両片思いなのにラブホに行くことになったラーヒュン(現パロ)「ヒュンケル」
名を呼ばれ顔を上げると、ラーハルトが顔を上気させてこちらを見ていた。
だいぶ酔っているようだ。
「お前、なんで彼女を作らないんだ?モテるのに」
紫煙を燻らせながら何気なく彼が問う。彼にとっては当たり前のことなのだろうが、あいにくオレにとってはそれは当たり前じゃない。確かに女性から好意を向けられることはあるが、それに対しては申し訳ない気持ちしかない。オレはゲイだからだ。恋愛対象は男のみ。しかし、それは今のところ大学の連中には誰にも言っていない。友人であるラーハルトにも。
だから、この手の問いへの答えはいつも同じだ。
「ピンと来る相手がいないんだ」
「ふーん」
ふう、と彼の口から吐き出される煙。真夜中の、街の外れの喫煙所。
オレ達以外、誰もいない。飲み会の帰り道、珍しくラーハルトは女の子を連れていない。
ラーハルトはモテる男だ。見かけるたびに違う女の子を連れている。
顔が良い上に実にスマートな男で、ただの友人でしかないオレにでさえ細やかな気配りを見せたりする。ラーハルトが視線を向けた女性が恋に落ちるのを目の前で何度も見てきた。ただ、彼は特定の相手を作るつもりはないらしい。「同じ相手とは二度寝ない」という噂も耳にする。本人に確かめたことはないが、それが事実なら本当に罪な男である。
そう罪な男なのだ。
オレも例に漏れず、彼に恋をしている。一方的な片思い。
だから、得意ではない飲み会にも一緒に行くし、一服したいと言うラーハルトにもこうして付き合う。己は吸いもしない癖に。ただダラダラと彼と話す時間は至福そのものなのだ。ラーハルトの指は長くて綺麗で、その指が煙草を弄ぶ様は嫌味なほど絵になる。オレはそれを見るのが好きだった。
「ラーハルトこそ、今日はどうした?飲み会の後、誰も一緒じゃないなんて。ちょっと良い雰囲気になった女の子、居ただろ?」
はっきり覚えている。それを遠目に眺めて己は今日、いつになく酒を煽ったのだから。
「まぁな、だがフラれた」
「珍しい。百発百中の男が」
「そうでもないさ。喫煙者は嫌われる。キスすると煙草の味がするのが嫌だと」
今夜は美しい満月で、夜でも彼の顔がはっきり見えた。肩をすくめて笑うラーハルト。
アルコールでふわふわと霞む思考。彼がフラれたのを喜んでいる薄暗い自分。
ダメだ。こんな夜は心が溶けてあふれてしまう。
ぽろりと口から本音が溢れた。
「オレなら、煙草、平気だけどな」
「ふぅん、じゃあ、ヒュンケル」
ー試してみるか?
それは多分、ただの好奇心。
けれど、彼の形の良い唇から紡がれたその言葉に抗えるはずもなく。
オレは小さくコクンと頷いた。