4th of july7月4日 23:45。
アメリカは楽しかったパーティの余韻に浸りながらぼーっとスマートフォンを見つめていた。明日は休みだ。どうしても誕生日の次の日は休むと心に決め、仕事を前倒ししてなんとかもぎ取った休みである。本来であれば大好きな映画を鑑賞したりゲームをしていたかったが、そうもいかない事情があった。
なんでかって?少し時を戻そうか。
それは10時間と45分前のこと。
盛大な花火と共にアメリカの誕生日パーティが始まった。色々な国に囲まれて賑やかにわいわいするのが好きなアメリカは、勿論のことながら自分の誕生日パーティが大好きだった。
分厚いステーキに5段重ねのハンバーガー。これでもかとチーズをかけたピザにチリビーンズを乗せたホットドッグ。チョコをかけたドーナツ、カラフルなケーキにクリームをたっぷり乗せた色取り取りのアイス。アメリカの大好きな食べ物がたくさん並ぶテーブルは心踊る。華やかな装飾も派手な花火もアメリカ好みでわくわくさせてくれた。みんなが自分のために集まってくれるのも嬉しいし、色々な国とおしゃべりするのも楽しい。それに自分の誕生日パーティに集まった国々が自分と関係ないところでも楽しそうに笑っている光景が好きだった。実際、集まった国々は楽しそうに過ごしてくれてたので(途中から姿が見えなくなったイギリスを除けば)、アメリカは毎年のことだがパーティを開いて良かったと心から思った。
ただ、1つだけアメリカを苛立たせることがあった。
(どうしてロシアは俺を避けるんだい?!)
初めになんとも形式じみた挨拶をして以降、話しかけようとしても偶然を装って近づいても気がつくとするっと逃げられてしまう。まるで赤の他人の様。
日付が変わる頃はあんなにロマンチックな電話をかけてきたのに、まるで別人じゃないか!後で問い詰めてやろうとこの時アメリカは心に決めたのだ。
…ん?ああ!ロマンチックな電話についても説明しないとね!
更に時を遡り7月3日23:55。日付が変わる少し前のことだ。
アメリカは自宅で日付が変わるその時を今か今かと待ち構えていた。そわそわとした気持ちを落ち着けるため、少し前にテレビをつけたが、テレビの中の出演者たちもその時を今か今かと待ち構えていて結局落ち着くことは出来なかった。時計が進み23:59を差し示す。あと1分。時計が進むのから少し遅れてズボンのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。取り出し液晶に表示された名前を見る。ロシアだ。慌てて電話をとる。
「Hi、ロシア。」
「Алло、アメリカ君。」
「君から電話なんて珍しいね!」
「一言だけ伝えたくて。…誕生日おめでとう。」
「Wow!ありがとう!君が1番最初だよ!」
「わぁ、ほんと?」
「ああ!日付が変わる1分前だしね」
その瞬間、アメリカがつけていたテレビからは4th of julyを祝うキャスターの声が聞こえてきた。
「あ、ちょうど今、日付を超えたみたいなんだぞ!」
「…時計を見てかけたはずなんだけど。ちょっと早かったみたい。」
「俺に弱みを見せるなんて君らしくもないな。」
「…サマータイムだって考慮したんだけどね。」
ブスッとした声色に思わず笑ってしまう。案外彼は子供っぽいところがある。
「…笑わないで。」
コホン….と咳払いをしてロシアは仕切り直す。
「改めて。誕生日おめでとう、アメリカ君。」
「ロシア、ありがとう!これで本当に君が1番乗りだ。」
「ふふ、よかった。どうしても最初におめでとうって伝えたかったんだ。」
「だからフライングしたんだな!」
「もう、からかわないで。…ねぇ、アメリカ君。最後におめでとうを伝えるのも僕がいいなと思うんだ。今日のパーティ終わったら君の家に行ってもいいかな?」
「…君とパートナーになるまで知らなかったけど君って意外とロマンチストだね。」
「僕は君とパートナーになるまではプチッとしたいと思ってたよ。」
「はは、物騒だな」
「でも今は出来る限り一緒に生きていきたいと思うよ。じゃあ、またパーティで。Я тебя люблю.」
甘ったるい声でそう言うものだからじわじわ顔に熱が集まるのが分かった。何度か言われたこともある言葉。意味はわかるけれど照れ隠しで、
「じゃあまた。終わったら家で待ってるから、今度は英語で頼むよ。」
と返したが、ロシアには俺の心境もバレバレだろう。でもきっと、最後早口気味だったロシアだって自分の口から溢れる歯の浮く様なセリフに赤面していたに違いない。パーティはもちろん最高に楽しみだけど、早く夜になればいいのに!
