あの日、確かに。 ──君に一度だけ、訊ねたことがある。
「君も、こちら側に来ないか?」
璃月の街の頭上に、群玉閣があった頃。
神の心を手に入れようとしていた俺は、君という異分子を掌の上で転がし、誰よりも先に掠めとろうとしていた。そんな頃に、君をファデュイに誘った。あからさまな言葉ではなく、ただ、『こちら側』に、と。だけど、君ははっきりと断った。
「私は、空を探すの。だから、そちら側には、行かないよ」
何に誘ったとも言っていないのに、君は明確に俺を拒絶した。その答えに、落胆したのは事実。そして、何処かで安心したのも真実。
執行官第一位の男に、武術を授けられた後から、世界が白黒となった俺の視界に、君は鮮やかな色を持ち込んだ。だから、岩王帝君の骸のそばにいた君に、愚かにも俺は『裏切られた』と思った。どうして、そう思ったのか、その時の俺は分からなかったけれど。
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