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    Laugh_armor_mao

    @Laugh_armor_mao

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    Laugh_armor_mao

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    線状降水帯凄いですね。
    のんびりした雨の間のお話。

    学園設定

    #VoxAkuma
    #MystaRias
    #SyuYamino
    #LucaKaneshiro
    #IkeEveland
    #Luxiem
    luxurious

    拝啓 仲夏の候 安普請のワンルームは、容易く外気温の影響を室内に持ち込み、ムシムシと体表温度と不快感を上げている。雨が止んだのだろうか。遠い大通りを走る車の音が大きくなっていた。
     梅雨入りの寒暖の波に、主に経済的な理由で空調を入れる踏ん切りが付かないこの時期の暑さは心体的にダメージが大きく、鬱々…否、何も無いポッカリとした空虚な気分を唐突に感じさせるのだ。

    「あっちぃ」

     気化熱作用とサラとろの肌当たりがウリのスポーツメーカーのシャツの首元をパタパタと引っ張って風を入れながら、ミスタは筆記レポートの手を休めて時計を見上げ、その美しい柳眉を顰めた。

    「腹減った…」

     日付が変わりちょっと経ったあたり。牛の刻には早い。軽く霧吹きの水をかけられた様に湿る首に手をやって、グルリと回してから、重い腰を上げ伸びをする。まだ課題は終わりが見えず、気分転換と食料を補給する必要に迫られている。

     スマホを尻ポケットにねじ込んで、ドアノブに手を掛けスニーカーに足を突っ込んだ。素足にインソールがぺたりと吸い付くのが気持ち悪い。
     トントンと爪先に負荷を掛けながらドアを開けた瞬間、滞留していた部屋の空気が自分を通り越して外に逃げて行く。窓、開いてたな。頭を掠めた思考を無視してその儘一歩踏み出した。

     コンビニの自動ドアを背に、アイスバーのパッケージを破りかぶりつく。唇に再凍結でピタリと癒着するのを無視して、ぺいっとゴミをダストボックスに放り込んだ。
     深夜のコンビニは僅かに心を躍らせ、ついつい財布の紐が緩む。ペットボトルとサンドイッチ、幾つかの菓子が透けたレジ袋を中指と薬指で下げてもと来た路を戻る。
     何と無く振り返ると、開放的な硝子壁から溢れる白色の光が空気中の水分子に拡散されながら辺りを酷く明るく丸く照らしている。
     誘蛾灯に惹かれる羽虫のように、またひとり、店内へと消えていった。

     住宅と小売店がちょうど良い具合に混ざった通りは表面上眠りに落ちて静けさを保っている。テレビのコメンテイターが定期的に『ニホンは平和ボケしている』と繰り返し騒ぐが、平和で何が悪い。通りを歩いていて刺される可能性なんて、低い方が良いに決まってる。
     三口で無くなったアイスの棒から滲むカスカスした木の香りが、口内に残るバニラの甘ったるいミルクに混じって苦く鼻に抜けている。

     夜気は冷たい水分を含んで露出した肌の温度を下げ、全身に纏わり付いていた汗はとっくに姿を消し、今は肌寒い。

     自らの足元に光を落とす仕事に従事している街灯の下、濡れたアスファルトをウレタンフォームの靴底でグリップ音を立てブラブラ歩くと、等間隔の灯りから逃れた暗がりに潜めいて目に入る小さな白い点。

     色が影に塗り潰されるモノトーンの色彩の中、懸命に光を取り込んで青味さえ帯び、ほわりと存在していた。寄れば、ソレはぴん。と角を張った二重の六芒星。一つ、二つ又は複数寄り添って、長い生垣に星天を描いている。

     粛々と拡がる光景は、気温の低さと相まって、冬の夜空を移した様に、視えた。



     昨夜の寒さに応えるように、本日は雨。
     絹糸の様に尾を引きながら、音も無く街を灰色に霞ませている。
     空気の入れ替えに開けられた窓から入り込む冷たい湿った空気は、教室の床とスチールの机の脚の温度を持ち去っているが、若い体温で温む何とも言えない不快感を取り去るには足りない。
     衣替え初日に寒いのは何時もの事。まぁ、カーディガンを羽織ったりすれば良いだけなので昔と違って不都合は無い。

