魔法のツボ in道満「──もし、其処な御方。しばし、お時間頂けませぬか?」
「……きみ、なに?」
変テコな声がした。
日差しに焼けた砂浜。穏やかに打ち寄せる波。さくさくと浜辺を歩いていた少年は、呼び止められて顔を上げた。細くて小柄。年は十歳かそこら。肩で切り揃えた黒髪と澄みきった碧眼が、白い肌を彩っている。背中にはうっすらと透けた虫の羽が生えていた。
「ンンンソンン。これはこれは、大変お可愛らしい容姿でいらっしゃる。どうやら、『霊基ばぐ』なるものを起こしておられますな?」
少年の目の前にあったのは、壺だった。もう一度言おう。ツボである。半分砂に埋まった、茶色い素焼きの壺。あと、ちょっと不気味な声でしゃべる。
なぜか、ツボの口からはくるくるとした白や黒のゼンマイがいくつも這い出している。ゼンマイの先には小さな鈴がいくつもついて、ちりちりと音を立てていた。
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