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    hyouga0207

    @hyouga0207

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    hyouga0207

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    なんか、思ったのと違う結末になったんですけど、ハッピーエンドだからいっかな!って思いました。良かったらどうぞ。CQL忘羨妄想

    幸せ、とは「魏先輩には、このこと話すなよ」
    物陰に隠れるようにして、真っ白な衣を纏った若い弟子たちが頷き合う。
    皆一様に額には抹額をつけ、同じ世家であることが知れた。
    「誰に何を話すなって?」
    不意に頭上から聞こえてきた声に、誰もが肩を竦めて声の出処を探った。
    「魏先輩……」
    「なんだなんだ。人をお化けか何かみたいに。で? 何を隠してるんだ?」
    「こればかりは、お教えすることはできません!」
    そう言うやいなや、弟子たちはすぐさま姿を消した。
    走ってはならないという教えであるにも関わらず、逃げ足のなんと速いことだろう。
    魏無羨は関心しながら、木の上に座り直した。
    「俺には教えられないこと、か」
    そう言われると知りたくなるのが人と言うものだろう。
    魏無羨はニヤリと笑って、次の瞬間には軽やかに木から駆け下りた。
    「さてと? まずは、景儀でも捕まえて……」
    思案しながら歩いていると、おあつらえ向きに藍景儀が先を歩いていた。
    魏無羨は足音を忍ばせて藍景儀へと近付いた。
    そうして、手が届く範囲に到達したタイミングで、藍景儀に声をかけた。
    「景儀!」
    「わっ魏先輩、驚かすなよ」
    「ははは。なぁ、お前にちょっとばかし聞きたいことがあるんだが」
    「魏先輩に何を聞かれても俺は答えませんよ」
    そう言って口を両手で覆うものだから魏無羨も考える。
    「お前の口を割るのは簡単さ。だが、俺は手荒なマネはしたくないんだ」
    言ってる意味が分かるな? と脅してみせるが、藍景儀は頑として口を割らなかった。
    「皆して俺にだけ秘密とは」
    「仕方ないじゃないですか。あんたと含光君には仲良くしていて貰いたいって皆思ってるんですから」
    「へぇ」
    それは初耳だな、と魏無羨は笑う。
    ついでに、と藍景儀の首に腕を回して締め付けつつ、「お前が落ちるのが先か、口を割るのが先か、楽しみだ」と歯を見せる。
    「苦しっ! うっ……!」
    バシバシと腕を叩く藍景儀だが、魏無羨の腕は緩まない。
    「言えよ。何を隠してるんだ?」
    「魏先輩!」
    遠くから呼ぶ声に、魏無羨は振り返る。
    そこには藍思追の姿があった。
    「景儀、何をしたんだ」
    「まるで俺が先に何かしたみたいに言うのやめろよ! 今日は魏先輩から仕掛けて来てるんだぞ!」
    「魏先輩、何事ですか」
    「お前らが皆揃って俺に隠したいことが何かと思ってね」
    魏無羨がそう言うと、藍思追は藍景儀をちらりと見た。互いに頷き、何事かやり取りを交わす。
    「魏先輩。もしどうしても、知りたいとおっしゃるなら、魏先輩にも覚悟してもらう必要があります。魏先輩が傷つくのではないかと皆心配しているんです」
    「俺が傷つく、ねぇ……藍湛絡みで俺が傷つくとしたら、藍湛に重い病が見つかった場合とかなら可能性はあるな」
    「……とにかく、我々の口からは何も申し上げられません」
    藍思追は苦笑しながら魏無羨の腕の中にいる藍景儀を引き取った。
    「じゃあ、もう直接藍湛に聞くよ」
    そう言って、魏無羨は藍忘機の居る蘭室へと足を向けた。藍思追と藍景儀は拱手をしてその場を去った。

    □□□

    「おーい藍湛」
    呼びながら部屋の中を見渡す。
    藍忘機は講義前の準備中だった。
    「魏嬰?」
    何か用向きか? といつもの様に話す姿には重い病の様子は無い。魏無羨は藍忘機に「少し良いか?」と小首を傾げて尋ねた。
    「構わぬ」
    「なぁ藍湛。最近変わったことがあったか?」
    「変わったこと?」