時は戻り7月4日 23:50。
つまり俺にはパーティ中のロシアの態度について問いただし、その後2人で残りの限られた時間を一緒に楽しく過ごすという2つのミッションがある訳だ。
映画鑑賞やゲームを始めてしまったらきっと時間をロスしてしまうから、今の俺に出来ることはロシアが来るのを待ちながらスマートフォンをぼーっと見つめることだけなのだ。
時計をちらちら見る。あと10分しかないぞ!
痺れを切らし家の外を見に行こうとソファを立った瞬間、玄関のブザーの音が聞こえた。
パッと顔をあげ、慌てて玄関に向かいドアを開ける。
そこには待ち人であるロシアが立っていた。
トレードマークのマフラーこそしているが、普段は着ないピッタリとしたスーツに身を包むロシアに思わず見惚れる。アメリカが以前、「君は筋肉質で背も高いんだからそんな時代遅れじゃなくてもっと似合うスーツがあるよ!」(今考えるともしかしてこれってかなり失礼だったんじゃないかい?)と強引に引っ張っていき作らせたオーダーメイドのスーツだ。どんな場面でも着られる様にと作ったスーツは、ネイビーに主張が控えめで近くに寄らなければわからない程度の細かいストライプが施してあり、白いシャツを映えさせた。華やかでありながら落ち着いたデザインはロシアにとても良く似合っていた。いつもよりしっとりとして落ち着いている髪はきっと今日の為にセットしてくれたのだろう。いつものほわほわのシルバーブロンドはかわいいと感じるけれど、今日の髪を整えたロシアからは色気を感じた。走ってきたのか少し乱れているのも色っぽい。
俺のパートナーは最高にクールでセクシーだ。パーティの時は避けられていたからじっくりと見れなかったことが腹立たしい。
「今日は来ないんじゃないかと思ったよ!」
「ごめんね、上司に捕まっちゃって。明日休みなんだから代わりにこれだけやっとけって言われてさ。全く人使いが荒いんだから。」
ロシアを家に招き入れる。いくつもある家の中で1番小さくて誰も知らない完全プライベートの家。ロシアにだけは教えてある。慣れた風にロシアは家に入る。
「それより君さ、パーティ中のあの態度はなんだい!露骨に避けすぎじゃないかい?」
「それはごめんね。僕だってアメリカ君と一緒に色々お話ししたかったけど、僕らが長いこと話すと周りの子たちが萎縮しちゃうじゃない。」
ふと前回の世界会議の時を思い出す。
あの時はみんなの居る会議場で、少し遠くにいるロシアに少し大きな声で「ロシア!」と声をかけた。瞬間、周りに緊張感が走ったのはあえて空気を読まない俺にも伝わってきたので妙に納得した。
「アメリカ君、賑やかなパーティが好きでしょう?それをしーんとさせちゃうのも悪いかなぁって。それに、」
ロシアはアメリカに啄む様なキスをする。
「パーティの後に約束もしてたしね。」
キスで大方許してしまう自分は単純だなぁと思うがこればかりは惚れた弱みだ。仕方がない。話をしながらロシアはマフラーやジャケットを脱いでいく。几帳面な彼にしては珍しく、脱いだ服を床や机にそのまま放置していく。余裕のなさが見えるみたいで、男臭さを感じてドキッとした。
「いっそ君のこと俺のパートナーだってみんなに紹介してやればよかったな。」
「そんなことしたらただでさえ具合の悪そうだった君のお兄さんが今度こそ死んじゃうよ。」
縁起でもないけどイギリスならばあり得そうだなと思ってしまう。少なくてもイギリスには言わないでおこうと心に誓った。
「…この世界が僕とアメリカ君だけならいいんだけどね。僕たちの関係を上司たちはきっとよく思わないし。どうせ諜報活動でクレムリンもホワイトハウスも気がついてると思うけど。口に出したらいよいよ介入されそう。」
元々敵国同士だから、俺とロシアの間には壁が多い。面倒臭いなと思うこともあるけれど、秘密が多いのもヒーローの宿命だと思って無理やり飲み込む。
「こういう時のホワイトハウスは厄介だな」
「本当に。だからさ、外野に邪魔されない、僕と君だけの世界で愛し合おうよ。」
「誘い文句がストレートすぎるんじゃないかい?」
「嫌いじゃないでしょ?」
「君の自信はどこから来るんだい」
顔を見合わせ笑いながらソファに身を沈める。
ちらっとロシアの背中側にある時計を見る。
23:59。
「君がここに生まれたことを神に感謝するよ。誕生日おめでとう、アメリカ合衆国。」
宣言通り7月4日最後の祝いの言葉を口にしたロシアはアメリカに深く口づけをした。