目を開けると、不機嫌な顔がこちらを見つめていた。突然のことで思わず笑い声を漏らしてしまう。
いつの間にか座っていた古びた椅子に背を預け、ギシリと音を立てる。先ほどまで横になっていたベッドとは真逆の硬さがおかしくて、乾いた声を上げてまた笑った。
何一つ捨てられず、積もりに積もった感情で満ち溢れた部屋の空気を肺いっぱいに取り込む。あの時のように口の中に酸の味が広がることはない。
「オベロン」
ため息交じりに目の前にいる彼の名を呼ぶ。頼れる仲間が次々と抹消されていったあの異聞帯で、一度も口にしなかったその名を。
「なんとかなっちゃったよ」
軽い口調でそう言うと、彼の眉間に刻まれた皺がより一層深くなったのがわかった。予想通りのその反応に満足して、目を閉じる。
「マスター」
しかしその声音は存外、穏やかだ。
「ご愁傷様」
「どうもありがとう」
それだけ答えて、意識は緩やかに底へ沈んでいった。