    藍忘機は心当たりが無い様子で首を傾げた。
    「皆が俺にお前に関わることで隠していることがあるらしい。お前までとぼけるつもりか?」
    「……特に変わったことは無い」
    藍忘機はなんの事かまるで分からないらしい。
    「皆が言うには、それを俺が知ると俺が傷つくんじゃないかと思ってるらしいぞ」
    「……」
    藍忘機はその時、視線を僅かに背後へと流した。
    魏無羨はそれを見逃さず、藍忘機の横をすり抜けると、置かれている教材の中に立派な装丁の冊子を発見した。
    「……釣書……なるほど、そういうことか」
    「今に始まったことではない」
    「俺が居たら、見合いどころじゃないもんな」
    そういうことか、と魏無羨はもう一度呟く。確かにこれは俺の所在が無くなるな、と魏無羨は思った。
    「……気に入る者が現れたら、俺はあの家を出ればいいか」
    「魏嬰、そのようなこと」
    「だってそうだろう。俺たちはただの……知己だ」
    赤の他人で、俺は居候だ。
    魏無羨はなんでもないことのように言おうとして失敗した。
    どうあっても苦々しい響きになってしまう。
    「魏嬰、あの家に居たいと思ってくれるか」
    「……そりゃあ、天下に名だたる含光君が俺の世話を焼いてくれるんだし、居心地が良いんだ。出ていきたいとは思わない。でもな、同時にいつだって出ていけるさ」
    お前が幸せになる為なら、身の置き場は別にどこであっても問題は無い、と魏無羨は藍忘機の顔を見ずに答える。
    「どこにあっても良いのなら……私の隣でも問題は無いだろう」
    「でもお前が婚姻を結ぶってんなら、俺はあの家には居られないぞ」
    暫し、藍忘機と魏無羨は互いの考えを見極めようと押し黙った。
    「…………ならば」
    藍忘機が何事か決めたように顔を上げて口を開いた時だ。
    「失礼します」
    含光君、と拱手をしたのは座学を受けに来た他家の子供たちだった。
    魏無羨は「もうそんな時間か。俺はここでは邪魔だな」と言って部屋を出て行こうとする。
    他家の子供たちは、魏無羨だ! 本物? と目を輝かせている。
    「待て」
    藍忘機の凛とした声に、誰もが藍忘機を見た。
    「魏嬰、今日はお前に伝えておきたいことがある」
    だから、静室で待っていて欲しい、と、いやに真剣な顔で告げられた。
    「ああ、分かった」
    講義頑張れよ、と言って魏無羨は蘭室を後にする。
    その時を最後に、魏無羨は雲深不知処から姿を消した。

    魏無羨が姿を消したことには、実は直ぐに気が付いていた。
    魏無羨の通行玉令は藍忘機が与えたもので、結界を出入りすれば知らせが届く。藍忘機と揃いの玉令は、魏無羨が外に出たことを知らせるように赤く光った。
    単に酒を買いに出かけたのだろう、と特に深く考えもせずに、藍忘機は座学にて教鞭をとっていた。
    そうして、執務すら終わる頃になっても通行玉令に何の反応も無いことに、不意に不安が過ぎった。
    魏無羨が戻ってくる際に門を潜れば、通行玉令は青く光る。その光はまだ見ていない。赤い光しか見ていないということは、まだ戻っていないということだった。
    藍忘機は手元にある書類を手早く片付けると、サッと立ち上がった。
    外に出ているのなら、外を探すしかない。
    藍忘機は山門を下り、ふと小脇にあるはずの姿が無いことを知って愕然とした。
    山門の途中には驢馬を繋いでおくための小屋があるが、そこに驢馬の姿が無いのだ。
    魏無羨はその驢馬を「林檎ちゃん」と読んで可愛がっていた。
    仙督に藍忘機が就任する前後で魏無羨は一人旅に出ており、その際にも連れ歩いていたその驢馬ごと、魏無羨の姿が無い。
    その事実は藍忘機をさらに不安にさせた。

    何も告げずに居なくなるはずが無い、と思う自分と、魏嬰ならやりかねない、と思う自分がいる。
    藍忘機は嫌な予感を抱きながら山門を潜った。

    通行玉令は、霊力を流せば呼応するようにもう1つの玉令のある方向を光が指し示す。
    藍忘機はすぐに霊力を込めた。
    と、光の方向は道の先。
    足を進めながら、藍忘機は何度か霊力を注いでは方向を探った。しかし、藍忘機の足はとある場所でぴたりと止まる。
    目の前のいっとう大きな幹の木の枝に、通行玉令が引っかかっていたからだ。
    「何故……ここに……」
    場所は藍忘機の目線の高さに来るためとても目立った。
    引っ掛けるには高すぎて、落としたにしては目立ちすぎたその通行玉令を手に取り、藍忘機は低く呟く。
    「置いて……行ったのだな……」
    藍忘機は日が沈む山を見上げながら、奥歯を噛み締めた。
    (絶対に見つけ出して問いたださねば)
    何故、私の前から姿を消したのか。
    藍忘機は久しぶりに、腹の底から怒りが沸くのを感じていた。

    魏無羨が雲深不知処から姿を消した。
    その情報は極秘扱いとされた。
    夷陵老祖として恐れられていた当時、数多の命を奪ったとして恨みを買っている事実がある手前、魏無羨が雲深不知処を出たとあれば危険が及ぶ可能性もある。それ故に、仙督自ら箝口令を発した。
    魏無羨を無事に見つけるために。
    魏無羨の行きそうな場所には藍家の内弟子と共に手分けして向かった。しかしなかなか見つからない。
    思えば、3ヶ月ほど所在が掴めずに居た時期もあったな、と藍忘機は思い出す。
    (魏嬰、お前は今、どこにいる……)
    魏嬰のことだ。野宿も厭わず、雨風も気にしない節がある。きっと逞しく過ごしているだろう。
    それでも。
    (どこでも良いならば、何故私の隣ではダメなのだ)
    それだけは、理解できなかった。

