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    星空市

    星空市(@irimh3625)まほやく小説保存庫
    現在オズアサ/レノファウ/シノヒス/フィガファウの投稿作品を主に置いてます。中央と東及び革命組が主な性癖ですがどこにでも出没します。特にファ先生周辺には節操がありません!

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    星空市

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    ※フィガファウ修行時代捏造してます!
    いくら書いても完成しないので、そのうち完成するといいなと思っている話より抜粋。
    すぐ口移ししたり、でかいベッドでファを囲いたがるフィ。まだまだこの先もたぶん甘やかすし、ファはますますおてんばを発揮する。はず。

    ##フィガファウ

    おてんばな弟子が神様だった師匠に甘やかされる話 北の国の朝はゆっくりと始まる。厚ぼったい曇天の空がだんだんと明るさを増して、森に僅かな光が差し込む。樹々の枝に夜の間に積もった雪が溶け落ちていく音で目が覚めた。随分と長いこと寝ついてしまった気がしていた。身体を起こすとぎしぎしと油の足りない歯車になったように悲鳴を上げたけれど、いつまでも寝てばかりいられないと持ち前の根性でなんとかベッドを降り、部屋を出た。
     廊下はしんと静まりきっていて、まるで音のない雪の中を歩くようだ。北の国の寒さは容易に命を奪いにくる。身に覚えがありすぎる底冷えに魔法を使いたかったが、試しにぱちんと指を鳴らしてみたものの殆ど精霊の反応はなく、ただため息をついただけだった。仕方がない。
     一時はほぼ魔力ゼロの瀕死だったとフィガロ様に言われたのが数日前。北の海の修行で情けなくも死にかけて、フィガロ様が屋敷に連れ帰ってくださったものの、体力も魔力も枯渇した僕ではフィガロ様の治癒魔法でも簡単に回復しなかった。しかも疲労で限界の身体は更に免疫力を失くして高熱が上がったり下がったりを繰り返していて、やっと今朝はこうして起き上がることができたが、やっぱりまだふらふらと足元がおぼつかない。壁伝いにのろのろと歩きながらキッチンに辿り着く。魔法が使えなくては水を飲みに行くのも一苦労だな、と思う自分がなんだか不思議な気もしていた。ついこないだまで、人と同じように暮らしていたのに。フィガロ様の屋敷に来てからは日常生活のすべてを魔法で行う訓練もしていたために、わざわざキッチンに出向くのも久しぶりだった。
    西向きのキッチンはまだ陽が差しきらずにぼんやりとした明るさで、雪解け水を汲んできた水瓶のある流し台はキッチンでも奥まったところにあるのでまたよろよろと歩いたけれど、ふいにぐるんと回転性の眩暈に襲われた。しまった。暗転する視界の中、座り込もうとした僕の肩を誰かが掴んだ。
    「ファウスト」
    低い声が冷たい空気を震わせる。気配だけでも感じる威厳と叡智。北の大魔法使いで僕の師。当たり前だがフィガロ様だ。
    「ちょっと目を離しただけなのに、どうしていなくなっちゃうかな、君は」
    胸に抱きとめられながら聴いた、窘めるようなその声音に思わずびくりと強ばる。
    「……すみません、フィガロ様」
    「まあ、いいよ」
    ため息が聞こえて申し訳なさに薄っすらと目を開けるとグラスを片手に水を呷るフィガロ様がいた。
    「?」
    見上げていたお顔がそのまま近づく。
    え。唇が触れ合って、フィガロ様が含んでいた水が流れ込む。目をみはるばかりの僕のことはお構いなしに口移しは何度か繰り返されて、今さらそれがフィガロ様のシュガーが溶けていることに気づく。甘いだけでも苦いだけでもないそれを溢れるほど与えられて、やっとすべて飲み干したときには、最早別の意味で息が上がってしまいそうだったけれど。
    口づけが止んでフィガロ様のお顔を伺ったときには、少し微笑んでいらしたのでほっとした。
    「熱は下がったみたいだけど、だからってまだあちこち動いちゃだめだよ。わかった?」
    「……はい。すみません。あの、でもフィガロ様」
    「なぁに」
    「……寝てばかりなのも申し訳ないですし。そろそろ何か」
    「はああぁ」
    盛大につかれたため息に恐縮していると、呆れ顔のフィガロ様から降ってきたのはお小言ではなく額へのキスだった。
    「仕方ない子だなぁ。俺の寝室に来なさい」
    「……はい?」




