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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    39
    アル空 空くんを傷つけたいアルベドくんの話。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##800文字(前後)チャレンジ

    39 アル空知らないことを知っていることに変えていく。この作業に終わりはなく、身体が生きることを辞める日まで延々と続くことはすでに理解している。
    知らないことを知るのには、知らないことを認識するところから始めなければならない。
    そのため周囲の物事へ常に興味関心を向けることが肝要だ。そして同時に己へと問う。『目の前にある物や事象は知っているか?』と、自らの内側に投げかける。
    知らない、と返ったなら、予想を立てた後、実験を通して結果を得る。獲得した知識は空きスペースの中に一枚ずつ重ねられていって、身体の一部になっていく。
    これまでもこれからも変わらず続く作業の中で、永遠にすべての結果を得られない恐れのある人間と出会った。旅人である空だった。
    異邦の地からやってきたという共通項を持つ彼と共に過ごすうち、自らの内側で、篝火がひとつ燃え始める。
    『彼の全てを知っているか?』と、問いかける声がこだまする。
    まだ全ては知らないと、都度、首を横に振った。
    たとえば、
    「ねえアルベド、このお菓子よかったら食べてみて。前に君が好きだって言ってたものと味が似ているから、きっと気にいると思うんだ」
    どうしてボクの好みなんて覚えているの? ただ一度交わされた会話のフレーズを、大事にしておく必要はどこにあったの?
    「俺にとっては普通のことだから……うーん、でも、そうだな、強いて言うなら、君と仲良くなりたいからかな」
    どこか照れた様子の空に言われた日。得られた結果は、友情を育むためのものとラベリングされた。
    たとえば、
    「なんで一人であんな無茶したの!? もっと俺のこと頼ってよ!」
    敵の群れを一掃しようと剣を振り、三割程度だけ器が損傷した。けれど、それだけだ。どうしてそこまで怒ることができるの?
    「君が大切だからに決まってるでしょ!」
    珍しくこわばった声と険しい顔で迫られた日。得られた結果は、彼の中に占めるボクの存在とラベリングされた。
    たとえば、
    「あのさ、俺は妹を探さないといけないし、ずっと君とはいられない。それでもこうやって、時々は君に会いに来たいと思ってる。それで、また君の元から離れる時は、さよなら、じゃなくて、またね、って見送ってほしい」
    選ぶ言葉でそんなに気持ちが変わるもの? どちらもただの挨拶だ。言い方を変えただけで、意味なんてあるのかな?
    「だって、寂しいんだ。君から聴くさよならは、他の人とは違う、……心に、引っ掻き傷ができるみたいで」
    不安定に揺れるはちみつ色の瞳が翳った日。得られた結果は、
    「空。それはボクが、キミの中に傷をつけたってことかな? 同じ挨拶でも、ボクにしかつけられないものかい?」
    「……うん」
    「それなら、ボクはこれからもキミにさよならを言いたい」
    「な、なんで」
    「ボクで傷ついてほしい。キミの中に、ボクが原因でつくられた傷を増やしてほしいんだ」
    「……アルベド」
    「そうやって傷つけて、キミが今と同じように俯いてしまったら。その後でまたねを言うよ。キミの傷の上に、薬を塗るのもボクでありたいから」
    「……なに、それ。へんなの」
    一言で済む単語が見つけられず、今も空欄のラベル。この先も埋まる日が来るのか分からないラベル。
    彼を知るたびひとつずつ、篝火はどこからか薪を追加でくべられて、まだ終わらないのかと囃し立てている。ただでさえ他の事象のことも気にかけて知識を増やしていく必要があるのに、彼が現れるとすべて、問いは彼のことだけに集中してしまう。
    空の全てを知っているか? ――ぱちりと火の粉がささやいた。
    「そうだね。ボクも、どうかしていると思うよ」
    きっと永遠に知らないままだろうと、ボクは答える。そして手にした新しい薪をくべて、問いが途切れないように、燃やし続けていくんだ。自身の器が形をなくして、ばらばらになるその日まで。
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