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    いあいあぷちこ

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    いあいあぷちこ

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    ワンライ「ご飯」の兎冬

    Q.親は何してるんだ
    A.あさぎが風邪をひいたときは京夜があさぎのご飯をつくる流れが家族の中にできています 作りたがるから

    #兎冬京夜
    rabbitWinterNight
    #兎冬あさぎ

    「冗談言っただけ」 布団からはみ出した顔は、いつもの白さが嘘みたいにほてっている。平熱が低いあさぎは、ボクが微熱だからって気にせず学校に行っちゃいそうな三十七度台でもいつも苦しそうにしていた。同じ顔が赤くなってるのを見てると、なんだか頬が熱くなってくるのはなんでだろうね。
     いつも通りだけど、昨日の夜になんとなく予感はしてた。二人で出かけた帰り道に、つめたいゲリラ豪雨に降られたから。いつも、何かあったときのために折りたたみ傘は持っていくようにしてるけど、その日は風が強くてまるで真横から雨が飛んできてるみたいだったから、結局駅から家までの道を歩いただけでボクもあさぎもびしょびしょになっていた。
     博物館で宝石展をやるんだって、行きたいなあ、なんてにこにこしながら話されたら、そりゃあボクも張り切るでしょ。下調べをばっちりして、日曜日に電車に揺られていっしょに行った会場には、削られていない原石とか、すっごく昔に作られた指輪とか、ライトを当てたら光る宝石とか、そういうのがいっぱいあって。あさぎはすごく嬉しそうにあちこち見て回って、「おもしろいね、京夜」ってにこっと笑うんだ。
     鍋の中に麺つゆと水を入れて、冷凍のうどんも一緒にあたためる。斜めに切ったねぎも放り込む。首に巻くより、食べた方がおいしいし、栄養になるもんね。
     鍋の中にできたちょっとした池がキッチンの明かりを反射して、昨日見たきらきら光る宝石たちを思い出す。ボクはそれらを見たって、すごいとか綺麗だなあとかそんな簡単なことしか感じ取れないけど、あさぎはボクと同じ形をしているはずの頭で、目で、ボクの見えないものを見ていて。ボクはそれが誇らしかったり、嬉しかったり、たまに寂しかったりもするんだ。
     あたたまったら器のなかにうどんとねぎを移して、残ったつゆに片栗粉を入れてかき混ぜる。いい香りを一番近くで吸い込みながら、鍋の中のつゆにだんだんとろみがついていくのを見ていると、自然とボクまでお腹がすいてくる。最後は卵を溶いて、ゆっくりその中へ回し入れていく。
    「はやくよくなりますように」
     呟いて、ふわふわほどけていく卵の入ったつゆを器にゆっくり流し入れた。ボクは料理が得意ってわけじゃない。けど、何度も作ったこのうどんなら、レシピを見なくても完璧に作ることができる。
     お箸とれんげ、それからお水を入れたコップ、最後に主役のうどんをお盆に乗せて部屋まで運び込む。お盆を一旦勉強机に置いてから、折りたたみのテーブルを出して、椅子も用意してから二段ベッドの下段を覗き込んだ。
    「あさぎ、ご飯できたけど食べられる?」
    「ああ……ありがとう」
     体を起こしたあさぎに手を差し伸べて、椅子まで連れていく。机の上に置かれたうどんを見ると、あさぎはうれしそうに顔を綻ばせた。
    「京夜が作ってくれたの?」
    「うん」
     そうか、ありがとう。熱のせいか潤んだ目を細めて、あさぎは両手を合わせる。
    「いただきます」
    「熱いからふーふーしてね」
    「わかったよ」
     温かいつゆがたっぷり絡んだうどんを箸でとると、ふう、と息を吹きかけて冷ましてから、ゆっくりと口に運んでいく。あさぎはそうしてふた口ほど飲み込んでから、ボクに向かって言う。
    「美味しいよ。また料理が上手になった気がする」
    「そうかな……ありがと」
     水に、麺つゆに、うどん、薄く切ったねぎ。材料を一つの鍋に入れて火にかけるだけだから、大抵の人は失敗しないし、きっと誰だって作れる。勉強机の椅子に座って、食べ進めるあさぎをちらりと見てからうつむいた。
     ボクはうどんを作るのが上手になったって、すこしも嬉しくない。あさぎが苦しめば苦しむほど、ボクはうどんを作るのが得意になっていく。
    「……料理、上手にならないままがいいなぁ」
    「どうして?」
     頬杖をついて、なんでもないように立ち上る湯気へ視線をうつした。ばれちゃうのが怖いから、あさぎの目は見られない。
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    DONEワンライ「ご飯」の兎冬

