ターナーさんの散々な1日 過去編ネロの家は有り体に言えば貧しい家庭だ。唯一の肉親である母親は、昼も夜も仕事に明け暮れているのでネロの生活とはほぼ交わらない。母親にも休日はあるのだろうが、どこで何をしているのかネロは知らない。
ネロがブラッドリーと出会ったのは小学生のときだ。その日のことは今でもはっきりと思い出せる。
夕暮れ時、ネロは公園で一番高い場所―――ジャングルジムの頂点に座って夕日が沈むのを眺めていた。すると、
「おい!」
「……?」
下から声がして、ネロは地面の方を見る。誰かがすごい速さでジャングルジムを登ってくるのが見えた。ネロがいる場所の1段下まで登ってきた少年は、少し怒ったように言った。
「そこは俺様の場所だ!」
どけ、と言いたいらしい。
「ぁ……、あぁ、ごめん」
ネロは大人しく頂点から退いた。しかし、少年は怒ったまま続ける。
「そこじゃだめだ。このジャングルジムは俺様の縄張りだから、てめえは出てけ」
「……うん」
ネロは逡巡したのち、しぶしぶ従った。正直理不尽だったけど、夕日は降りても見える。
ネロが降りている間に、今度は少年が頂点に登っていた。ネロは座っていただけだったが、少年はさらにそこに足を乗せて立ち上がる。
ネロは夕日を見るのも忘れ、オレンジの陽光を受けて輝く後ろ姿に見入っていた。
ジャングルジムの頂上で得意げに周囲を見渡した少年は、やがてネロの姿を見て取った。
「なんだ、まだいたのかよ」
そして、少年は何を思ったか、
「お前も来るか?」
さっき排斥したはずのネロを縄張りに迎えいれた。
こっちに来い、と促されて、ネロは再びジャングルジムを登る。
少年より1段低い位置まで登ったところで少年に手を取られて最上段へ引き上げられた。バランスを崩しそうになって、空いた手で慌てて格子を掴む。
「立ってみろよ。公園が全部自分のモンになったみたいで気持ちいいぜ」
支えといてやるから、と少年はネロの両手を取る。
ネロは足場をしっかり確認しながら慎重に立ち上がった。少しだけ周りを見てみると、なるほど、少年の言うことも少しだけわかる気がする。
「ははっ、手汗かいてやんの」
少年のからかいにネロはむっとして、支えてくれていた手をぱっと離した。得意になって少年を見下ろしてやると、少年は笑った。
「おまえ、ぼーっとしてるくせに度胸あるじゃねえか。特別に子分にしてやるよ。」
ネロは頂上から降り、少年と同じ高さに立った。
「俺様はブラッドリー・ベイン。てめえは」
「……ネロ。…、ネロ・ターナー」
てめえは今日から俺様の子分だ。ブラッドリーはネロにそう言い渡した。
当時はネロの方が先に成長期を迎えていてブラッドリーよりも身長が高かったから、自分よりちっこいやつが自分より立場が上なんて、少し可笑しかった。
薄暗くなるまで2人で過ごした後、帰るときになって同じマンションの隣の部屋に住んでいることを知って驚いた。