「運命の赤い糸ってあると思うか?」
寝る前のハーブティーを飲み干したカップをかちゃりとソーサーに置き、カリムは独り言のようにぽつりと呟いた。
「……なんだ、急に」
怪訝そうに眉をひそめジャミルはカリムに問う。
運命の赤い糸――やがて結ばれる運命の相手とは目には見えず、決して切れない赤い糸で結ばれていると言う。そんな迷信があることはジャミルももちろん知っていた。
(迷信だ、そんなもの。)
ジャミルとジャミルが密かな想いを抱いているカリム――従者と主人、それも男同士の自分たちの間には存在し得ないその糸が、カリムと誰かの間に結ばれているなんて絶対に認めたくない。もしそんなものがあるならば、どんな手段を使ったってその糸を引きちぎってやりたい。ジャミルの物にならないカリムなんてずっとひとりぼっちでいればいいんだ。
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