     フィガロ様がいつも使われている部屋の幾つかは既に立ち入ったことはあったけれど、さすがに寝室は初めてだった。南向きの角部屋のそこにあの後、早速フィガロ様に抱きかかえられて文字通り運ばれてしまった僕は、寝室に鎮座する広い広い豪奢なフィガロ様のベッドの上で借りてきた猫の如く縮こまっていた。
    見上げれば深い紺色の夜空を織り込んだような色合いの天蓋があり、金縁の刺繍が星の連なりの様にあしらわれた同色の帳が幾重にもベッドを囲んでいる。身体が沈みこむほどのふかふかのベッドはちっとも落ち着かなくて正直全然眠れる気はしなかったけれど、大ぶりのクッションがたくさんあって抱きかかえるとちょっと安心した。香を焚きしめてあるのか、それとも何かの魔法なのか。顔を寄せると慣れ親しんだ草花やハーブとはちがうもっと芳醇で香り高い花の匂いに包まれる。フィガロ様の匂いだ。
    「良い匂い……」
    呟いてうっとりとした顔を見られたらしい。ちょうど隣部屋の書斎から戻ってきたフィガロ様が堪えられないと言った様子で破顔した。
    「ファウストが気に入ってくれてよかった」
    「あ、いえ、あの……!すみません」
    「どうして謝るの。うれしいよ。さて、ちょっと元気が出てきたみたいだから何か食べようか。リクエストはある?」
    「そんな、僕がやります。フィガロ様のお手を煩わすのは……」
    「あー、わかったわかった。どうやらちゃんと説明しないとこの件何回もやりそうだから、はっきり言おう。君は普通に死にかけた」
    「……はい。不甲斐ないばかりです。申し訳ありません」
    「君が悪いわけじゃないよ。北の国ではあらゆるものが簡単に死ぬ。人間も魔法使いも。何故なら常に強者が弱者の生命線を握っている世界だから。今ここに於いては君も、そうだ。君を生かすも殺すもどちらも俺は選べる」
    「はい」
    「修行とはいえ君を殺しかけたのも俺だけどね、生かすのも俺ってこと。俺の今の目的は君を生かして強くすることだ。そのためには君はきちんと休養して気力も魔力も体力も回復させること。それ以外のことはしばらくさせないよ。ちゃんと元気になるまでは俺の言うことをきいてね。さっきみたいに変な気遣いをした挙げ句に、俺の知らないところで君に死なれちゃ俺も寝覚めが悪い」
    「はい。すみません」
    「よし。じゃあ今日からしばらく君はここで俺と寝食を共にしてもらうから。そのつもりで」
    「え?」
    「え、じゃないよ。話し聴いてたよね?」
    「はい。でも、……え?」
    フィガロ様の盛大なため息がまた溢れたところで、諦めたようにぱちんと指先が鳴り、近くのテーブルにはあっという間にさまざまな食べ物が並んだ。
    「とりあえず温かいものからかな、ポトフはどう?」
    「あ、はい。いただきます」
     フィガロ様の手を借りてベッドを降りてテーブルにつくとすぐにフィガロ様の魔法で皿やカトラリーやクロスが用意されて、温かなポトフやパンや果物が取り分けられた。それにふわふわの膝掛けも。用意してくださったポトフは滋養があって消化にいいハーブも入っていてすっきりとした優しい味わいだった。たくさんは食べられなかったけれど、数日ぶりの食事は美味しくて身体に沁み渡った気がした。少しおしゃべりをしてまたベッドに戻って。横になると思ったより疲労感があって、僕はまた眠ってしまったようだった。
