思いの行き先「少年」
出逢って僅かだというのに、少年の耳に酷く馴染む静かな声。
何事かと両手にマグカップを持ちながら台所より現れた半身の視線を追うと、黄金の双眸が見つめるのは自身の手元であった。
「あっ」
右手首に視線を向け、少年自身も直ぐに気付いた。袖口のボタンがぶらりと糸に吊られて揺れているのである。
「気付かなかった」
「読書中にすまない。だが、室内ならまだしも、屋外で紛失しては面倒になるかと」
「ありがとう、アオガミ」
手にしていた文庫本を机の上に置き、少年は微笑む。ボタンについて声を掛けるまでに葛藤があったらしいアオガミの僅かに落ち込んだ表情。仲魔達は首を傾げるほんの小さな差異であるが、少年は見逃すことはない。
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