「てんまつかさ! 5さいだ!」
「えぇえええ~~っ?!」
「嘘でしょ……」
「おやおや」
セカイに行ったら、外見も中身も5歳児になった司がでんっと立っていた。
「とりあえず色々確認しようか」
にこにこと笑いながら、類が司を抱き上げる。
「司くんは、さっきまで何をしていたの?」
「さっき?」
至近距離で、類の顔を司が見つめる。
いつも親にしているのか、反射のように司は、類のほっぺに自分のほっぺをうにゅぅっとくっつけて、「ピアノしてたぞ」と答える。
「オレ、ねちゃったのかな……?」
ゆめかな……? とちぃちゃく呟く司の隣で、類は目を細めたまま言葉を発しなくなってしまう。
「る、類……!」
焦ったような顔をした寧々が、「立ったまま気絶してる……!」と驚愕した。
「ここ、ゆーえんち、か?」
未だ石像のようにフリーズしている類にしっかり抱っこされたまま、司はキョロキョロとあたりを見回す。
「うんっ! セカイって言ってね、司くんが作ったんだよっ!」
「えーーっ?!」
弾むように答えたえむに、力いっぱいの声で司は驚く。
「あのメリーゴーランドも?!」
「うんっ!」
「あのお空のシュポポも?!」
「そうだよっ!」
「じゃあっ、じゃあっ、おしばいもある?!」
興奮したように尋ねてくる司に、その場にいた3人がハッと顔を向けた。
「「「もちろん!」」」
「えーー、これから特別講演、『ちっちゃなお客様へ』を始めます!」
ふんす! と息を吐いたえむが、セカイのホールに響き渡る声で高らかに告げた。
いつもより柔和な表情で微笑んでいる寧々、「小さい子は何に喜ぶかなあ」と演出道具一式揃えなおしてきた類。
「司くん、すぅーーっごく可愛いね☆」
ミクたちも加わって、観客席にちょこんと座る小さな司に、やさしいやさしい演劇が幕を開けた。
*****
「すごかった! すっっごかった!! ほんとにお空からペガサスがきた!」
公演が終わり、大興奮でぴょんぴょん飛び跳ねる司に、他のメンバーは笑顔を隠せない様子でウンウンと頷いていた。
「司くん、楽しかった?! まだまだお芝居してあげられるよっ!」
えむも同じようにピョンピョンしながら提案すると、司はぴたっと跳ぶのをやめる。
「あ、あ、でも……、もうおうち、かえらないと……おるすばんしてなきゃだめなんだ。あのね、さきがびょういんだから、オレはおにいちゃんでげんきだから」
「あ……、そっかぁ」
いくばくかのメランコリーさを滲ませた声音で、えむが控えめに笑う。
「司くんは、たくさんがんばってるんだね」
えむの言葉に、司は少し顔を俯かせて、ふるふると首を横に振った。
「じゃあ、司くん、僕たちが司くんに、すごいことを教えてあげるよ」
「すごいこと?」
ひとさし指を口元にあてた類が、「ひみつだよ」と司に囁く。
「司くんはね、大きくなったら、実は僕たちと友達になって、さっきみたいに色んなショーをやるんだよ」
「えーーっ?! ほんと?! お兄ちゃんたち、おとななのに?! ともだちなんてなれるの?!」
「なれるさ。ちゃんと司くんも、僕たちとおんなじ大人になるよ」
「ふふ、類が、ともだちだって」
皆が小さく笑ったり、うんうんと頷くなか、一番大きな声で喜ぶかと思った司は、ぽそっとした声で呟く。
「さいごのさいごは、かみさま、おねがいかなえてくれるかな」
何度お願いしても、咲希は病院に舞い戻る。
自分は親に頼りにされているし、大事にしてもらっている。
知っているけれど、ふと幼稚園であったことを話したい時、聞いてくれるひとがいないことは少なくなかった。
さきはだいじないもうと。
おれがいっぱいえがおにしてあげたい。
でも、おれが、わらえないときが、ある。
「叶うとも」
「ぜーーったい! 会えるよ!」
「ちゃんと覚えててよね」
約束の風船、と、司の小さな手に、3人から風船が手渡される。
むらさき、ぴんく、みどりいろ。
ふよふよするそれを持って、「またあおうね!」と笑顔の司が叫ぶと、あたりに明るい光が拡がった。
「……んん、」
光が収まると、そこにはいつもの見慣れた座長がいた。
「司くん、だいじょうぶ?」
心配げに見下ろしてくる3人を見上げながら、司はぱちぱちと瞬きをした。
その目じりからきらきらっと小さな涙の粒が落ちる。
「え、ええっ、司、泣いてるの?」
「かなしいの?!」
「……辛い夢だった、かい?」
「いや……」
司はゆっくり体を起こすと、類の手を借りて立ち上がる。
「……すごく、胸が苦しくなる夢を見た気がするが、いやな気持ちじゃないんだ。なんの夢だったか、全く覚えてないが……」
「……よかった」
「すまない、オレとしたことが居眠りなど……今何時だ? まだ通して演る時間はあるか?」
まだドロージーな頭を軽く振ってから背筋を伸ばした司に、3人は顔を見合わせてにっと笑った。
「「「もちろん!!」」」