小説家と姉と弟重厚な木材で誂えられた空間と明り取りの為の大きなガラス張りの吹き抜け。
古びたスピーカーから流れる軽快なジャズは、散らかる喧騒をも軽やかなバックミュージックへと昇華させる。
漆黒の液体から上る芳醇な香りは私の鼻先を楽しませてくれるだけでなく、難解な謎を解き明かすために稼働し続ける灰色の脳と、人に追われ疲れ果てた心を癒してくれる。
目まぐるしい日常の束の間の休息。
まさかこんな観光客で賑わう人目の多いサンジェルマン・デ・プレの喫茶店で、私が優雅にティータイムをしているとは追手はおろか世の名探偵達も思うまい。
更に奴らの情報源である闇の男爵夫人(ナイトバロニス)は海の向こうの島国へと飛んでおり居ない事は確認済みだ。
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