鶯丸への感情を自覚していない大包平×鳥目の鶯丸 この本丸で、動物の名を号に含むモノはその特性に引きずられる。
それは顕現してすぐ、近侍で初期刀の歌仙兼定から本丸の案内がてら説明されたことではあった。
「主が無類の動物好きでね。幻獣…竜の類であっても、伝承の中に描かれるような性質が現れてしまうんだ。」
一種の個体差だと捉えてくれと言われたその時、真っ先に浮かんだのは先に顕現していると聞き及んだ同郷の太刀だ。これについては他意はなく、顕現の口上を述べ終わるか終らないかのところで審神者が「大包平が来たよ鶯丸!」と騒いだ所為でその名が頭にこびりついていたからである。そうでもなければ、元の所在を共にしていた獅子王や鳴狐あたりが真っ先に浮かんだだろう。
「鶯丸もか。」
「そうだね。でも彼は影響は薄い方だよ、寒さに弱いくらいで。」
思い浮かんだままその名を口にすれば、歌仙は心得ていたようにそう返した。殊更影響を受けているモノは、二重三重と特性を持っていて苦労を強いられることもあるのだと。
彼はそうないから安心してくれ、と続ける表情は妙に柔らかいもので、何やら勘違いをしているのが容易く察せられた。安心って何だ。俺はあの剣の何をも心配していないが。
そうだ、そう聞き及んでいた。鶯丸は寒さに弱い程度のもので、安心していいと。
―それじゃあ、これは何だ。
「おおかねひら。」
困ったように、目の前に立っている鶯丸が眉を下げる。そこに浮かんでいるのが微笑であることにどうしようもなく苛立った。何故笑う。何故何も言わない。何故、俺を見ない。
鶯丸は部屋の中で立ったままだ。いや、立ったまま、は語弊がある。彼は己より余程馴染ある筈のその部屋で、入口に立つこちらには目もくれず途方に暮れたように立ち尽くしていた。
「鶯丸、お前」
呼びかけに思わず、といった風に反応したその萌黄色の瞳が、うろ、と彷徨う。その身体は向き合っているにも関わらず、奇妙な程に視線がかみ合わない。
「視えていないのか。」
腹の奥からこみ上げる熱いものを抑え付け絞り出した声は、激情からかみっともなく震えた。表情など恐らく滑稽な程に歪んでいただろう。
けれどそのどれにも反応することなく、鶯丸は薄く笑んだまま、そしてやはり困ったように、そろりとその瞳を彷徨わせるだけだった。―まるで、音の出所を探るように。
それは夏の黄昏時。奇しくも酉の刻と呼ばれる、明暗入り混じる夕暮れの事だった。