     そういえば。と袖ぐりや裾にホワイトストライプの入ったピンク地のカーディガンを萌え袖にゆるっと着こなしたミスタは、昨夜見た光景を皆に話した。

    「白い紫陽花?最近、色々品種が発表されているらしいが」
    「ヤダー。色男は花にも詳しいのネ」

     混ぜっ返すな。と黒地に赤いラインがパイピングされたセーターから伸びる大きな手が頭をわしゃわしゃと撫でる。強めの力加減もセットした髪が乱れるのも慣れたモノで、笑いながら手櫛でザッと整え直していると、横合いから情報が追加された。

    「んへへ。神社うちも華手水やってるからねー。今、色んな紫陽花がキレイだよ」

     紙パックのジュースを片手に、白地の肩袖にぐるりと薄紫の腕章状の切替えを配したカーディガンへサラサラと髪を滑らせ揺らしながら笑う声。

    「紫陽花ってピンクから青や紫のイメージだけど?」
    「シュウのとこ、太鼓橋の池をすっごいPOGに飾ってるんだよ!」

     藍に近い紺色のカーディガンが本人の知的なイメージと相まって涼やかな声が知識を辿る。人一倍筋肉量が多い彼は、昼食後は熱すぎるのだとユニフォームのナイロンジャージを腰に巻いていた。

    「んじゃ、週末はシュウん家で課題やろ?」
    「いいよ〜。上手い口実に繋がって良かったねミスタ」
    「課題…?」
    「ヴォックス忘れてるでしょ」
    「いや、経済のレポなら『芸術分野における言語別のマーケティングアプローチ』というのでもう提出したが」
    特進の課題そっちじゃねぇよ」
    「共テのワーク、全員提出だっけ?選択外の教科面倒くさいダケなんだけど」
    「ア〜ンPOG!俺、選択しかやって無い!!!」

     しっかり者2人、助けを求めているのが2人、危うい所を助けられたのが1人。
     週末は賑やかになりそうである。



     海からなだらかに拡がる街は背に山を抱えて、潮の香りが抜ける繁華街と、古くからの邸宅が建ち並ぶ住宅街とが共存している。
     シュウの家は山の手側の、隣町との境の山間に造営されている神社だ。
     山を覆う様に石の玉垣がぐるりと廻り、壱の鳥居から見上げると、頂きの本殿へ真っ直ぐ石段が伸びている。
     社の麓に一族代々が住居を構え、継続者一家が社務所に隣接している住宅を護るきまりだそうだ。
     一見真っ直ぐに見える石段は途中で拓けた中腹を持ち、そこに拝殿や神楽堂が置かれていて一般の参拝者は本殿まで上がれない造りになっている。トリックアートの様な光景はそこそこ有名なフォトスポットで、観光客を呼び込むのに一役買っている。らしい。

     石段の下でばったり遭遇したミスタとルカは、競う様に階段を駆け上がったせいで二人共肩で息をしていた。否、肺から掠れた息を忙しなく吐いているのはミスタで、ルカは爽快な汗をかいたと少し息を乱しているだけである。
     ミスタが笑いそうな膝に手を置いて、ゼェハァしていると脇の駐車場からヴォックスとアイクがやって来た。

    「二人共元気だな」
    「っ!ズリぃ」
    「あはは。途中で乗っけて貰っちゃった」
    「おはよ〜ヴォックス!アイク!シュウ〜!」

     ブンブンとルカが手を振る先、手水場の向こうには、シュウが笑って皆を出迎えていた。勉強会の名目は社務所稼業の手伝いを免れたらしく、本日は和装では無く半袖にスキニー、スニーカーと云った洋装だ。サングラスを掛けたファンキーなバナナ柄のシャツ、何処で買ったんだろう。

    「おはよう~。待ってたよ」

     天然の岩を穿った手水鉢に、持った籠から紫陽花をそっと浮べていく。手前から奥にグラデーションになるよう、ちょいちょいと手直ししながら、水面を柔らかな薄明の空色へ染め上げた。

    写真SNSで見たが、実際に見ると更に美しいな」
    「ガラスに閉じ込められたみたいに花弁が透き通ってるね」
    「毎朝やってるの?」
    「俺達POGなタイミングで見れた?ラッキー!」

     わやわやと皆が覗き込んで感嘆の声を発する横で、ミスタはその中の白い花をジッと見つめ、首を振った。
     ピンキングシザーで飾り切りされたギザギザのフリルを纏って待ち針程の小さな真花を持ったこの紫陽花もカワイイけれど、これじゃない。

