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    n_kabosu

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    趣味に走ってます。モブが物凄く主張しまくる五伏前提モブ伏。

    #五伏
    fiveVolts

    初恋は実らないと申しますが・クロ 見つからない所へ行こうと思った。
     あの人の六眼は何でも見通せる。あの人の目でも見つからない場所に逃げようと思った――。

    「恵くん、今帰りかい?」
     柔らかな頬を緩ませて頭に頭巾を巻いた老婆が笑う。
    「はい」
    「そうかい、気を付けて帰るんだよ。ああ、よかったらうちの畑でとれたモロコシを持って帰り」
     そう言って老婆は皺だらけの手で俺の頭を撫でた。その優しい手つきに思わず目を細めると、老婆はさらに嬉しそうに笑った。
    「いっぱい貰った。これで夕飯には困らないな」
     両手に大量の野菜や果物を抱えて、木々に囲まれた坂を登っていく。隣ではクロがふさふさのシッポを振りながらトテトテと足音をたてついてくる。
     そんなクロに微笑みかけて同意を求める様に両手いっぱいの荷物を見せた。
     傾斜のキツい坂を登りきると、その先に赤い鳥居。その下を潜り更に奥へと行けば、小さな社が見える。
     半ば壊れ掛けの引き戸をガタガタと音をたてながら開くと、薄暗い土間で靴を脱いだ。
     土間から続く板張りの廊下を進み、一番奥にある襖を開けると、そこは畳敷きの小さな部屋だった。
     その部屋の先の縁側にポツリと腰掛ける後ろ姿に「戻りました」と声をかけた。
     その背中は俺の声にゆっくりと振り返ると、おかえり、と優しく微笑んだ。
     その笑顔に、俺はホッと胸を撫で下ろすと抱えていた荷物を下ろしてその場に座り込んだ。
    「下のオサキさんから色々もらって。南の甚兵衛さんにも」
    「おやおや、またいっぱい頂いたね」
    「お社さまによろしく伝えてくれと」
    「おやおや」
     嬉しいね。そう言って笑う長髪の男は、この社に住んでいる社様と呼ばれる男性だ。
     高専から出て、宛もなくさ迷っていた俺をこの社へと何も聞かず招き入れてくれた人――。

     五条先生とあんな事があってすぐに、俺は逃げる様にして高専を出た。家出と言えばガキのワガママに聞こえるかもしれないが、とにかくあの場所から……あの男の前から逃げたかったのだ。
     俺が消えた後、津美紀の事だけが心配ではあったがそれは定期的に電話で様子を確認して、入院費用も俺の預金を全て津美紀名義の口座に移すことで解決させた。
     逃げる場所には頭を捻った。とりあえず関東内は除外。すぐに見つかる。だったら、と向かったのは奈良だった。
     奈良はその土地の歴史もあり他の土地よりも遥かに呪いや呪力の気配が濃い。だからその気配に上手く紛れる事が出来れば俺の呪力を感知されにくいと思ったからだ。
     そしてふと立ち寄ったこの社でこの社様と呼ばれる男と出会ったのだ。
    『どうしたんだい? こんな場所へ君の様な子供が訪れるなんて珍しいね。神の従者まで連れて……本当に珍しい事だ』
     雨風を凌ぐ寝場を求めてこの社に入り込んだ俺に、男は開口一番にそう言って穏やかに笑った。
    『行く場所がないのであれば暫くここに住まうといい。ここには私しか住んでいないし、それに……君にもその子達にも居心地のよい場所のはずだよ』
    『どういう……意味だ?』
     その子達。男は俺の足元にある影を見つめてそう言った。
     影に住まう俺の式神達が、どうやらこの男には見えている様だった。
     それから俺はこの社で世話になっている。男の言った通り、ここは俺にとって居心地が良かった。呪いの気配は濃いものの、この社の中だけは何故か澄み切った空気で満ちていた。
     あの男の六眼でも、俺の呪力は感知出来ないくらい――……。
     この場所へ来て2ヶ月程たったか。どれくらいの時間が経ったのか、ちゃんとした時間はひと月経った頃くらいから曖昧になった。
     というのも、この場所は今どき珍しく全てが自給自足だった。店もない、電気も通っていない、世間から隔離された世界。集落……とでもいうのか。だから、時間の流れが遅い気がする。季節の移り変わりも曖昧だ。朝と夜がある事だけはわかるのだが、それがどんな風に変わっていくのかはわからない。
     ただ、一つだけ確かな事は、この場所には何故か人の気配がしない。その代わり獣の気配はする。
     野犬……いや、そんな生易しいものではない。もっと他の……。
    「恵くん?」
     名前を呼ばれて、思考の海から引き上げられる。瞳を瞬かせると、目の前の社さんが不思議そうに俺の顔を覗き込むようにしていた。
    「……すみません、少しぼーっとしてました」
    「日差しにやられたかい? 今日はいつもより暑いからね。夕餉まで部屋で休んでいては?」
    「いや、用意手伝います」
    「そうかい? 君が大丈夫なら……」
     言いながら男は手に持った湯のみ中を飲みきると、さて、と腰をあげた。
    「今日は蒸し野菜にでもしようか。クロは何が好きかな?」
     俺の隣でシッポを振るクロに、にこりと笑いかけて頭を撫でる。式神である玉犬を視認して触れられる。
     社様と呼ばれるくらいだからそれなりに力をもっているんだろうか? 玉犬も玉犬ですぐにこの男に懐いた。もしこの男が呪いの類いだとしたら警戒するはずだがそれもない。それに、この人には呪いの気配がない。いや……呪力はあるが、それはとても澄んだ気配がしていて、だからこそ余計に不思議だ。
     呪術師……では無いようだが。
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