    Q.親は何してるんだ
    A.あさぎが風邪をひいたときは京夜があさぎのご飯をつくる流れが家族の中にできています 作りたがるから
    「冗談言っただけ」 布団からはみ出した顔は、いつもの白さが嘘みたいにほてっている。平熱が低いあさぎは、ボクが微熱だからって気にせず学校に行っちゃいそうな三十七度台でもいつも苦しそうにしていた。同じ顔が赤くなってるのを見てると、なんだか頬が熱くなってくるのはなんでだろうね。
     いつも通りだけど、昨日の夜になんとなく予感はしてた。二人で出かけた帰り道に、つめたいゲリラ豪雨に降られたから。いつも、何かあったときのために折りたたみ傘は持っていくようにしてるけど、その日は風が強くてまるで真横から雨が飛んできてるみたいだったから、結局駅から家までの道を歩いただけでボクもあさぎもびしょびしょになっていた。
     博物館で宝石展をやるんだって、行きたいなあ、なんてにこにこしながら話されたら、そりゃあボクも張り切るでしょ。下調べをばっちりして、日曜日に電車に揺られていっしょに行った会場には、削られていない原石とか、すっごく昔に作られた指輪とか、ライトを当てたら光る宝石とか、そういうのがいっぱいあって。あさぎはすごく嬉しそうにあちこち見て回って、「おもしろいね、京夜」ってにこっと笑うんだ。
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     彼は物腰柔らかで、穏やかという言葉が似合った。生まれつき体が弱いらしく、学校を休むこともあるが、成績は学年トップレベルに優秀で先生からの信頼を得ている。しかし、会話の合間に愛想よくにこりと細められるその瞳は、たまにぞっとするような色彩を孕んでいる。時折、視線の先の人物を品定めしているような、あるいは「貴方には興味が無い」とでも言うような、冷めた色を見せるのだ。けれど繰り返すなら、あさぎくんには穏やかという言葉が似合う。そんなことを考えるようには到底思えないのに。
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    「冗談言っただけ」 布団からはみ出した顔は、いつもの白さが嘘みたいにほてっている。平熱が低いあさぎは、ボクが微熱だからって気にせず学校に行っちゃいそうな三十七度台でもいつも苦しそうにしていた。同じ顔が赤くなってるのを見てると、なんだか頬が熱くなってくるのはなんでだろうね。
     いつも通りだけど、昨日の夜になんとなく予感はしてた。二人で出かけた帰り道に、つめたいゲリラ豪雨に降られたから。いつも、何かあったときのために折りたたみ傘は持っていくようにしてるけど、その日は風が強くてまるで真横から雨が飛んできてるみたいだったから、結局駅から家までの道を歩いただけでボクもあさぎもびしょびしょになっていた。
     博物館で宝石展をやるんだって、行きたいなあ、なんてにこにこしながら話されたら、そりゃあボクも張り切るでしょ。下調べをばっちりして、日曜日に電車に揺られていっしょに行った会場には、削られていない原石とか、すっごく昔に作られた指輪とか、ライトを当てたら光る宝石とか、そういうのがいっぱいあって。あさぎはすごく嬉しそうにあちこち見て回って、「おもしろいね、京夜」ってにこっと笑うんだ。
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