帰宅後によくある風景 ただいまー、と誰にともなく言いながら玄関のドアを潜る。かち、と音を立てて自動的に鍵が閉まった。右手にシューズボックスと傘立て、その上には無香料の消臭剤が入った置物。いつもと変わらない部屋が、人の気配を感知して明かりを灯す。
下のポストに入っていた郵便物と鞄を抱え直したところで、がちゃりとリビングのドアが開いた。向こうからのそり、と閃光が顔を出す。
「お帰り」
「あれ、今日出かけるんじゃなかったの?」
「リスケになった」
「じゃあ暇してたでしょ」
「ん」
オフモードの恋人は珍しくラフな服装だった。もしかしたらうたた寝でもしていたのか、若干ぼんやりした表情をしているのも稀有なことだ。
狭い廊下、その傍らを通り抜けようとして、伸びて来た腕がぐいとミツキを抱き寄せる。突然こうしてぎゅう、と抱き締められるのもいつものことだが、今日は不意に閃光の鼻がすん、と鳴った。しかも一度ではなく数度。
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