    「参拝者で混まないうちに見に行った方がいいでしょ?荷物はそっちに置いてって〜」
    「あぁ、助かる」
    「ヴォックス大荷物だもんね」

     シュウが指差した母屋に続く集会所の玄関先にそれぞれ学用品の入ったバッグを置いて行く。ヴォックスがゴトリ。と板間に重い音を立てて、二括りにした一升瓶を置くと『何時もスミマセン』と何処からか声が掛かった。

    「ヴォックス、それお酒〜?」
    「俺たちのは?」
    「待て待て待て!ゔぁ?!」
    「ミィスタ〜?!ルカぁ!」
    「すまんて!んぎゃ!」
    「んっ、ふ!」

     中腰のヴォックスにそれぞれ左右から戯れ付いた二人に振り回され、下ろしかけた紙袋が上がり框にぶつかった。
     収まり易い様に詰められたであろう、袋を構成する上質紙は結露を含んだ中身に勝てず、折り目から裂けてガラガラと炭酸の缶が転げ落ちてゆく。すかさず落とされたアイクの雷にしゅんと耳と尾を垂らし片付けを始めたミスタの頭に、べよん。とペットボトルが止めを刺す。
     
     何時もの事ながら素晴らしいオチのある連携はシュウのツボにクリーンヒットし、片手を当てて抑えた声の代わりに目尻に涙が浮かび肩が盛大に戦慄く。
     その隙にルカが要領良く荷物を拾い上げ、コトコトと壁際に並べ終えて玄関を飛び出して行く。ヤレヤレと肩を竦めた後、ヴォックスとアイクは蹲ったミスタの左右から手を取り立たせ、ルカとシュウを追う。

    「炭酸が落ち着くのに丁度良いだろうさ」
    「だね。行きますか」

     拝殿に到る参道の途中には、浅いが湧き水を通す池に木造りの太鼓橋が架かる。常態は空を映しているそこに、本日は色トリドリの紫陽花が浮かべられていた。こちらは橋の上からの眺めを意識してか、手水鉢に活けた花達より濃い色合いで鮮やかである。本紫から紅桔梗、青藍から瑠璃紺。唐紅に紅鶸。月白は清々しく水中に月影の如く漂う。
     境内にはまだ夏の指先は届いておらず冷えた石畳、足元の流水、濡れた土の香りを運ぶ風に湿度は無く、只々寒い。

    「壮観だね!白夜の空を歩いてるみたい!」
    「美しい表現だな。では我々が立っているのは極光オーロラの橋か。異界の淵とは言い得て妙だ」
    「ねーミスタ、ここのはちょっと緑が入って野菜みたいな白じゃない?」

     最高にPOG。アイクとヴォックスの会話を背に、無謀な二人組は橋の欄干から身を乗り出してミスタのお目当てを探している。
     ここで、『落ちないように』なんて声を掛けたらフラグだろうな。と、またシュウはなんとも言え無い顔でソレを見守っている。

    「クリスマスツリーに下がってるみたいな尖った星型なんだけどな〜」
    鉄仙クレマチスなんかも星型みたい。どう?」
    「真ん中ぼしよぼしょして無いし、昨日見たら沢山咲いて丸くなってたから、紫陽花なんだよ」
    「ミスタが気になる花、見てみたいね」
    「ミスタの心を奪って止まない、正しく『高嶺の花』だな」
    「コレはお泊り会の予感?」
    「ごめ。オトコ5人は収納できねぇわ」

     中央に構える拝殿へ挨拶した後、皆はヴォックスに付いて横手の合祀エリアに歩を進め、建ち並ぶ朱い鳥居の前へ。ごく自然に習慣付いた道順を辿り山へと足を踏み入れる。

     然程大きくもない社は、山に同化する様に佇み、山路に朱い隧道を作る、小さいながらも数十の鳥居が建ち並ぶさまは壮観で、脇には三拾センチ位のミニ鳥居がやはり奥へ続いている。小動物専用の通り道の様で、ミスタのお気に入りである。

    「いつ来てもキレイだよね。新品みたい」
    「奉納時に建替えしてるからな」
    「え?そんなに頻繁なの?」
    「新事業の起ち上げ、周年記念、社屋の建替え…まぁ、あれやこれや定期的にあるな」
    「ほぼヴォックスん家のなの?POGだね」
    「………毎度有難うゴザイマス?」
    「神職が言うなや」