    □□□

    雲深不知処を出て、1週間。
    適当に街を渡り歩き、訪れたことのない小さな村に身を寄せていた。
    きっと藍忘機は魏無羨を探すに違いない。
    そう考えて、魏無羨はあろう事か姑蘇藍氏の外衣を持ち出した。『これで黒い服を着て驢馬を連れた仙士』では無くなる。そうすれば、少しくらい時間が稼げそうだと魏無羨は考えた。
    雲深不知処を出たのは、少しだけ1人で考えたいことがあったからだ。
    真っ白な服は落ち着かない上に汚れも目立つ。魏無羨にしては珍しく、服が汚れないようにと最新の注意を払って生活していた。中衣はいつもの赤だ。
    体に染み付いていた藍忘機と揃いの香りももうしなくなっていた。
    (藍湛、怒ったかなぁ)
    もしかしたら怒らないのでは。いやいやそんなことはないだろう。
    魏無羨の頭の中は何故か藍忘機のことでいっぱいで。急に居なくなったら探すだろうから、と魏無羨は敢えて出ていったことを知らしめようと通行玉令を目立つ場所に括り付けてきた。
    戻るつもりは無い。
    そう意思表示をしたかった。
    (たった一日で、もう戻りたくなってしまうとは、思わなかった……)
    あの男が傍に居ないとこんなにも心がザワつくものか。
    魏無羨は大きなため息を零した。
    無一文ではあったが、伊達に一人旅をしていない。
    六芸に秀でた男は、割と日雇いの仕事であってもこなすし、なんなら一曲酒楼の2階で笛を披露してやれば、客寄せにも貢献できるため店からお小遣いをもらうこともできる。
    魏無羨はそうやってその日暮らしを続けていた。
    (あまり一所にいるのは良くないよなぁ)
    そう思ってはいても、直ぐに雲深不知処から遠く離れた地に向かうのも躊躇われ。
    (恐らく、未練、だ)
    雲深不知処から離れ難い気持ちがあるから、遠くに行く気になれない。
    魏無羨はそう結論付けている。
    「さて……どうしたもんかな」
    風の噂はどうしたって早い。
    既に『白い服で笛のうまい驢馬を連れた旅の男』という情報はこの村全体に伝わっている。
    すぐに次の村へ移らなければ。
    魏無羨は、荷物をまとめると村を後にした。

    さらに2週間。
    魏無羨は3日ごとに村を転々と移動していく。今のところ姑蘇藍氏を見かけることは無いし、むしろ姑蘇藍氏が旅立った後に訪れることが多いくらいだった。
    あなたと同じ服装の方々が来ましたよ、と宿の女将が教えてくれる。
    (なるほど。それならここには暫く来ないだろう)
    魏無羨を探しに来たというのなら、そうそう1度探した場所に再び来るはずはない。そう思った魏無羨は意気揚々と笛を奏で、日銭を稼ぎ、不自由しない生活を送る。日に日に増していく寂しさは、段々と魏無羨の笑顔を奪うが、少しずつ一人の生活にも慣れて来た。
    適当に、村の人々へ愛嬌を振りまいて、いつもの様に笛を口元に当てると、一人の男が笛を指さし口をあんぐりと開けた。

    「黒い笛……赤い房!!」

    魏無羨は訝しげに男を見ると、男は慌てたようにその場を離れてしまった。
    (一体なんだ?)
    不思議に思って男の走り去った方角を眺めていると、村の娘が笛をせがむ。
    「ねえ、早く吹いて聞かせて」
    「ん? あ、ああ。それでは一曲」
    にこり、と笑って笛を奏で始めれば、村の人々が集まってくる。
    うっとりとして耳を傾けてくれる者も少なくない。

    そうして何曲か披露した後、村人に別れを告げて宿に戻ることにした。
    宿へ戻る道すがら、人通りが無い道を歩いていると、先程走り去った男が再び現れた。その男の目は血走り、手には鉈(なた)を持っている。
    「貴様、夷陵老祖だろう!」
    (ははーん。なるほどな。こいつは夷陵老祖に恨みがあるのか?)
    「お前は夷陵老祖に何か恨みでも?」
    「夷陵老祖は復活してはならなかった!再び悪は地に眠るべし!」
    男の合図で複数名の男たちが武器を片手に現れる。
    「ふむ。なるほど」
    (民間人が8人……大したことはない)
    男たちが叫びながら突っ込んでくるのをいなして躱しながら、魏無羨は懐から目くらましの呪符を投げる。
    火の蝶が男達の顔の周りを飛び回り、魏無羨から一瞬気がそれたのを見計らって、魏無羨は男達へ次々と掌を打つ。
    あっという間に、魏無羨以外誰も立っている者は居なくなった。
    (やれやれ……笛で夷陵老祖だと思うとは。この笛も有名だなあ)
    くるくると笛を回しながら魏無羨は溜息をつく。
    (この村には来たばかりだったが……場所を移ろう)
    一部の人間からは命を狙われているのだと、今更ながらに思い出しながら、魏無羨はゆっくりと歩き出す。
    (久しぶりに野宿でもしようか)
    山を超えれば、姑蘇藍氏のお膝元から外へ出る。魏無羨は一度雲深不知処のある方角を見遣り、そして背を向けた。

