湿度露に濡れた下草を疲れた足で踏む。
視界を遮る枝葉を銃身で避けながら、湿度に満ちたジャングルを進む。
鳥の声、川の音、何か分からない生き物の金切り声、俺たちの足音。
木々の間をまばらに落ちる日光も、霧に拡散されてぼやけている。
背中に背負った腹いっぱいのキャンバス地のバッグは、一歩進むごと、疲労が溜まるほどその存在を主張して、布地が湿気を吸って更に重くなっている錯覚さえする。
蟻のように進む俺たちの縦隊は、軽口を叩くやつはいなくなってしまった。
口を湿気で塞がれたに違いない。
ピリピリとした緊張感だけが湿気の中を支配する。
鳥の声、川の音、生き物の声。
4人ほど前の縦列の先頭が枝を払い切り開く道のない道。
途端、ボン、と間抜けな音が爆ぜる。
瞬時に腹ばいに伏せる、音の原因はどこから聞こえた
音の聞こえた前方を見る。
ピンクの霧。
太陽の光の中で血と肉が、
「フリッピー」
妄想を断ち切る声がした。
妄想あるいは記憶だったかもしれない。
続く銃声と怒号は今も頭に鳴り響いている。
目の前には何も写っていない暗いブラウン管。
声の主はフリッピーの身体を沈めたソファの後ろでじっとフリッピーとブラウン管を見つめている。
「そろそろ戻ってきてもいいんじゃないかな」
声の主、スプレンディドは言う。
フリッピーはその顔を振り返ることなくブラウン管に釘付けになっている。
「まだだ」
「俺はまだあの湿度の中にいる」