「⋯⋯」
ミチル・フローレスは、しがみついた両腕にギュッと力を込めた。華奢な腕がぶるぶると震えているのは、純粋に恐怖だからだ。
「ちょっと、何です。邪魔しないでくださいよ」
気だるげな声がミチルの小さい頭の上から降ってくる。
目下、ミチルは北の魔法使いミスラの身体にしがみついているのだ。ハァ、と短いため息をついた後、ミスラはミチルの首根っこを掴んでヒョイと片手で持ち上げた。仔猫のように持ち上げられたミチルは、両腕をだらんと下ろし困ったように眉を下げている。
そんな二人の隣には、ミスラという魔法使いの象徴ともいえる扉がドンとそびえ立っている。
「⋯⋯だって、ミスラさん、これからどこへ行こうとしているんですか?」
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