    □□□

    「白い服で笛を奏でる驢馬を連れた男」
    その噂は、些細なこととして片付けられており、藍忘機の耳に入ったのは、魏無羨が居なくなってから一月後だった。
    「白い服……」
    藍忘機は、それからというもの白い服を着た笛の男の噂を聞けばすぐに噂の村へと足を運んだ。
    不思議なことに、噂の出処はすべて姑蘇藍氏の領地内だった。
    魏無羨が姑蘇から離れていないとは藍忘機には信じられなかったが、一縷の望みをかけ仙督の仕事をこなす傍ら、時間が空けば寝る間も惜しんで探した。
    足を運んだ村で該当する者には会えず、日々が過ぎていった。
    時には藍啓仁に酷く叱責され、平手で打たれもしたが、藍忘機は諦めなかった。そんな藍忘機を見て、藍啓仁と藍曦臣は言葉を失った。ああ、またあの頃の藍忘機だ、と。諦めにも似た心地で藍忘機を見ていた。
    16年、まるで生きたまま死んでいるかのように、しかし諦めることもなくいつまでも彼の者の背中を追っていたあの頃の藍忘機がそこに居た。

    浅く眠り、目覚めればすぐに外へ探しに行き、戻れば仙督としての業務を完璧にこなし、再び外へ。その繰り返しは藍忘機の体を酷く酷使するものだったが、藍忘機は周りの忠告に一切耳を貸さなかった。
    紙のような白さを通り過ぎ、青白くすら見える顔色の藍忘機は、いつ倒れてもおかしく無いだろうと思われた。
    無情にも時は流れ、さらに10日が経ち、その日は日差しが強く猛暑だった。
    常と同じように、ほぼ眠らずに村へと急いだ藍忘機は、村に着くなり膝を着いた。
    「……っ」
    視界が回り、立っていることすらできない。酷い吐き気もある。
    藍忘機は視界が暗くなっていくのを感じた。
    (ああ、まずい)
    藍湛っ! と遠くから魏無羨が己を呼ぶ幻聴を聞いた気がしたのを最後に、藍忘機の意識は途切れた。

    次に目覚めた時、そこには見知らぬ天井があった。
    (ここは……)
    よく眠った気がする。やけにスッキリとした頭でゆっくりと体を起こす。
    「……」
    そっと額に触れる。抹額はしっかりと絞められたままだった。
    「そこに居る者、出てこい」
    「……さっすが、含光君」
    入口脇で息を潜めている者を呼べば、そこに居たのは真っ白な服に黒い笛を携えた男だった。
    顔につけた仮面には、酷く見覚えがあり、藍忘機は息を飲んだ。
    「……夢、か……?」
    「夢じゃないぞ。まったく何をしてるんだお前は。まさか行き倒れるなんてな」
    「……魏嬰……っ!」
    寝かされていた床榻から踏み出した途端、藍忘機は倒れ込んだ。足に力が入らない。
    まったくもって、格好がつかない状態だったが、藍忘機はそんなことには構って居られなかった。
    倒れ込んだ藍忘機を見て、慌てたのは魏無羨の方だった。両手を差し出して藍忘機を受け止め、2人揃って床に膝を着いた。
    「危ないだろう!」
    「魏嬰……魏嬰……」
    掻き抱くように藍忘機の腕の中に閉じ込められて、魏無羨は驚きの余り二の句も告げない。ふわりと香る藍忘機の香りに、酷く安堵してしまった。
    「何故……私を置いて行った……」
    震えた声で絞り出すように話す藍忘機など、これまでに見たことがなかった魏無羨は、身動きすらできなくなった。
    「もう、私の前から勝手にいなくなるな……」
    震える藍忘機の腕が、魏無羨に抵抗を許さない。
    戸惑いながら、魏無羨も両手を藍忘機の背中へと回し、ゆっくりと撫でた。ずいぶんと痩せてしまったな、と魏無羨は思う。
    「魏嬰答えろ」
    「藍湛……」
    「何故だ」
    「……」
    魏無羨は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。
    「……お前の幸せを、邪魔しないためだ」
    藍忘機は魏無羨の肩を掴むと、その顔を覗き込む。
    仮面に隠され、魏無羨の表情は判然としなかったが、口元だけは緩やかに弧を描いていた。
    「含光君。どこに居ようと、俺は俺だ」
    離れたからといって、何も変わりはしない。この知己という関係すら。
    魏無羨の言葉を、藍忘機は理解したくなかった。
    「俺を理由に婚姻を断るな。お前はお前の幸せを掴め。俺が居たら邪魔になるだろう」
    訥々と語る魏無羨に促されるまま、床榻へ腰掛け、2人は腕1本分の距離を取った。
    その距離が、縮まることはない。
    「魏嬰……」
    「まったく……なんて顔してるんだ」
    「……わた、しは」
    「お前丸一日寝てたんだぞ。まだ本調子じゃないだろう。迎えを頼んだから、藍家の人が迎えに来るまでゆっくり休むといい」
    そう言って、魏無羨はくるりと背を向けた。
    藍忘機は魏無羨の明確な拒絶を感じ取って、一言も声をかけることはできなかった。

