定時10分前。日報を書き終えた。全てのメールに返信した。今日中にやらなければいけないタスクは全て終わった。出先から直帰すると言っていた宇佐美からは先に店で待っているとメッセージが来ていた。
定時5分前。隣に座る谷垣がブヒィと鼻を鳴らした。うるせえぞと文句を言うために横を向いたら谷垣が泣いていた。
「は? お前なんで泣いてんの?」
「お、おがたしゅにん……しごとが……終わらないです……娘の誕生日なのに……!」
「あと5分で終わらせればいいだろ」
そんなことができればコイツは泣いていないのだが。案の定「むりです……」と蚊の鳴くような声で谷垣が言った。
代わってやりたいが、今日は俺と宇佐美が付き合って3年目の記念日なのだ。記念日は有古の店で美味い飯を食うと約束している。宇佐美はもう着いていると言うし、俺も定時退勤を決めたい。
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