     次に目が覚めたときには、薄いレースの帳から陽射しが部屋いっぱいに満たされているのを感じたからきっと午後になっていた。サイドテーブルに置かれた美しいカッティングを施された冠水瓶が光を集めてきらきらしている。すぐ横に添えられたいくつかのシュガーも。そういえば、今朝はめちゃくちゃフィガロ様にキスされたな、とぼうっとした頭で考える。治療の一環とはいえ、普通にどきどきしてしまったけれどフィガロ様は全然平気そうだった……。当たり前だ!フィガロ様だぞ!と急に恥ずかしくなってごろんと寝返りをうつと、まさにそのフィガロ様がいらっしゃって飛び起きた。
    「フィガロ様……!?」
    「うん。ファウスト、急に起きない方がいいよ」
    「は、はい……」
    実際、起きた瞬間にまた眩暈がしてくらくらとした頭を抱えてベッドに伏せた。うう。気持ちわるい……。しかめっ面の僕の背中をフィガロ様の大きな掌が摩った。
    「君って本当は、けっこうおてんばだよね」
    「え?」
    「ふふ。なんでもないよ。大丈夫?水、飲む?」
    「はい。ありがとうございま……」
    言いかけて、ふいと指先で冠水瓶を手元に呼び寄せたフィガロ様を見つめてしまう。僕が今思ってしまった浅ましいことをフィガロ様はあっさり見抜いたのだろう。揶揄うようににやりと微笑まれた。
    「なに。今朝みたいにしてほしかった?」
    「フィガロ様っ!」
    さすがに抗議した僕をおかしそうに笑って、僕が今度はゆっくり身体を起こすのを待ってからグラスに注いだ水を手渡してくださった。もう、と口を尖らせた僕が飲み干すのを眺めながらフィガロ様はふっと真面目な顔をされた。
    「まあ、実際そうした方が回復は早いとは思うんだけどね」
    「?」
    「直接的な魔力供給だよ。治癒魔法も施してはいるけど、どうしても免疫力が下がってるときは時間がかかるだろう?手っ取り早く魔力を回復するなら、俺の魔力を君に移すのが一番早い」
    「フィガロ様の魔力を、僕に?」
    それができるのならなんて凄いことだろう!と僕は思わず興奮してフィガロ様を期待の目で見つめたけれど。
    「でもうっかり加減を間違えると逆に君を死なせちゃうかもしれないしね」
    あっさり却下された。
    「はあ」
    やっぱり。難しいものなのだな、とあからさまに肩を落とした僕を「だから今は、これくらいから始めようかなって」と笑ってフィガロ様は背後から僕を抱きしめて、ぴたりと寄り添った。
    「あの、フィガロ様?」
    「感じる?俺のこと」
    「え、っと……?」
     感じるも何も、これだけ接触したら伝わるに決まっている。互いの呼吸も体温も心音までも。ああ、でも、そうか。寒いときに誰かとくっついていると温かくなるように、接触することでわずかだけど魔力を移すことができるのかも。そう思い至ってフィガロ様の腕の中で、緊張していた身体の強張りをそっと解いた。
    「うん。正解だね。魔力も基本的に大きい方から小さい方へ流れる。そして抵抗が少ない方がより流れが良くなるのは当然だよね」
    きゅっと抱きしめる力がいよいよ強まって、フィガロ様は僕の首筋に顔を寄せて囁いた。
    「魔力供給にはね、信頼関係が必要なんだ。心を委ねて、俺を感じて。ファウスト。きっと早く良くなるよ」
    「はい。フィガロさま……」
    柔らかく響く師の声を耳元で聴きながら、僕は暫しうっとりと目を閉じた。あたたかな胸に抱かれ、馨しい花の香りに包まれて。ここは極寒の北の国だというのに、不思議ともう長らく感じたことのない春のやさしい陽だまりにいるようで。この地でフィガロ様に守られている僕は、ただただ幸福な弟子だった。