    □□□

    空を眺めていた魏無羨の視界に藍忘機が御剣して入ってきたのは、偶然に他ならなかった。
    そのまま眺めていると、さほど離れてはいない場所に藍忘機は降り立ったようだった。
    遠くからでも良いから久しぶりに姿を見たいと思った魏無羨は、すぐに木の影に身を潜ませて藍忘機の姿を盗み見た。しかし、藍忘機は膝を着いて片手で顔を覆っている。その顔色は青ざめており、ぐらりと体が傾いだと思った次の瞬間にはドサリと鈍い音が響いた。
    「藍湛っ!」
    叫んで、服が汚れるのも構わずに膝をつき、藍忘機を抱き起こした。
    藍忘機の呼吸は浅く、脂汗が浮かぶ。
    顔色の悪さも酷いものだったが、藍忘機の目の下のクマも見たことが無いほどに黒い。
    魏無羨はすぐさま藍忘機を背負い、半ば引きずりながら村へと足を向けた。
    村人に手伝ってもらいながらどうにか魏無羨の泊まる宿の一室に運び込んだは良いが、同じような服装だからという理由で同じ部屋にされてしまったのはまずかった。
    藍忘機を見てからというもの、魏無羨は口元が緩むのを自覚した。まったくなんと不謹慎なのだろう。
    「藍湛……なんでこんなに弱ってるんだよ」
    仙督という役職はそんなにも忙しいのだろうか。藍忘機のすぐ側に椅子を置いて腰掛け、魏無羨はそっと藍忘機の首筋に手の甲を当てた。
    「熱は、無さそうだ」
    まつ毛が作る影は色濃く、藍忘機の彫像のような印象を強くする。目の下のクマをなぞるように親指で撫でてから、魏無羨はため息をついた。
    (まともに寝ていないんだろう。だから倒れるんだ。起きたら叱ってやろう)
    そんなことじゃ体を壊すぞ、と。普段は言われっぱなしとなっていたセリフを藍忘機に言い返す日が来るとは。少しだけ嬉しくなってくつくつと笑う。
    魏無羨は暫く藍忘機の寝顔を見つめていたが勝手に雲深不知処を出てきた手前、藍忘機にどのような顔をして会っていいものか分からないことに気付いた。
    (姑蘇には手紙を出した。早ければ明日か明後日には迎えが来るだろう。それまで、どうにか……あ。いい物があるじゃないか)
    魏無羨はとある物を持っていることを思い出し、数少ない荷物の中から細かな装飾の施された仮面を取り出した。
    (またこれをつける日がくるとは)
    今日は意外な事ばかりだ。
    魏無羨はそう思いながら仮面をつけた。
    これで表情は読み取られはしない。
    藍忘機が目覚めたら、最初に何から話そう。魏無羨はつらつらと言い訳を考えながら、藍忘機の寝顔を見つめていた。そうして丸一日が経ってから目覚めた後の藍忘機の様子に魏無羨は始終戸惑っていた。
    (藍湛のやつ……力いっぱい掴んだな。肩が痛いよ)
    震える声、泣きそうな顔をした藍忘機に、魏無羨は困り果てた。
    怒るならまだしも、泣きそうな顔をされるとは思わなかった。
    藍忘機のむき出しの感情など初めてのことで、どう対処して良いものか分からない。よく回る頭は、今日に限って慰めの言葉一つ思いつきもしない。
    藍忘機が再び起きる頃合を見計らって、魏無羨は食事を藍忘機のもとへと運んだ。陽は傾き、差し込む光は橙色だった。
    「藍湛、食欲はあるか?」
    「……ない」
    「食べないと元気にならないぞ」
    「……ならなくとも良い」
    「えっ! 何を言い出すんだ」
    藍忘機は、ふい、と視線を逸らすと魏無羨の姿を見ようともしない。そんな態度に衝撃を隠せず、魏無羨は手持ち無沙汰に粥を蓮華でかき混ぜた。
    「いい匂いだぞ」
    「……」
    「お前、暫くまともに食事もしてなかったんだろ」
    「……うん」
    「流石の俺でもお前の痩せ方には驚いた」
    「……そうか」
    「ほとんど寝てもいないようだし」
    「……」
    「そんなに仙督って忙しいのか?」
    そこで初めて藍忘機は魏無羨を見た。咎めるように睨まれて、魏無羨は戸惑う。
    「な、なんだよ」
    「……いや」
    「まぁいいや。ほら、ひと口だけでも食べろよ」
    「いらぬ」
    「……藍湛」
    「……」
    「藍忘機」
    「……」
    「藍の二の若様ー。藍二哥哥?」
    「……」
    完全に無視されると、それはそれで魏無羨にも考えがある訳で。
    「藍湛、あーん」
    そう言って匙を出すとチラリと視線だけが「何の真似だ」と問うてくる。
    仮面越しの魏無羨はほくそ笑んでから、もうひと押しした。
    「食べないなら無理やり口に突っ込むぞ」
    「お前も共に食べるなら、私も食べる」
    そうでなければ食べる気は無い。そうキッパリ答える藍忘機に、魏無羨は苦笑した。
    「頑固だなぁ。相変わらず」
    食事を持ってくるよ、と魏無羨は席を立った。
    藍忘機が物言いたげにじっと見つめていたが、魏無羨は振り返ることはしなかった。