     二人横並びがやっとの鳥居を潜り抜け、2対の畏まった美しい狐が護る社の前に立つ。
     ひとつ鳥居を括る毎に水気を伴う清涼な森の香りが濃密さを増し、雨を避けた鳥達の僅かな声が静けさを強調している。若者達の足取りは軽く、また受方側も歓迎しているのか、ひんやりとした空気に張り詰めるような緊張感は無い。
     ヴォックスがツヤツヤしたちょっと良い紙袋を社の前に置くと、ルカが思い出した様にポケットを弄った。
     薄手のウインドパーカーの大きなポケットから、ニンニク臭の強いハート型のチップスや紅い大根の漬物、パッスパスのチョコ菓子などなど、駄菓子を山程取り出してヴォックスの置いた紙袋に入れてゆく。

    「上品なオツマミだと飽きちゃうって言ってた」
    「誰が?!」
    「コチラには銘柄と年数を指定して来たがな…」
    「ねぇ!誰が?!」
    「まぁまぁミスタ。気にしない方が良いよ」
    「なんでアイク冷静なの?シュウも微笑んで無いで?!」
    「んへへ。さ、戻ろ〜」

     時折サラリと流される会話にミスタは毎度恐怖を感じるのだが、実際にナニかを体験…したようなしていないような?実害は無いので今回もまた流される事にした。
     踵を還す途中、白御影石で出来た狐像の紅い口元が笑いを堪えて居る様に見えて、気が抜けた。

    「まぁ、お狐様ならイイ…か?」
    「POG!ミスタみて!星が咲いてる!」

     鳥居の直ぐ脇の繁みに、丸く寄り添う白い星。

     完全な白では無く、中心は滲む様に藍が刺す。朝の霧を露に乗せて、サワサワと笑うように揺れている。
     六芒星を重ねた八重咲きの通常よりひとつひとつが大振りの花は、萼から伸びる細く長い蔓が宙空に浮いているように視認させ、ミスタの言うとおりチリチリと音を立てる星空を思わせる。
     集まれば、淡い蒼と相まって夜に落ちる手前の彩、静かな影のよう。

    「ベツヘレムの星みたいだね」
    「外側だけ咲いているのは咲き始めか?妖精王オベロンの王冠のようだな」
    「POGPOGPOG!手持ち花火の火花っぽい。パチパチ弾けてるよ!」
    「うわぁ。地植えしちゃったの?毒性あるのに〜。ね、この中心の蒼、ボクの瞳に似てない?なぁ〜んてね♡」

     鮮やかな翠色に青白くはらはらと咲く紫陽花に、仲間達がそれぞれの言葉で賞賛している。ミスタはそれが嬉しくて、されど表情に出さない様に唇を横に引き結ぶ。
     彼等は誰かに『らしさ』を求めない。それぞれが感じたモノを、手にしたモノを、好きなモノを、嫌いなモノを。ソレが『彼』だと受け容れて、自身の意見を述べるのだ。
     思考と志向と指向の自由度は、己の確立の度合いに比例する。
     まぁ、難しい事は置いておいて、異分子と言われた自分が手にした居心地が良い居場所なのだ。

    「ミスタ!紫陽花の花言葉は知ってる?調べたら素敵な言葉があったんだ」
    「アイク!ソレは私の十八番では?!」
    「うは!ヴォックス、実は調べて来たんだ?」
    「ミスタにPOGなトコ見せたいカラ?カッコつけたいお年頃?」
    「クソっ。あー、もう」

     俺の事で劣勢になったヴォックスの元へ、仕方無いから助太刀しに行く事にする。

    「Hey!さぞやイカシた言葉なんだろ?聞いてやるよDaddy!」
     
     5歩先の4人に向かって明るい牡丹鼠色の髪の少年は、とびきり澄んだ孔雀蒼の瞳をニンマリと細めて笑う。
     和気藹々とじゃれ合う彼等の間には、確かに友情が存在するのだ。

     ひと雨毎に花の色は移り変わり、毒を孕んで他の生き物を拒絶しながら、寄り添い微睡む。美しい蒼と赤のグラデーションが色褪せ雨粒が水蒸気へと大気に熔けて。



     夏が来る。
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