君と知って、ぼくは誘う「酔ったかもしれん」
なんて、まるで誘っているかのような台詞がするりと口からこぼれ落ちた。舌足らずな声、回る視界、ふらつく足元。蛍光灯の明かりがやけにきつく感じて、まぶたの上でちかちかと反射する。
意中の女性に言われたら舞い上がるような常套句をまさか自分が口にするとは思わなかった。あまつさえ、ひどく酔っ払った状態で。
「…飲み過ぎてもうた」
「…そのようだな」
静かに浮上する狭いエレベーターのなか、壁際に体重を預け、見事に撃沈しながら呟くと、反対側の壁際で佇む面堂が平然と呟く。よたつくあたるとは対照的に、なんとも取り澄ました表情を浮かべている。サイリウムの眩い光線みたいなものが、虹彩の間近でずっと揺れていて、余計に頭がくらくらした。あーあ。
3086