    食事の間中、藍忘機はじっと魏無羨を見ていた。
    魏無羨は居心地の悪さを感じたが、見つめられる理由はおそらくこの仮面だろうと分かっていた。
    何故仮面をつけたままなのか、と藍忘機に思われている。久しぶりに会ったというのに、知己は顔すら見せてくれない。そう咎める視線だ。
    藍忘機は家規を守り、食事中は喋らない。それが無ければ、もうとっくに尋ねられているだろう。
    「なんだよ含光君」
    そんなに見られると食べにくいじゃないか、と魏無羨が言うと藍忘機は箸を置いた。
    「魏嬰、共に帰ろう」
    「帰らない……帰りたくない」
    「私が嫌になったか」
    「違う!」
    存外大きな声を出してしまい、魏無羨は口を噤んだ。
    「静室が、嫌なのか」
    「含光君、言っただろう。お前が婚姻を断る理由に俺を使ってくれるな。俺が住んでるせいでお前が婚姻も結べないなんて俺には耐えられない」
    藍忘機は小首を傾げ「私はお前を理由に婚姻を断ったことなどない」とキッパリと告げた。
    魏無羨は眉尻を釣り上げ、じゃあ、と声を荒らげた。
    「何故お前は釣書を貰っても全部断っているんだ。俺はお前にそんな話が来ていることも知らなかったし、そうと知っていればもっと早い段階で行動を起こしていたさ。それに、どうしてお前はそんな状態になってるんだ。この2ヶ月、まともに寝ていないのか?」
    「私は婚姻する気が無い。無理にするものでは無いし、何より、お前に誰よりも傍にいて欲しい。お前が出て行ってから、昼夜を問わず時間があればお前を探していた。今日は、たまたま暑さにあてられたのだと思う」
    魏無羨は乾いた笑いを漏らす。
    酒をひと口飲んでから、小さく呟いた。
    「そんなになるまで俺を探すなんてどうかしてるぞ。それにもし、俺がずっとお前の傍に居たとして……お前が婚姻したら俺はどうやっても邪魔だろう」
    そうなった時、俺はどうすれば良い。
    魏無羨は藍忘機の目の前にある湯のみに茶を入れながら再度尋ねた。
    「なぁ。どうしたらいいんだ?」
    「魏嬰。前提がおかしい」
    茶をひと口飲んでから、藍忘機は言う。
    「私は、婚姻は結ばない」
    「なんでだよ……お前、お前は仙督だろ?跡継ぎだって必要で……」
    「仙督だから跡継ぎが必要とはならない」
    それは、別物として考えるべきだ、と藍忘機は言う。
    魏無羨は唇を尖らせた。
    「お前がそう考えていても、叔父さんとかは納得しないだろ」
    「……」
    「それに、共に在れば芽生えるものもあるだろ」
    魏無羨は酒を飲みながら、藍忘機を真っ直ぐに見つめた。
    藍忘機は俯く。
    (どうすれば伝わるのだろう)
    傍にいて欲しいのも、傍に居たいのも一人だけ。別の誰かとの婚姻など考えたことも無かった。
    「私は」
    「うん」
    「魏嬰が傍に居てくれれば、それでいい。反対する者は時間をかけてでも説得する」
    「全くもって理解できないな。どうしてそこまで……いずれにしても、俺にも考える時間が必要だ。もう少し考えたい」
    「何を考える?」
    そう問われ、魏無羨は口を開いては閉じてを繰り返した。藍忘機に見つめられ、じわりと頬が熱くなる。
    (お前の傍に居るための理由を考える、なんて自分で出て行ったくせにどの口が言うんだ)
    「……俺の、幸せについて、だ」
    ようやくそう呟いて、魏無羨は酒を浴びるように飲んだ。藍忘機は膝の上に置いた拳を眺めながら「そうか」と呟いた。
    「藍湛、食べたらもう少し寝ておけ。まだ顔色が悪い」
    会話を進めるうちに悪くなっていく顔色を見て、魏無羨はそう提案する。藍忘機はただ、頷くだけだった。

