていくようでびっくりしたのを覚えている。
    全部飲んじゃってね、と言われて飲みきったらまた頭を撫でられた。
    『悟様のこと、よろしくお願いしますね。雪璃くん』
    弧を描いた唇。
    飛び起きてから、ようやくそれが夢だと理解して大きく呼吸をした。
    一人暮らしの狭い部屋を見回して、俺は胸のあたりを押さえた。水を飲み込んで通っていたあの感覚が鮮明に残っている。
    今の、なんの夢だ? 未来の夢じゃない。あれは俺の──過去の記憶?
    しばらく考えてもよく意味が分からなくて、とりあえず遅刻するからと起き上がる。
    なんだか不穏で嫌だな、と思いながら家を出た。

    ここしばらく忙しいらしく、傑からも遊びの誘いはない。悟と揃って二人の活躍がすごいことは知っていた。危険な任務も増えたみたいだけど、その分悟たちもどんどんと強くなっているようで、ほっとする。見えている未来が瞬く間に現実になって過ぎ去っていくのを眺めながら、俺は平凡な高校生として、自分の高校に通っている。ずっとそうだけど、俺は悟たちといるより、他の友人たちと笑い合ってる時間の方が多い。悟たちと会う時の方が非日常だ。こうして遠縁になっていくんだろうな、と思いながら、まだ我慢できることを自分で確かめる。
    寂しいな。と改めて思ってしまって、俺はため息をついた。
    こんなに頑張っているのだから、みんなともっと仲良くなりたいと思ってしまうけど、違う世界の人たちには違いないのだ。足手まといになるくらいならそれこそ死んだ方がましだった。

    悟たちにとってたぶん、大きな事件が一つ過ぎ去ったときのことだった。
    校門が騒がしいのでなんだろうと思って通り過ぎると、悟が校門に寄りかかって立っていた。通り過ぎる生徒たちを睨みつけるので、その見た目のせいでみんな遠巻きにじろじろと見ながら通り過ぎていっていた。
    「悟」
    「……雪璃」
    感情のうかがえない悟に、でも訪ねてくれたことが嬉しいと思う。疲れてるだろうに、その疲れを吐き出す相手に俺を選んでくれたのは信頼のように感じた。
    「マック行く?」
    「お前他のバリエーションねぇのかよ」
    「あそこが一番会話が聞かれにくいんだよ」
    微笑む俺に、悟は目を見張った。俺があの店を選んでいるのは、いつでもざわついていて悟たちの会話が聞かれにくいからだ。俺は気にしないけど、悟たちが奇妙な目で見られることは嫌だった。
    悟は黙って歩き出して、俺はその後に続く。マックに到着すると、いつものバーガーとドリンクを買って、トレーを手に二回席へと上がる。お互い向かい合って座ると、悟は足を組まずに俺に向き直ったまましばらく黙っていた。
    「お前」
    ようやく口を開いた悟は、顔をあげる。サングラスを取ったその恐ろしいほど澄んだ青い瞳が俺を見据える。大抵の人間は臆するのだと小さい頃、悟が詰まらなさそうに言っていたのを思い出した。
    「なんで黙ってた」
    言われると思った言葉を口にされて俺はコーラを一口飲む。
    「なんのこと?」
    「未来視のことだ。惚けんなよ。もう全部知ってる」
    「全部……?」
    今度は予想しない言葉だった。どの全部か分からなくて動揺した俺を、悟は真剣な瞳で見据えていた。
    「……全部って?」
    震えそうになる声で問い返す。嫌な想像で動悸がし始まった。こんなに動揺していたら、何かあるなんてすぐに分かってしまう。落ち着け、と自分に言い聞かせる。
    「お前が俺に隠していること全部」
    逃れようと誤魔化す言葉を考えると、悟は歯を噛み締めるようにして拳に力を入れていた。感情を堪えるようにしてから、悟は俺を見る。その顔はなんだか傷ついているようで、俺は心配になった。
    「悟、何かあるなら……」
    「あるに決まってんだろ!」
    大声にびっくりした。店内がしん、とするのに構わず、悟は言う。
    「なんで俺を庇うんだよ……!」
    「なんでって」
    やっぱり知られてるんだ。奈落に突き落とされた感覚で震える声でなんとか声を出す。知られてしまった。知られてしまっていた。悟に、辛い思いを──。
    「使命って言ったんだって?俺がお前にいつ頼んだ!?俺はお前に死にたくねぇって頼んだか?!」
    その言い方に息が詰まった。
    「そ、れは……」
    「頼んでねえだろうが!何勝手なことしてんだよ……!」
    拳を握った両手をテーブルに置いて押し付けるように悟は俯く。これでも激情を抑えているのだと理解した。
    「これ以上はやめろ!てめぇに庇ってもらう必要はねぇんだよ!非術師なら非術師らしく、俺に守られて──」
    「でも俺は」
    震える声で、でも俺は言う。
    「お前が大切だから」
    ひゅ、と息を呑んだ悟に、俺は涙が滲みそうになりながらなんとか続ける。拒絶されることを考えてなかった。こんなに辛い。ずっと辛い思いをしていたのが報われないと分かった瞬間に、世界が崩れそうなくらいに息が苦しい。
    「たぶん、また庇うよ」
    言った途端、立ち上がった悟に襟を掴まれて引き上げられる。ずっと身長の高い悟にそうされると息が詰まる。でも目を逸らす事はできない。俺の目を見返して、悟は何かを言いたげにすると俺から手を離す。のびた胸元をそのままに、また座った俺に悟も無言で席に着く。
    「っんでだよ……」
    「ごめん」
    「謝るんだったらやめろ!それで解決だろ!俺は、」
    「解決はしないよ。俺は多分、ずっとこの体質だから。そうである限り俺はお前を死なせたくない」
    俺の言葉に、堂々巡りだと思ったのか悟は一度口をつぐんでから、ゆっくりと言った。
    「解呪できる」
    「え?」
    それは呪いに使う言葉だ。どう言う意味だろうと悟を見る。
    「雪璃。お前、変若水を飲んだだろ」
    目を瞬いた。何を言われるのかと構えていた心が虚をつかれる。そんな単語聞いたことがない。
    「おち?」
    俺の反応に悟も目を見張った。
    「…………知らねぇの?」
    「聞いたことがない」
    素直に答えれば、悟は思案するような顔をしてからふと怒りを覚えたような表情を浮かべた。
    「そういうことか、爺ども……!」
    「悟?」
    憤りの表情を浮かべると悟はがたんと立ち上がる。そのまま立ち去ろうとした悟は、一度立ち止まった。
    「今日は帰る。雪璃、逃げんなよ」
    そう言ってバーガーに手をつけずにさっさと階段を降りていってしまった悟の背を見送り、俺は呆然と座っていた。
    不安な感情を持て余し、落ち着かせるようにコーラを飲みながら、スマホを取り出しておちみず、という言葉を検索してみる。思ったよりたくさん引っかかって、辞書解説のページを開いた。
    そこにはこう書かれている。
    『若返りの妙薬のこと』
    「若返り……?」
    色々な説や由来はあるのだが、不死信仰に関わる薬らしい。
    冷たいコーラが喉を通っていった感覚に、なんだかぞっとする。
    「……お店の選択、間違えたな」
    戻ってくるざわめきの中で、傷ついた感情を誤魔化すように、そう呟いた。




