富永前院長夫婦T村診療所へ行く。新幹線とバスを乗り継ぎ、富永前院長夫妻訪れたのは長閑な山に囲まれた村であった。
持たされた地図を頼りに舗装されていない畦道を歩く。周りは木々や田畑ばかりで目印になるようなものが何もなかった。メモの端には「分からなかったら名乗ってからすぐ人に聞く事」と書かれていた。お前は親を何だと思っているんだと思ったが、なるほど奥まった場所にあるという診療所まで辿り着くのは少々骨が折れる。
早速進太郎は畑で作業していた中年の男性に声をかけた。最初は訝しんでいた男性も「以前赴任していた富永研恵の父です」と告げるとパッと警戒心を解いて「おお、富永先生の!娘さんには本当に世話になったよ」と返される。役に立っていたようなら何よりである。
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