    藍忘機は眠っている。
    その寝顔を少し離れた場所から眺めて、魏無羨は考える。
    幸せとはなんだろうか、と。
    (藍湛の傍に居られるなら、これ以上の幸せは無いだろうな)
    頭ではそう結論を出した。
    それでも雲深不知処に戻る理由にはならず、魏嬰は溜息をついた。
    (身を粉にして探してくれてたのは、嬉しかったな)
    藍忘機だけは、不幸にしたくなかった。
    これまで大切に思っていた相手は、魏無羨のせいでことごとく不幸になった。
    (まだ間に合う。俺が藍湛から離れれば、全て丸く収まるんだ)
    共に在りたい、と願う心に蓋をして。
    これまでの思い出を小さな箱に詰めて鍵をかけ、時折開けて懐かしむ。その程度に留めておかなければ。
    魏無羨は一人でも生きて行けると考えていた。顔を見れば離れがたくなることを分かっていて会いに行ってしまった自分自身を呪う。
    (もう、会わない。今回で会うのは最後にしよう)
    雲深不知処から迎えが来れば藍忘機は帰る。笑顔で見送って、また場所を移り、消息を絶つ。
    魏無羨は一つ頷くと、陳情笛を腰に挿して屋根へと上がった。
    風の心地よい夜だ。昼間の暑さはなりを潜め、過ごしやすい気温にホッと息を吐いた。
    魏無羨はそっと口笛を吹きながら屋根の上をゆったりと歩く。口笛で奏でるのは藍忘機との思い出が詰まった大切な曲だ。気ままに吹いて、吹き終わったところで屋根に座り込む。
    「魏嬰」
    声が聞こえて首を巡らせると、藍忘機が屋根に上がって来たところだった。
    「こんなところに上がるな」
    「人のこと言えないだろ」
    「……探した」
    「ん?また居なくなったと思ったか?」
    「うん」
    「……よく見つけたな」
    「口笛を吹いていただろう」
    「聴こえたのか。良い耳をしてる」
    部屋の中まで聞こえるとは思っていなかったよ、と魏無羨は言う。2人並んで屋根に座り、暫し無言で月を見上げた。
    「寝ないのか。いや、もう寝すぎて眠れないか?」
    「……時間が」
    「うん?」
    「時間が、足りぬ」
    「何のだよ」
    お前と話す時間だ、と藍忘機は真っ直ぐに魏無羨を見た。一瞬ドキリとして、魏無羨は視線をさ迷わせた。
    「話なんか、さっき十分しただろう」
    「……私は、お前を雲深不知処へ連れ帰りたい」
    「それは平行線を辿る話だったろ」
    「お前が私を嫌わないのであれば、静室が嫌ではないと言うのであれば、私がすることは一つだ」
    「何をするって言うんだ?」
    魏無羨がからかい混じりにそう訊ねると、藍忘機は真面目な顔で答えた。
    「拉致、軟禁だ」
    「は?」
    「拉致……」
    「聞こえてる!一体どうしてそうなった?!」
    「……私の言葉を、お前が信じないからだ。婚姻を結ぶつもりは無い」
    嘘はつかぬ、と藍忘機は真面目な顔をして言うものだから、魏無羨は困り顔だ。
    「頭が固いやつだと思ったがまさかそんな考えに至るとは」
    「どうする。私はお前を逃がす気は無い」
    「……それでも、簡単にうんとは言えないな。なんせ、拉致、軟禁だなんて……」
    魏無羨は口元が綻ぶのを感じていた。
    藍忘機が魏無羨への執着を見せる度に、何故だか嬉しくて堪らない気持ちになった。
    「魏嬰、お前は私の幸せを願ったな」
    「ああ」
    「お前が傍にいなければ、私は幸せになどなれない」
    「そんな訳……」
    「お前は、どうだ」
    お前の言う幸せとはなんだ、と藍忘機は重ねて問いかけてきた。魏無羨は困ったように笑ってから「一生を好いた相手と過ごせるのなら、幸せなんじゃないか」と答えた。
    「……お前は言ったな。共に在れば芽生えるものもあるだろうと」
    「言ったな」
    藍忘機は、むっとした顔で魏無羨を見た。
    何故分からないんだ?と言わんばかりの視線に、魏無羨は首を傾げた。
    溜息をついた藍忘機は、立ち上がると魏無羨の腕を強く引いた。
    「おわっ」
    いきなり引き上げられて驚く間もなく、少し屈んだ藍忘機の肩に担がれてしまった。
    「な、なななっ……」
    「黙っていろ。舌を噛む」
    藍忘機の顔は見えない。
    視界に映る景色は瞬く間に遠くなり、月だけが大きく見える。
    「いきなり御剣するやつがあるかよ」
    「大人しくしていろ」
    「この高さから落ちたら、一溜りもない。暴れたりしないよ」
    「魏嬰、私は怒っている」
    藍忘機は速度をあげて雲深不知処を目指す。進む方角から、魏無羨にも目指している場所は分かった。
    「お前を見つけたからには、もう離さない」
    「は……熱烈な告白みたいだな」
    「……お前は本当に理解していない。みたいではない」
    「は? あ、ちょっ……!?」
    藍忘機は魏無羨を横抱きに変えると、しっかりと魏無羨の顔を見た。
    「私の言葉を聞き、そしてよく考えよ」

