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    カナト

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    カナト

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    「うっ、眩しッ!」
     久々に耳にする聞きなれた声に顔を向ければ、やはりそこには見知った人物がいた。
     眩しそうに目を眇めて、両腕でできる限り遮断しているようだ。が、しかし、その反応に誰もが不思議そうに首を捻っている。
     それもそうだろう、現在地、ファラザードは砂漠国家で確かに陽射しは強い。とは言え、それは魔界の中での話だ。魔界はそもそもとても暗い。
     視察という名目で訪れたアストルティアの方が余程陽射しも強かったし、彼女は世界各地を旅する熟練の旅人だ。この場よりも余程眩しい場所など沢山あるだろう。
     更に、ファラザード城は昼間であっても灯りを灯さなければいけないほどに薄暗いのだ。眩しい要素は皆無である。
     周りの人々は首を捻りつつ、各々の仕事へと戻っていく。元々謎の言動が多い人物なので、いちいちつっこんでいたら身がもたない。
     とはいえ、私と彼女との関係はいわゆる惚れた腫れたのもので、せっかく常に行方不明の彼女が訪ってくれたのならば、恋人としての時間を持ちたくなるのもまた真理である。
     持っていた書類も重くはなく、どちらかと言えば浮き足立ったような状態で少女へと近付けば、不思議なことに少女は余計に眩しそうに瞳を細めた。
     不思議に思い、背後を振り返るも眩しさなど微塵も感じない。眼帯で片目が塞がれているからとか、そんな次元ではない。
     少女は見えざるべきものが見える人物だ。それは霊であったり、思念であったり、重要ななにかであったりと様々だが、彼女の見る世界はさぞや賑やかなのだろう。今回もその可能性が高い。
     何故だろう、久方振りに会えて嬉しいはずなのに不思議と頭が痛い。
    「こ、こんにちはナジーンさん」
     最終的に持っていたらしいハートのサングラスをかける始末だ。可愛いが意味がわからない。
     サングラス越しにも私は眩しい存在らしい。未だに微妙な顔になっている。ぶっちゃけ不細工だ。が、あばたもえくぼで可愛いと思ってしまうのは末期だろう。
    「ようこそ、ファラザードへ。それで、眩しいのは私だろうか?」
     私の質問に少女は分かりやすく目を逸らした。細めているのにバレバレな視線とはなんぞや。
     なんとか取り繕おうとあわあわしている少女へダメ押しとばかりに近づけば、少女は観念したように諸手を挙げた。なおその目は完全に閉じられている。
    「…………ナジーンさんすっごく、キラキラしてるんです」
     キラキラという単語とは無縁の姿だというのに不思議なものだ。全身黒で固められた大男がキラキラ……なかなかにシュールな絵面だろう。
    「もちろん普段からナジーンさんは私にとって輝いて見えてますよ? もうエフェクトマックスでかかってるんですけど……」
     それは心のフィルターであって物理ではなかった、ということだ。
     恋する乙女フィルターは今現在も少女に分厚くかかっているらしい。こちらとしてはいつ剥がれるのかヒヤヒヤものだ。
     が、剥がれたとしてもう二度と手放してやる気はないのだが。
     薄目を開けてこちらの様子を伺いつつ、手を前に出して視界を遮っている、滑稽と言える挙動の少女。彼女を愛することになるなんて、過去の私は夢にも思っていなかっただろう。
    「とりあえず、悪いものではなさそうですけど餅は餅屋と言いますし、行きましょうか?」
     極限まで目を細めた少女の提案に、私ははてと小首を傾げたのだった。
     というか、餅は餅屋とはなんなのか。アストルティアの諺なのだろうが。
     少女はくるりと踵を返し、私を先導するように歩き出した。
     普段ならば横並びか、もしくは私が抱えあげることが多いのだが、空いてしまった距離感が少し悲しい。
     少女は迷うことなくファラザード城を出て、左の方に折れる。
