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    tnk3256usao

    @tnk3256usao

    字書き。ほぼ宇佐尾。女体化が好き

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    教師宇×生徒尾問題児尾の担任になっちゃった宇がゆくゆくは尾を助ける話③

    #宇佐尾
    ushio

     あれから3日。尾形は本当に来なかった。学年主任を含め他のクラスの先生たちから「尾形がいないとほっとするでしょう」と言われ、曖昧に笑って誤魔化した。
     宇佐美先生も大変ですね。尾形のいるクラスの担任になるなんて可哀想に。みんな僕には同情するくせに、尾形には同情どころか災厄扱いだ。まだ高校生なのに、尾形の周りには敵しかいないのか。
     ふと花沢勇作を思い出した。尾形と半分だけ血の繋がった兄弟。屋上で尾形に撮られた写真を消した時、メッセージアプリの通知が目に入ってしまった。相手は花沢勇作だった。学校では会話しているところを見たことはないが、連絡を取り合っているのかと驚いたのだった。
     どうにかして彼と話す機会が持てないだろうか。できれば誰もいないところで。授業終わりに呼び出したり、教室へ行って声をかければ目立ってしまうだろう。部活終わりは下校時刻だから時間取れないし。うーん、尿意。
     席を立って職員室を出た。この学校、トイレまでちょっと遠いんだよなぁ。職員専用トイレとかいらないからもっと近くに作ってくれればいいのに。廊下の端をトロトロ歩き、角を曲がったところで図体のデカい何かが僕の前に立ち塞がった。
    「宇佐美先生!」
    「びっ!くりしたぁ!」
     チビらなかった誰か僕を褒めてほしい。
    「すみません! あの、1組の花沢です」
    「知ってるよ、選択地理取ってるでしょ」
     僕の授業を取っていなくたって、花沢ホールディングスのご子息の顔はみんな知っている。ぱっちりとした目、よく笑う口、爽やかな声。好青年を人間にしたらこんな感じだ。ちなみに花沢幸次郎にこんな爽やかさは1ミリもないし、皮肉なことにどちらかというと尾形に似ている。
    「宇佐美先生にお話があります……兄、尾形百之助のことで」
     花沢は声をひそめた。話を聞かれたくないというよりは、遠慮の気持ちが言葉を濁させたようだった。
    「いいけど、僕トイレ行ってくるから……社会科準備室で待ってて、旧校舎の3階。わかる?」
    「はい! お待ちしております!」
     大きな声で返事をした花沢は颯爽と廊下を進んで行った。すれ違う生徒が花沢に気付いて声を掛ける。随分と目立つ男だ、わざわざ人のいない社会科準備室を指定した意味がなくなってしまう。
    「まあいいや、とりあえずトイレ」
     まさか向こうから話しかけてくれるとは、僕って運がいい。
     用を足して社会科準備室に行ったら、花沢は部屋の隅で大人しく立っていた。
    「お待たせ、その辺の椅子に座っていいよ。あ、ここ結構僕が使ってるし、ちゃんと掃除もしてあるから大丈夫だよ」
    「恐れ入ります、失礼します!」
     尾形みたいに無礼なのも良くないけど、やたら礼儀正しくされるのも扱いに困るなぁ。この兄弟はどうしてこうも正反対なのか。
    「あの、兄は学校へ来ていますか?」
    「いや、1週間休むって言ってたから、来るとしたら来週じゃないかな」
    「そうですか……」
     花沢は肩を落とした。
    「なんで尾形のこと兄って呼んでるの? 同い年じゃん」
    「はい、ですが私より兄の方がひと月半早く産まれているのです。産まれた日に1日でも差があれば兄弟でしょう?」
    「まあ普通は血の繋がった子どもが1日差で産まれることはないけどね」
     そういえば数分違いで産まれたらちょうど年を跨いでしまった双子がいるってニュースがあったなぁ、なんて関係のないことを思い出す。
    「先生も気付いてらっしゃるとは思いますが、兄の家庭は複雑で……兄の母が心を病んでいて、兄に依存しきりなのです」
