体の節々が悲鳴を上げる。心臓は限界まで収縮を繰り返し流れる血は沸騰する。すでに腕の神経まで使い果たし、感覚はなかった。
それでも、と己を叱咤して走り続けてきた。けれど、皆が存在を賭して切り開かれた道を振り返るほどの力ももうない。膝が折れ顔面から地に崩れ落ちる。支えてくれる後輩も仲間も、もうひとりもいない。
意識が四散する。喉から這い上がるのは馴れた鉄の味。微かに耳に届く細い笛のような音が自分の呼吸音だと気づいたところでどうしようもなかった。
あーあ。
落胆の呟きが頭に浮かぶ。瞼は下りて暗闇に包まれた。重力がどこに向いているかもわからず落ちてゆく。深く深く。どこまでも、底のない奈落のように。
悔しいのだ。
まるで演出された舞台のような、彼の言葉のままの状況に。そしてそれをやはり思い出してしまう自分に。
右手の令呪はとっくに三画とも消えていた。だが確信を持って、爛れた喉からため息交じりに絞り出す。
「こいよ、オベロン」
刹那巻き上がる怨嗟の塵が顔を打つ。本能を逆撫でするような虫の羽音と呆れたような笑い声に瞼を上げる。
「呼んだ?」
陽気に口角を上げて見下してくる彼を、おそらく自分は同じ顔をして見上げているのだろう。