     正面の大通りがバザール、右側は裏通りに続くが、左は主に居住区画のはずだ。
     戸惑っているうちに少女は階段を上って、一件の店に入った。
    「いらっしゃーい♪」
     楽しそうに声をかけたのは言わずと知れた問題児の一人、呪術師ネシャロットだ。
    「あれ? 大魔王殿と副官殿、お揃いでどうしたのー?」
     ニヤニヤと口元に胡散臭い笑みを履いて、ネシャロットは楽しそうにイヒヒヒと笑う。
     三つ子だというのにどうしてこうも性格が大幅に違うのか。共通項と言えば、全員怒らせると怖いことくらいだ。なお、手段の方向性はそれぞれ別方向である。
    「ナジーンさんがやたらキラキラしてて……」
    「えっ、ノロケ? ノロケに来たの?」
     そんなネシャロットを戸惑わせる少女とは。誇らしいようななんだか複雑な気分になってしまう。
    「違うの! 普段からナジーンさんはキラキラしてるけど、こんなに目潰しされる程輝いてない」
    「目潰し」
     どんな発光具合なのだろうか。我がことながら実に謎だ。
     ネシャロットも訳が分からないと言いたげな顔をして、私を矯めつ眇めつ眺めるが、やはり輝いて見えているのは少女だけらしい。
    「私の目は普通の人の目と違うからさ、なにかの呪いとか魔法とかだと思って……」
     なんだか自信がなくなってきたかのような少女のしょんぼり具合と、こぼされた言葉によって何故ここに来たのかは判明した。つまり、餅は餅屋とは専門家が早いということなのだろう。
     ネシャロットもその言葉には納得したようで、カウンターの後ろから何かを探しているようだ。
     探し物をしないと見つからないような散らかり具合が怖くて仕方がない。彼女が扱っているものを考えればこそ、余計に。
     しばらくして、ネシャロットはやっと掘り起こしたらしい眼鏡を装着した。
    「眩しッ!」
     そして即座に眼鏡を手放した。
    「何アレ! めちゃくちゃ眩しいじゃん!」
    「でしょ!」
    「こら、ひとを指さすな」
     問題児たちの共鳴にもう既に頭が痛い。そして私はどれだけ発光しているのか。
    「例えるならこう、太陽を肉眼で見るような?」
    「危ないから真似しちゃダメだよってヤツだネ」
     うんうんと頷くネシャロット。
    「ナジーンには呪術がかけられている……というよりも、これはどっちかと言うと祝福だと思うヨ」
    「祝福」
    「魔族に」
     とんでもない単語に思わず面食らった。
     創世の女神、ルティアナに見捨てられた人々の末裔である魔族。その魔族と祝福なんて正反対のもののような気がするのだが。
    「これだけ祝福受けてたら、最近いいこといっぱいあったデショ」
     問われて思い返す。確かに、煎れたお茶に茶柱が立っていたり、普段はツンツンしている野良猫が急にデレたり、ユシュカの捕獲率が上がったりしたが、この祝福が関係しているのだろうか。
    「で、その発生源は大魔王サマだと思うナー」
    「えっ、え、私!?」
     少女は祝福を授ける側ではなく受けまくっている側ではないだろうか。神々から激しく寵愛されているのだから。
     ……いや、神々どころか勇者姫を筆頭になかなか物凄い面子に溺愛されているが。
     その中に自分が含まれることについては今は考えないことにする。
    「大魔王サマナジーンかなり好きなんだネェ」
     眩しそうに目を細めるネシャロット。眼鏡を離して遠目から覗くというスタイルを取っている。実におかしな光景だ。
     それに対して照れまくる少女。今更過ぎないか? きみ、全く好意隠す気ゼロだっただろう?
     呆れたような、けれど祝福を授けまくるくらい私を愛してくれていることが嬉しいような、なんだか複雑な気持ちになりつつ、少々乱暴に呆ける少女の頭を撫でたのだった。
     その後、少女が神に片足突っ込んだとか、白飛びするほどの発光具合は何とかできるようになったとか、とりあえず色々あった。
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