子狐【1】「そういえば、お登勢さんのところに狐が住み着いたそうですよ」
一日の報告の最後、雑談のような調子でそれを部下の山崎から聞いた土方は、手に持っていた書類から顔を上げた。
妖怪たちの揉め事を取り締まる真選組という組織は常に忙しい。本来であれば雑談などしている余裕はないのだが、その話には興味を引かれた。
「お登勢さんっていうと、あれだろ、妖怪だろうが鬼だろうが、金さえ払えば酒を飲ませるっつう、飲み屋だろ」
「そうです、そうです、山向こうの店ですよ。本人は、人間の店みたいにスナックなんて言ってますけどね」
「おまえがわざわざ報告したってことは、その住み着いた狐ってのは普通の狐じゃねえんだろ。妖狐か」
立ち上がりかけていた山崎は、土方が話に興味を示したため座り直して「そうなんですよ」と頷いた。
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