     それからの僕はほとんどの時間をフィガロ様のベッドの上で過ごした。目を覚ますと師はいつも隣にいた。
    「フィガロさま」
    「ん、起きた?お水飲もうか。また熱が上がってるよ」
    「……はい」
    ぼんやりとした頭で差し出されたグラスに口をつける。熱のせいで身体が重い。ベッドの背もたれに寄りかかったフィガロ様の膝に猫のように懐くと髪や背中を撫でてくれるのが気持ち良かった。また寝入って次に目を覚ましたときには朝が近いようだった。変わらずに同じ場所にいた師が身じろぎした僕へ手を伸ばした。
    「よく寝てたよ」
    いいこいいことでも言いたげに髪を混ぜられて額に手を当てる。少し熱が下がって汗ばんでいたから恥ずかしくて俯いた。フィガロ様は気づいたように「冷えるといけないから着替えようね」とぱちんと指先を鳴らしてすべてを完了させてしまう。そうして昼は少し食事をして、夕方近くまでは本を読んだりフィガロ様の話しを聴いたりして過ごして、それが数日続いた辺りで僕はやっと気づいた。
    「フィガロ様はいつ眠ってらっしゃるんですか?」
    フィガロ様は見上げた僕に不思議な虹彩の瞳を向けて瞬きをした。
    「魔法使いに睡眠は絶対じゃないよ」
    「え、」
    その瞬間に答えがわかって、がばっという擬音を使いたいくらいには僕は盛大に身体を起こした。やっぱりまだくらくらしたけれどそれは無視して信じられない気持ちで叫んだ。
    「寝てください!」
    今すぐに!と卒倒しそうな勢いの僕をフィガロ様はあわてんぼうの子どもを宥めるようにまあまあ、と笑う。
    「大丈夫だよ。慣れてるから」
    「……慣れないでください」
    「あはは、ほら、集中して本を読んでいたり、魔法薬の調合をしてるときにはよくある事だよ。それより君は君の身体を心配して?」
    「でも……」
    申し訳なさに萎れる僕にフィガロ様は僅かにため息を漏らして僕の手を握った。
    「じゃあ、一緒に眠ってくれる?目が覚めたら君がいない、なんていうのは嫌だしね」
    「フィガロ様」
     言葉尻に僕がベッドを抜け出した時のことを言われて、あれ?と胸のなかにふわりと湧いた不思議な感覚にとらわれた。フィガロ様はもしかして僕が思っていたよりもずっとあの時驚かれていたのだろうか。僕がいなくなったと思って?でもフィガロ様なら屋敷の中の気配なんかすぐにわかるのに。あ、今の僕はほとんど魔力を感じないからか。それで。もしかして、すごく心配して……あれ?
     おかしいと思うかもしれないけれど、僕は志願してフィガロ様に弟子入りしたというのに、数千年を生きているフィガロ様にとっての僕は一介の凡庸な魔法使いでしかなく、なんというか、僕自身が、フィガロ様の何かになる可能性を全く考えたことがなかった。こんなにたくさん与えて守って、優しくされていたのに。どこかフィガロ様のことを神様のように感じてしまっていたのかも知れない。大地に雨が降るように、太陽の光が遍く全てのものに降り注ぐように。だから、目の前のこの方が僕の隣で僕の命がなくならないように眠りもせず、ずっと見守って施して世話をやいてくれていたことが、本当にただただ、フィガロ様の好意の元にあったのだという事実が今ちゃんとわかったのだった。
    さすがに疲れていらっしゃったのだろう。フィガロ様は手を握ったまま、僕の隣に横になって目が合うとほっとしたように息をついて微笑んだ。
    「こういうのも、いいね」
    「え?」
    「ただ、温もりを分かち合うだけの存在って俺にはいなかったから」
    「……っ」
    胸に詰まっていた気持ちをフィガロ様はそんな風に言葉にしたから、僕はその手を離さないようにぎゅっと両手で握った。
    神様なんかじゃない。フィガロ様は。
    僕の、かけがえのないお師匠様なのだ。
    「ありがとうございます。フィガロ様、僕は本当に幸せな弟子です」
    「ファウスト……」
    涙を浮かべて言った僕にフィガロ様は不思議そうに、けれど嬉しそうに笑ってくれたから。僕は堪らずにフィガロ様の胸に頬を寄せて懐きにいった。ずっとこんなことをするのは畏れ多いと思っていた。フィガロ様にこんなふうに甘えるのは僕じゃないと。でも、フィガロ様は傍らにきた僕を当たり前みたいに抱きしめて、その腕に閉じ込めた。
    「俺も君が愛おしいよ」
    ちいさく囁かれたそれは、なぜか囁いたフィガロ様自身がくすぐったそうにいつまでも笑っていて、僕はどうしてかそれが心の琴線のやわいところに触れられた気がして涙が止まらなかった。
     
     フィガロ様はその日を境に僕の隣で眠ってくれるようになった。


    続け…

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