    「本妻の息子と同じ学校に通わせるくらいだからねぇ」
    「それだけではなく……兄は、家族2人分の生活費と学費をご自身で賄っています」
    「え、いや、ここ私立だよ? 学費安くないんだけど」
    「さらに成績が少しでも落ちると詰られ、定期テストでは私より順位が上だったかしつこく確認されます」
     いや、それ毒親越えてんじゃん。もはや有害物質?
    「アイツ、先週10万パーになったって……」
    「おそらく、この1週間で金を用意するのでしょう」
     尾形の闇は想像より暗かった。
    「父に、兄の分も学費を出すようお願いしました。彼もあなたの息子でしょうと言ったらあれは息子じゃないと言われました。せめて養育費を支払ってくださいと言ったらそんな義務はないと言われました。兄をあの家から連れ出すことも考えましたが、花沢家に入れるわけにもいきません。私は無力で、彼をどうすることもできない」
     花沢は僕に向かって頭を下げた。
    「宇佐美先生、お願いします。兄を助けてくれませんか」
     傷ひとつないうなじに皺ひとつないワイシャツの襟。アイツは放課後になるとくしゃくしゃになったワイシャツをブレザーで隠していた。うなじには誰のかわからない噛み跡が残っていたこともあった。
    「花沢は、僕がアイツを助けたとしてそれがアイツのためになると思ってるの?」
    「だって、優しくて賢い兄さんがあんなふうに搾取されていいわけがないでしょう!」
    「でもさ、アイツが助けてほしいって思わなきゃ、いくら僕たちが手を差し伸べたって意味がないだろ」
     花沢は何も言い返せず、悔しそうに拳を膝に打ちつけた。
    「花沢と尾形は仲良いの?」
    「……いえ、私が一方的に慕っているだけというか……連絡先は交換してもらえたものの、兄からはほとんど返事が来ません。学校で会っても話しかけるなと言われていますし……」
     学年主任は2人の関係について何も言わなかった。実は花沢がこんなに尾形を気にかけていたなんて知ろうともしなかったのだろう。
    「私には兄弟がいません。だから兄のことを知ったとき、とても嬉しかったのです。私たちの間にはいくつものしがらみがありますが、出自など関係なく仲良くしたいと思っていたのです。実際に兄は聡明で慈愛に満ちていて、尊敬に値するお人でした。いまでもその気持ちは変わっていません。だから私は兄を助けたいのです」
     花沢にはあの小憎たらしいガキが聖人のように見えるらしい。尾形が死にたがってたなんて言ったら卒倒しそうだ。
    「宇佐美先生は良い方ですね」
     顔を上げた花沢がぽつりと呟いた。
    「それ、尾形にも言われたけど」
    「え! 兄さんが私と同じことを!?」
     テンションの上がった花沢はぽうと頬を赤く染めた。それは喜ぶポイントなのか。
    「他の先生方は私の話も兄の話もまともに取り合ってくれませんでした。迷惑そうな顔をするか、耳障りの良い言葉で心配しているフリをするか、どちらかでした。けれど宇佐美先生は話を聞いてちゃんと考えてくださいました、兄が助けてほしいと思っているかなんて考えたこともありませんでした」
     ありがとうございます、と何もしていない僕に花沢が礼を言う。
    「兄を助けたいのは私のエゴです。兄をあの母親から引き離すことは兄の本意ではないかもしれません。それでも私は兄をあの闇から連れ出したいのです」
     どうしたらいいかもう一度考え直してみます、と言って花沢は社会科準備室を出て行った。
     そりゃあどう考えたってあの母親がいない方がいいだろ。金のために体を売らなくていいし、本妻の息子と逐一比べられなくなるし、学校で腫れ物扱いされずに済むし。虐待で通報してやろうか、と思ったがすぐに18歳になる尾形は養護施設に長くいられない。ひとり立ちする準備を整えるには時間がなさすぎる。
     関わるな、と言われた尾形百之助のことを僕はずっと考えていた。いつもの僕ならこんな面倒事は放っておくのに。青い空を見上げる尾形の真っ暗な瞳が頭から離れなくなっていた。
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