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    はじめ

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    はじめ

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    大人面あた
    甘えるのが下手なあたるくんと鈍感な若

    #面あた
    face
    ##大人面あた

    甘え下手 逢瀬はホテルと決まっていたわけではなかった。
     なんとなく、タイミングで、会えそうな時を見計らって、それとなく声を掛け合う。あたるはいつも面倒くさそうな素振りを見せていたが、文句を言いつつ約束の時間にはやってきた。
     学校へ行けば必然的に顔を合わせていた高校時代とはわけが違う。互いにきちんと意味を持って約束を交わさないと、会えない関係になった。それが、焦がれに焦がれた「大人」だった。

     裸になる前にヘッドボードのアラームをセットする。夜の八時に合わせると、あたるの眉が寄った。
    「…やけに早いの」
    「…接待だからな」
     無論、「接待を受ける側」だ。ほうそうか。嫌味たらしくため息をついたあたるに、「そんな中途半端な時間から?」と聞かれたが、「お前のためにこの時間にしたんだ」と言えば面白いように黙った。
    「…俺のためとか言うな、押し付けがましい」
    「接待があると言えば来んかっただろう」
    「来るわけなかろう」
    「ほら、見てみろ」
     抱き合いながら、キスをしながら、素肌の温度を確かめながら、距離を測った会話をする。言いたい放題言えて、喧嘩が出来て、感情をぶつけ合いながらセックスが出来る、唯一無二の関係。馬鹿みたいだな、と思うと同時に無性に泣けて困った。
    「諸星、次は」
    「能書きは良いから、はよしてくれ」
    「…分かった」
     元から妙に大人びたところがあった。馬鹿でいい加減で無鉄砲なのに、どこか他の同年代とは一線を画す表情をするときがふとあった。そこが魅力でもあり、悔しさを感じる部分でもあった。はよしろ、と閉じた瞼の白さに、胸が苦しくなる。
     互いに互いを最優先する間柄ではないから、暗黙の了解で行きついた。それなのに、いつの間にか落ち着いてしまった関係性に、縋りたくて仕方ない。どういう関係なんだろうか、僕たちは――。
    「――諸星」
     名前を呼んで、服を脱がす。薄い白いシャツは簡単にはだけ、あたるの素肌をさらけ出す。突如として伸びてきた腕は面堂の首を抱いて、ぎゅうぎゅうにしがみつく。
    「――はよしろ、と言うとろうが」
     切羽詰まった声と、それから見たことのない虹彩に心臓が跳ねた。そのまま唇を唇で塞いで、体を繋げた。軋むほど、何度も何度も――。

     次に目を覚ますとアラームが鳴る十分前だった。
     気だるい体を奮い立たせ、上半身だけを起こす。すぐ隣であたるが寝息を立てていて、その無防備さが妙にほっとした。
     ああもうこんな時間か。どうしたって感じる名残惜しさに頭を振って、仕方ないシャワーでも浴びるか、と床に足を付けたタイミングで、シャツの裾を引っ張られつんのめってしまった。
    「………どこ行くんじゃ」
     くぐもった声とともに、布団の中から伸びてきた手。語尾が少し掠れていて、情事の余韻を感じさせた。布団にくるまっているため表情はうかがい知れないが、想像に難くない。あたるが面堂のシャツを引いている。その事実が面白くて、胸が苦しい。
    「………どこって風呂だが」
    「………あ、そう」
     紛らわしいことすんな。と呟いたきり、ぱっと離した手元が切なかった。風呂に入る気にもなれず、胸の奥からふつふつと笑みが込み上げてくる。あたるが忌々しそうに聞く。
    「…貴様ひとりで風呂に入る気か?」
    「そのつもりだが」
    「ふうん、そうか」
     不貞腐れた横顔があまりにも可愛かったので、思わず笑った。それくらい、素直な方が面堂も嬉しい。
    「…お前、もっと素直に甘えられんのか」
     ベッドの端に腰を下ろし、後ろ手であたるの髪の毛を乱暴に撫でた。あたるの髪の毛は汗で湿って少しウェーブがかっていた。
    「接待、行かん方が良いか?」
    「ふん、好きなとこに勝手に行けば良いだろ」
    「お前は素直に甘えられんのか」
    「なにを言うか、甘えとるだろ」
    「駄々こねとるようにしか見えん」
    「あほ。――あ」
     いつになく、愛しい気持ちだった。そのまま口を塞いで、裸のまんま押し倒す。
     火照った素肌そのままに馬乗りになってあたるの首筋を食んだ。キスをしている間に、設定しておいたアラームが鳴った。ピピピ。滑稽なリズムが二人の余韻を撫でていく。どきどきした。それはもう、たまらなく。
     もう、行かなきゃ。
     名残惜しい気持ちで唇を離すと、あたるも物足りなさそうにしていた。至近距離で目が合ったあたるは、それはそれはねだるような瞳をしていて、どうしたって下半身が疼く。
    「…面堂」
     名前を呼ばれ腕を掴まれ、引き寄せられるままに耳を食まれる。ピピピ、と鳴り響くアラーム。
    「――もっかい、したい」
    「――は」
     艶っぽい瞳は釘付けになるほど熱い。そのまま、唇を噛まれた。
     ああ、負けだ。僕の負け。
    「――面堂、もっかい」
     今の今までへたくそだったくせに、ここぞという時だけ甘え上手になる。
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    DOODLE面あた
    名前を呼べばすっ飛んで来る関係。

    あたるくんの「面堂のばっきゃろーっ」を受けて0.1秒ですっ飛んでくる面堂くんも、呼べばすぐに来るって分かってる確信犯なあたるくんも大好きです。
    恋より淡い 校庭の木々の葉はすっかり落ちて、いかにも「冬が来ました」という様相をしていた。重く沈んだ厚ぼったい雲は今にも雪が降り出しそうで、頬を撫でる空気はひどく冷たい。
     期末テストを終えたあとの終業式までを待つ期間というのは、すぐそこまでやってきている冬休みに気を取られ、心がそわそわして落ち着かなかった。
    「――なに見てるんだ?」
     教室の窓から校庭を見下ろしていると、後ろから声を掛けられた。振り向かなくても声で誰か分かった。べつに、と一言短く言ってあしらうも、あたるにのしかかるコースケは意に介さない。
    「…あ、面堂のやつじゃねえか」
     校庭の中央には見える面堂の姿を目敏く捉え、やたらと姿勢の良いぴんと伸びた清潔な背中を顎でしゃくる。誰と話してるんだ、などと独り言を呟きつつ、あたるの肩にのしかかるようにして窓の桟に手を掛けている。そのまま窓の外の方へと身を乗り出すので危なっかしいたらありゃしなかったが、落ちたら落ちたときだ。
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