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    双子がオズを拾った日の話

    #北師弟
    northMaster

    弟子は使いよう日付を跨ぐ音が時計から鳴り響き、ふと顔をあげる。本に夢中になっていたら目の前の暖炉の火が消えかかっていた。
    呪文を唱えると火花が散り炎が大きくなる。そういえば、まだ双子は帰ってきていない。
    『フィガロちゃん、今日はすごいものもって帰るからちゃんと良い子に待ってるんじゃぞ』
    『フィガロちゃんびっくりしちゃうかも~!』
    もう拾われた時のような子どもではないのに、いまだに二人からは小さな子どもの扱いだ。それに付き合ったわけではないが、医学書を読みふけり時間を忘れていた。
    一段と炎が増したのと同時に、馴染んだ魔力の気配がする。
    (帰って来た…けど、なんだ、違うものが混ざってる)
    鳥肌がたった。背筋が冷たくなるような感覚。すぐに部屋を飛び出して玄関に向かうと吹き荒ぶ吹雪が入り込んできた。
    「お二人とも……え、」
    双子は何かを抱えていた。しかしその何かを気に掛けるより、双子が血まみれになっていることに驚きを隠せなかった。
    「フィガロちゃん、ただいま~」
    「我らもう限界~」
    「待ってください、その血、浴びたモノじゃなくて自分のですよね…?」
    双子は抱えていたものを床にぞんざいに落とし、スノウがフィガロに寄ってきた。
    「ごめんフィガロちゃん、もう一回言ってくれる?右耳なくなっちゃって聞こえにくいんだよね」
    「スノウや、我らの服についた血を見てフィガロは心配しておるのじゃ」
    「なんと!優しいのうフィガロは」
    のんびりとやり取りしているが、視線を巡らすとホワイトの腕が片方なくなっている。白いシャツは真っ赤に染まっていて、これだけ傷だらけのふたりを見たのは初めてだった。
    「…俺が治しますか?」
    「良い良い、これくらい互いで治せる。たださすがに疲れたからのう、これの相手をしてやってくれぬか」
    これ、と言ってスノウが足蹴にした毛むくじゃらの、おそらくいきものと思われるそれは荒い息を発していた。
    「魔法生物…いや、魔法使いですか?」
    長い髪の隙間から覗く口元には布が巻かれている。ぎらりと赤い光彩に一瞬足を引く。
    脚も腕も拘束されていて、その拘束具が何かしら魔力を封じているらしい。それでも禍々しいほどの魔力が漏れ出ていた。
    「「フィガロちゃんの弟弟子で~~~す!!」」
    「………は?」
    双子が何を言っているのかわからず、眉間に皺が寄る。
    「ちょ~~っとおいたが過ぎる魔法使いの子どもがいるからなんとかしてくれと頼まれてのう」
    「正直我らでも手が余るほどじゃ。純粋な魔力だけで言えばこやつの方が強いじゃろう」
    「ただ力の使い方を知らないようでな。経験値においては我らの方が圧倒的に上じゃ」
    「しかし今は我らが勝てても、この先は脅威となる。それならば飼いならしてしまう方が良いと思ってのう」
    双子は呪文を唱えて服を着替え治癒を施していく。床に転がった生き物はもがくように動いていたが、魔法を使えない以上逃げ出すのは難しいだろう。
    「それでつかまえてきたってわけですか…。でも、そんなに力が強いなら今のうちに石にした方が良いんじゃないですか?」
    「えーそういうこと言っちゃう?」
    「フィガロちゃん非人道的~」
    「お二人にいわれるのは納得いかないんですが」
    ホワイトがくっついた腕の動きを確かめるように手をグーパーと動かして、小さな魔法使いの髪を掴んだ。
    獰猛な獣のように、警戒心を全開にしている。
    「脅威にもなるが、それをどう扱うか次第じゃ。ものは使いよう、とな」
    黄金色の瞳が細められて、ぞっとした。自分に向けられたわけでもないのに。
    「それに~フィガロちゃん一人じゃ寂しいと思って」
    「兄弟がいたほうが楽しいじゃろう♪」
    「いやいや、これが兄弟…?」
    ホワイトに呼ばれて近づき、初めて視線を交わす。強い、真っすぐな怒りだ。
    額からは血が滴り落ちて瞳に染みている。
    「少し話してみるかのう」
    「魔力は抑えて、呪文は唱えられないようにしてある」
    スノウが口に巻いた布を取ると、必死に酸素を求めて呼吸を繰り返し咳き込んでいた。
    落ち着いた頃合いを見計らって、額にそっと触れる。身を捩るように逃げようとしていたが、双子ががっちりと脇を固めていた。
    「<<ポッシデオ>>」
    傷跡が塞がり、滴り落ちていた血を指でふき取る。
    もう一度視線がかち合った。
    「……お前、名前は?」
    一拍置いて小さな魔法使いは口を開き―――
    「っっ痛った!??」
    がぶりとフィガロの指に噛みついた。
    「「わーお」」
    「このっ、放せっ」
    頭を掴んで無理やり引きはがそうとするがとんでもない力で噛まれて離れない。双子は面白そうに眺めている。
    こんなのが弟弟子なんて、最悪だ。
    「ちょっと二人とも!どうにかしてくださいよ!」
    「我ら手離せんし~」
    「石にしましょう!今すぐ!」



    ***



    「わあ、美味しそうですね、オズのパンケーキ」
    「オズ!賢者様の分も作って差し上げてください!」
    「すみません、そういうつもりで言ったわけでは…!」
    食堂で繰り広げられる会話に耳を貸しながら、コーヒーの香りを楽しむ。リケは頬を膨らませてオズが作ったパンケーキを食べていた。
    世界最強の魔法使いが若い魔法使いにパンケーキを焼いているなんて、面白いにもほどがある。
    「…賢者が望むなら、作るが」
    「……それじゃ、お願いしても良いですか?もちろん俺も手伝いますんで」
    ふたりがキッチンに向かおうとしたところで、オズの背中からひょこりと小さな姿がふたつ現れた。
    「オズちゃん!我らも我らも!」
    「オズちゃんの作ったパンケーキ食べたいな~!」
    スノウとホワイトがオズの服を引っ張りながら強請る。
    「…気色悪い」
    「ちょっと~!師匠の言うことは聞くべきじゃろう!」
    「作って作って~!」
    駄々をこねる子どもみたいだ。どっちが弟子かはた目にはわからないだろう。オズは大きめのため息を吐いていた。
    「フィガロちゃんも食べる?」
    双子に振り返られて、オズが「食べるのか?」とでも言うように視線を向けてくる。
    いい加減口は開けよ。
    「…それじゃあ、ひとくちもらおうかな」
    「フィガロちゃん、なんだか機嫌が良さそうじゃのう」
    ホワイトが覗き込んできて、口元に笑みを浮かべた。

    「たしかに……ものは使いようだなって」
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