🐑の心が読めるようになった👹「顔は死んでも隠すし、唇は血が出るほど噛むし、常に苦虫を潰したような表情でこちらを睨み付ける。イっても苦しそうな声が聞こえるばかりで本当に気持ちよくなれているのかもわからない。」
「それ、単純にヴォックスが下手くそだからじゃないの?」
隣でミスタがジュースを呑みながら呟く。
同期でこの類の話ができるのがミスタしかおらず、大抵の相談はミスタにしていた。
「この俺だぞ?何なら実践で見せてやってもいいが?」
「うへえ…それは死んでもお断りだけど、確かに経験の多いヴォックスが下手すぎるっていう線は薄そう。しかもちゃんとイってるんでしょ?」
「ああ……もしかして今アイツの想像したか?」
「してないしてない!!もーせっかく相談に乗ってるのにすぐ突っかかるんだから。」
そう言って、飲んでいたジュースを置くとパッと閃いたような顔をしてポケットから何かを取り出した。手のひらに乗るその小さな袋はどう考えても怪しい薬のそれだ。
「……一応聞いてやるがそれは?」
「ミカにもらったやつなんだよね、なんか飲んだら相手と自分とのコミュニケーションがスムーズにできるってやつ。よくわかんないけどミカの地元ではおまじないみたいなものなんだって。実際入ってるハーブも見る限り普通のハーブだし、本当に効くって訳じゃないみたい。」
「明らかに怪しすぎるんだが?」
「いやいや!せっかくの恋人との大事な時間だよ?できるものはなんでも使った方がいいって!」
オレもミカに「ミスタの言ってること本当に訳わからないから飲んだほうがいいよ!」って渡されただけだし。
重く考えず、まあダメで元々!使ってみなよとそのまま譲り受けてしまった。
確かに入っているものに特段変なものが入っていないことは分かる。プラシーボ効果のようなものだろう。
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「そろそろ寝るか?」
「もう一本映画見てから寝たい。」
「じゃあなにか飲み物持ってくるか」
「オレンジジュース」
「わかった」
冷蔵庫から飲み物を取り出してコップに注いでいるとふと目に入る先程のにらめっこの勝者。
不意にミスタの「ダメで元々!」という声がリフレインして、まぁ、やるだけやってみるか、自分に何かあったらそれはそれだ、とそのまま水で体内に流し込んでみる。
……特に違和感もなく、味もしない。
本当にただのハーブだったのか、と内心少し自分が落胆していること気づいて、ゆるゆると頭を振った。
「遅い、飲み物ぐらいすぐ持ってこいよ」
背後にファルガーの声が聞こえて、飲んでいたそれを隠すようにして振り返る。
「……文句を言うなら自分で持っていったらどうだ?」
「飲み物を持ってくることすらできないのか、これだから年寄りは。」
「クソガキは煽ることしか脳がなくて困るな。」
お互いキッチンで子供の喧嘩のように足で蹴り合いながら飲み物の準備をして、持っていこうとした時だった。
『苛立った声すらも、かっこいいな』
聞こえてきた声についグラスを取り落としそうになる。
は?今のはコイツの声か?この可愛げのない素直さの欠けらも無いサイボーグの声か?
「……?ヴォックス?」
「いや、なんでも、無い」
「ならいいが」
『様子がおかしい?体調でも悪いのか?』
もしかしたらコミュニケーションがしやすくなる、というのはこういうことか?多分今の声はファルガーの心の声、だと思う。
これはすごく、いいかもしれない。
「ファルガー」
「?……ッ!」
不意にグラスをそのままキッチンのダイニングにおいて、ファルガーの顎を捕まえて口付けた。その際にファルガーの持っていたグラスも取り上げて、同じように置いてやる。
「い、いきなりッ」
「ほら、口開けろ」
唇を舌で舐めて口を開けるように促すとうっすらと空いたその隙間に舌を入れてやる。
歯列をなぞり、粒を数えるように丁寧に舐め上げて粘膜と粘膜を擦り合わせる。突然の事に必死について行こうと舌を拙く動かそうとしているのが分かる。
『んっ……キス、きもちい。ヴォックスのキス、あたまがふわふわする、顔がいい、かっこいい、』
頭に流れ込んでくるそれに急速に理性が奪われていくのが分かる。
ピクピクと震えるファルガーの身体を押さえつけるように自分に引き寄せてより身体を密着させる。
こいつ、こんなかわいいことを思っていたのか。
________ああ、たまらない
ゆっくりと口を離してやるとその切れ長の目に甘い色とまだ足りないという色が点っている。
「なぁ、ファルガー」
我慢できそうにない。
ぶわわっ、と脳内に流れてくる言葉達が期待と欲の固まったそれで、それを褒めるかのように、滑らかな頬をゆっくりと撫でた。