    「五条悟」
    何もかもが詰まらなかった。初めてあったこいつも詰まらないんだろうと思ってた。
    俺のことを理解してくれるやつなんていないってもうその年の頃には思っていたし、そして今だってそうだ。だから名乗った時、返ってきた言葉に驚いた。
    「悟くん?」
    呼ばれると思ってもいなかった名前に思わず顔をあげると、そいつは優しい顔で笑っていて、俺が見たことにちょっとびっくりした顔をした。それから何その顔、と言わんばかりにきゃらきゃらと笑い声をあげて、それが俺に対して何か言い含められてない自然なものだったことに、俺は随分機嫌を良くしたし、それだけで嬉しかった。
    「おまえ、名前は?」
    「俺?俺は雪璃」
    「雪璃!」
    名前を呼ぶと雪璃は嬉しそうに笑って、そして俺は遊ぼうとその手を取ったんだ。

    ここまでくるのに随分時間がかかってしまった。強くなれば雪璃を死なせず済むと思って、鍛錬にも必死だったから気づけば雪璃を会わずに半年が過ぎていた。
    上の老人どもから聞き出すのに労力と投げられた任務を苛立ちながらこなしての今日だった。
    五条本宅を出る。車で送ると言われて怒鳴り散らし断った。
    こんな感情のままじゃなんの罪もない運転手に何を言うか分からなかった。かろうじて残っている理性は、雪璃への罪悪感から伸びている。
    『あの子供には、資格があった』
    『悟様も気に入っておられたでしょう?』
    『壊れたらそれまでと思っていたが、なかなかどうして縛りを守る』
    『もう縛りの言葉も忘れているようだけれど、でも悟様を立派に守って、佐神家も誇り高いでしょうねえ』
    胸糞悪い。何もかも壊し尽くしてやりたかった。でもこの老害どもはそんなことをしても何も変わらないことも嫌と言うほど分かっていた。だからと言って許せるわけじゃない。
    子供の純心な好意を踏み躙った老害どもが腹立たしくてならない。巻き戻れるならその時に戻って、決して雪璃に声をかけたりしなかった。
    俺が、俺が雪璃を、友達だとおもったばっかりに。
    「雪璃……」
    特級呪物「変若水」。
    適合した人間を死の少し前の時間に戻す力を持っている。変若水に適合する人間はここ数百年一人もおらず、五条家の奥底で保管されているだけの呪物だった。変若水は合わない人間に無理に飲ませれば精神を壊し呪霊へと変化させるとも言われ、実際の悲惨な事故の記録もある。
    数百年ぶりの適合者が、雪璃だった。
    雪璃は変若水を飲む際、二つの縛りを受けている。
    五条悟が死ぬ瞬間、五条悟の負の感情を引き金に、死に戻れ。
    つまり、五条悟を生かすためだけに死ぬ身代わりが、佐神雪璃ということになる。
    六眼で呪力を感じなかったのは、普段は呪力が働いていないからだ。雪璃の命の危機に瀕して発動するから知らなかった。
    覚えていたのは六眼で変若水が発動したのを見たから、その光景だけを記憶していた。
    何回死んだ?
    俺のせいで何回、余計な死を経験した?
    人に一度だけ訪れるものを、そんなゲームみたいに扱われて憤らないわけがない。
    サングラスの下に指が入るのに構わず顔を覆う。
    雪璃を説得したら、解呪をしないとならない。これ以上、自分のせいで大事な幼馴染が死ぬことは、許せなかった。
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