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    Laugh_armor_mao

    @Laugh_armor_mao

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    鬼狐ワンドロワンライ
    お題 『プレゼント』

    #Foxakuma

    Keycase「ほら」

     念仏と名高い古典の授業を放棄して、ヌイグルミの様なペンポーチを枕に爆睡していたミスタの頬に、冷たい金属片が宛てがわれた。

    「ギャ!なんっ…!!」

     放課後の喧騒に突付かれて小さく覚醒の糸に触れたかどうかの隙間に飛び込んで来た、リアルな感覚に飛び上がって叫ぶ。
     その目の先に。

    「あ!『某ブランド』の、限定キーホルダーじゃん!!」

     シルバーアクセサリーの高級ブランドが発売した、動物モチーフのキーホルダーは、男子高校生の『カッコイイけど、買うには敷居が高い』一品だ。ドラマに出てくるような金持ちの学生は知らん。

     まぁ、そんなブランドのグッズを珍しく欲しがって居たのだ。こっそり。

     トライバルの美しい流線型で象られた狐の横顔と、鍵を収納する尾は鉄媒染のレザーで出来ていて、実用性もある。一目惚れだった。
     一度チェックした検索履歴のお陰で、事ある毎に表示されるソレを見ては人知れず溜息を付いていた。ハズだ。
     シュウにも告げた事はないソレと、鼻を突き合わせて暫くにらめっこしていると、ポンポンっと癖毛である俺の髪の弾力を確かめる様に頭に手が触れて、一寸だけしょんぼりした声が落ちて来た。

    「やはり、事前に確認した方が良かったか?ミスタが好きそうだと思ったので思わず買ってしまったのだが…」

     困った様に眉を下げて笑う黒髪のイケメンは、名をヴォックスと言い、この学校の生徒会長様だ。なんと、この成績ジェットコースター(出来るのと出来ないの差が激しいのよ。1科特待ってやつ)の俺等とツルんでる仲間。ナカマ?うん?まぁ、一寸色々ある。
     あれ?何で違うクラスのコイツが居ンだ?ホームルームどっか行ってンな。

     なる程。ヤツのお土産って訳か。

     そんな、ドライブインでキーホルダー買ったみたいなノリで言わんでくれるかな。あ、コイツん家お金持ちだったわ。一般庶民の金銭感覚を教えてやら無いと。

    「ヴォックスには大した事無いかも知んないけどさ、俺等からしたらちょっと高過ぎるつーか。ホイホイこんな事してると、勘違いされるから気を付けろよー?」
    「そ、そうか。私の金銭感覚は妥当では無かったか…しかし、そのキーホルダーはミスタにと選んだんだ。貰ってはくれないだろうか?」
    「うーん。俺、ヴォックスにプレゼントされる様な事とか無いし…」
    「アチラでは、ちょっとしたプレゼントを贈るのは日常的だったからなぁ」

     あぁ、海外ではプレゼント自身は普通って感覚なのかぁ。でも、金額がなあ。

     キリッとした表情で指摘した後、自分の為に選ばれた品物と心遣いと。嬉しいと恐縮と物欲の間でクルクルと百面相をしているミスタの手に、そっとキーホルダーを置いて、少し思案したヴォックスから、提案が為される。

    「では、妥当と思われる金額になる迄、私の家の犬の散歩を代行すると言うのはどうだろうか?」

     バイトの対価がそのキーホルダーという事で。なんて自分の『ちょっとしたプレゼント』の意味合いは薄れてしまうのに、真摯に向き合ってくれる事が嬉しく、内容もサイコーだ。

    「…ありがと。ヴォックス」

     じゃあ、俺今日はバイトだから先に帰るね!と手を振って、跳ねるように廊下を駆けていくミスタをヴォックスはにこやかに見送った。

    「ミスタの性格判っててのプレゼントからデートの約束まで漕ぎ付ける手腕ヤバいですね」
    「ヴォックスん家のラブもロットワイヤーも、シュナウザーも軍用犬並の訓練されたPOGな子達じゃん。ミスタ死んじゃうよ?」
    「金銭感覚が異常だったらこんな田舎の高校の生徒会長遣れないよね」

    「黙れ外野」

     ミスタとヴォックスの遣り取りを特等席で観覧していたシュウとルカ、放蕩会長を回収しに来たアイクがツッコミを入れ、にこにことミスタを見送っていた表情から一転、スンと落ち着いたヴォックスが返す。この5人がミスタの言う、ツルんでる仲間である。
     皆、毛色は違うが大変見目が宜しく、対等な友人を作る、と言う意味で浮いていた彼等が集まり、取巻きと一線が引けた事は一挙両得だったらしい。

    「アチラ(留学)匂わせで『プレゼントはプライベート(家族・恋人等)な相手としかやり取りしない』って断り続けて来た君がねぇ」
    「? 其処はハズした覚えは無いが?」
    「…ちゃんとミスタと認識合わせなよ?」

     ゲンナリとした顔で、この二人のボタンの掛け違いはいつ正されるのだろうか。と、アイクは遠い目をしてミスタの安寧を祈った。



    「馬鹿じゃないの?」

     秋のイベントや部活動の更新にあたっての書類を山程積んだ生徒会室でタブレットとペンを走らせて居たアイクが同じ様に作業を熟す対面のヴォックスに吐き捨てた。
     この男がポンコツになるのはミスタの事と相場が決まっている。今回も本っっっっ当にくだらない事でやきもきしているのだ。さっさと本人に聞けば良いだろうに。

    「なんて酷い。憂慮に暮れる友に掛けるには冷たい言葉なのでは?」

     大袈裟に悲しんでいる様な身振りで返しつつ、ヴォックスはここ数日のミスタの様子を反芻する。日に何度も通信機器を覗いては溜息を付き。憂う表情は中々コチラを煽る。人か、物か、何れにしてもその対象には嫉妬せずには居られない。いや、人であったならば、どうしてしまおうか。
     唸り声でも発しそうなヴォックスに、やれやれと肩を竦め、アイクはシュウに目配せした。新しい悪戯を思い付いた時の様な笑顔で、シュウが手元のタブレットをヴォックスに向かってチラッと差し出すフリをする。

    「校内のネットワーク工事、もう少し優先順位上げて欲しいんですよ〜」
    「ぐ。入札調整と校長への説得が…うむ」
    「んへへ。契約成立〜!」

     ヴォックスの週末の予定が決まった。



     ベッドに寝転んで、本日何度も繰り返した、キーホルダーを眺める。
     ちょっと欲しいな。から、アイツからプレゼントされた。と言う付加価値迄付いて。

    「ヨロシク相棒!」

     カギをセットしようとして尾のパーツを弄ると、先客が居た。
     クラッシックな形状の、電子キーは、確か…

    「ゔぁぁぁあ!!!」

     お前にしか見せない。と言った紅い月みたいな瞳で笑うヴォックスの顔が見えた様な気がして、胸が詰まる。
     止まった呼吸を押し上げる心拍数と、背中と頬と耳に沸騰した血液が集まって。
     俺はやり場の無い羞恥に枕を抱えて叫んだ。
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