    ーーお前に誰よりも傍にいて欲しい。
    ーー魏嬰が傍に居てくれれば、それでいい。
    ーー私は、お前を連れ帰りたい。
    ーーお前が傍にいなければ、私は幸せになどなれない。

    分からないか、と藍忘機が聞く。
    魏無羨は藍忘機の言葉をゆっくりと反芻し、理解するにつれ顔が燃えるように熱いと感じた。
    「正しく理解できたか」
    「お前、意地悪になったな」
    ぎゅ、と首元に抱きつく魏無羨を藍忘機は強く抱き締めた。
    「魏嬰、仮面を」
    「い、嫌だぞ!今お前に見せられる顔をしていない」
    「外して欲しい」
    「嫌だって」
    「剥ぎ取られたいか」
    「う……」
    何故そんなに顔を見たいんだ、とブツブツと文句を言いながら、魏無羨はしぶしぶ仮面を外す。
    月明かりの中でも分かるほど紅潮した魏無羨の頬に、藍忘機は笑みを浮かべた。
    「その顔はずるい」
    バクバクと心臓がうるさい。
    魏無羨は暫し藍忘機の顔を眺めていた。
    「魏嬰、雲深不知処だ」
    藍忘機に促されて、視線を向ける。魏無羨は、うん、と一つ頷いた。
    「……迎えに来てもらうはずだったのに。入れ違いになったと思うぞ」
    「お前が連れて行った驢馬を連れて戻って来るだろう」
    「色んな荷物を置いてきちゃったぞ」
    「回収させる」
    藍忘機は山門へと降り立つと、魏無羨を抱き上げたまま降ろそうとしない。
    「おーい。もう抱えなくていいんじゃないか」
    「私がこうしたい」
    「……っ……誰かに見られても知らないからな」
    「皆もう寝ている」
    「それに、この時間に門を潜るのは禁止されてないか」
    「罰は受ける」
    ゆったりとした足取りで、真っ直ぐに静室を目指して歩く藍忘機に、魏無羨はくすぐったいような気持ちを覚えた。
    「……魏嬰、こんな私は嫌いか」
    「うん?なんだ。今頃不安になったのか。これだけ無茶したのに」
    「……うん」
    しょぼくれた様子の藍忘機を見て、魏無羨は笑を零した。どうしてこうもこの男の行動は可愛いのだろう。
    「嫌いになんてならないよ」
    魏無羨の屈託のない笑顔に、藍忘機はホッとしたような表情を浮かべた。
    「あーあ。でも、これでお前は釣書が来ても簡単には受けられないぞ」
    「受けるつもりは無い。が、簡単に受けられないとは、何故?」
    「ふっ……俺が反対するから」
    「反対?してくれるのか」
    嬉しそうな様子の藍忘機を見て、魏無羨もまた嬉しくなる。どうやら魏無羨が藍忘機の婚姻を反対すると藍忘機は嬉しいらしい。
    「ああ!お前のことを幸せにできるような相手じゃなければ、断固反対だし俺は静室に居座るぞ」
    「そのような心配は無用だ」
    くすくすと笑って、魏無羨は藍忘機にもう一度抱きついた。
    静室に到着し、部屋の中に降ろされた魏無羨は、2ヶ月ぶりの静室を見回し、深く深呼吸した。
    「うん、帰ってきた」
    「おかえり」
    藍忘機に言われ、魏無羨は一瞬きょとんとした顔をしてから、すぐに破顔した。
    「ただいま!」

    □□□

    その日、魏無羨は藍忘機から一通の釣書を渡された。
    表紙を見た瞬間に渋面を作った魏無羨は、藍忘機を睨む。
    「おいおい。俺が戻ってまだひと月だぞ。もうお眼鏡にかなった奴がいるのか」
    泣くぞ、と言いながら魏無羨は釣書を開き、そのまま言葉を失った。
    「お前への、釣書だ」
    「……俺の」
    「うん……返事は、急がぬ」
    「藍湛!お前って奴は!」
    魏無羨は釣書を床に放ると、藍忘機へと飛びかかった。
    首に腕を回してしっかりと抱きつく。
    藍忘機は難なく受け止めながら、魏無羨の言葉を待った。忙しない鼓動は、果たしてどちらのものだろう。
    「藍湛。俺この話、受けるぞ!」
    「……本気か」
    「冗談な訳ないだろ!だって、これ……相手はお前じゃないか!断るなんて考えられない」
    「私で良いのか」
    藍忘機の問に、魏無羨はしっかりと頷いた。
    「お前が相手なら、喜んで」



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