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    shinmai88

    鯉月・🌙メインCP無しを書/描く予定です

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    shinmai88

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    鯉月。現パロリーマン。とても短い話。
    全年齢。昨年の軍曹誕生日に何か書きたかった足掻き。
    某WEBイベントの再掲です。

    #鯉月
    Koito/Tsukishima

    気が付けば年度末を越えてしまっていた。

     定年退職を迎えた和田部長に社員一同アーチを作ってお見送りをしたり、異動する前山主任から小粋な洋菓子を貰って色々労いの言葉を掛けたり、締め切りが、締め切りを、締め切りの案件が、決裁が……何やかんやあれこれしているうちに日付が変わってしまったのである。

    「月島係長、お疲れー」
    「月島サン、お先ですー」
    「月島? もう先に帰っちゃうぞぉ?」

     次々と帰路に向かう部下や上司達。
     本日最後の戸締まりは、係長の月島……つまり俺である。一通り戸締まりを確認して、コピー機等の電源を切ってあるか確認して、ポットのお湯も切ってるのを確認して、保管してある鍵を取り出して、課内のオフィスを出る前に、今一度消灯を確認して施錠した。
     自分の所属するオフィスの建物はなかなか年季が入っていて、施錠は手動であった。電気も切ってあるので当たり前だが、暗い。暗過ぎて何かに塞がれている気がする。何かを忘れている気がする……
     手暗がりで手持ちのスマホの明かりを頼りにしながら、自動ドアの電源を切ってから施錠する。後は守衛に鍵を返却するだけだ。
     既に午前に差し掛かり、外は宵闇に包まれている。明治から転生しても一応はジムで定期的に鍛えている身体であるが、年度末で深夜までの残業が続くといかんせんメンタルが良くない方向に響くものだ。
     取りあえず帰って風呂入って寝よう。何かを忘れている気がするが……気がするが。

    「……島ァ」

     何だか声が聞こえる。

    「……月島ァ」

     聞き覚えのある声が聞こえる。

    「月島ァ!」

     間違いない。張りのある明朗な声。
     自分を呼ぶ声……

    「鯉登さん」

     どうしてここに?

    「探したぞ」

     鯉登さんは俺とは別の会社に勤めている。転生してからつい先日、何やかんやで出会って取りあえず連絡先は交換していたが、勤務先の詳細まではお互い知り得ていなかったはずだ。

    「いや、鯉登さん、どうしてここに……」
    「細かいことは気にするな」

     いや、気になりますけど? しかしながら連日の深夜残業の疲労が続き、これ以上考えるのは、もう止めた。

    「帰るぞ、月島」
    「……はい」

     明かりの消えたオフィスの建物を出て、鯉登さんとトボトボ歩く。当たり前だが外は暗い。建物は出たが敷地はまだオフィス内だ。石畳をゆっくり歩く。守衛室の建物に進み、鍵を返却した。返却の際、守衛さんが何処となく不思議な顔をしていたが、おそらく隣の高身長の所謂イケメン鯉登さんを見て珍しがっていたのであろう。これまた深く考えることを止めた。
     守衛に鍵を返却し終え、正門に進む。完全にオフィスを離れ、後は家路に向かうだけだ。

     ふと生暖かな風が吹いて、白が舞い散った。

    「桜……」

     桜の花弁を背景に、鯉登さんが佇んでいる。

    「月島、誕生日おめっと」

     輝くような、笑顔。
     笑顔はいいのだが。

    「鯉登さん……もしかして、それを言いに、ここに?」

     何故ここに鯉登さんが来ているのか、誕生日を覚えていたのか、明治からの記憶を持っているのか、何もかもが謎だけど、今日ばかりは考えるのを、止めよう。
     頷く代わりに鯉登さんが、手を、伸ばす。
     伸びやかな鯉登さんの手を取って、宵闇の花弁の舞う正門を抜け出した。


    END
    20230401
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    MEMO20220422 大団円後のモブ視点鯉月if話のプロットです(プロットではないです)。時代考証とか何も考えてません。追記:さすがに佐官は盛りすぎました。
    金塊争奪戦後の鯉月ifサッポロビール工場や五稜郭の戦いはロシア人ゲリラたちの鎮圧のため、列車内の惨劇はヒグマと土方歳三率いる脱獄囚によるものということになった。部下を多数失ったことや権利書を横領しようとした件は行方をくらませた中尉に全ての罪をひっかぶせて、残った部下を守るために少尉は奔走する。親が軍高官であることや、中尉に騙されていたむしろ被害者であること、顔に大怪我を負ってまで戦い抜いたことが評価され、少尉の罪は不問になる。
    だが中尉の腹心の部下で下士官だった軍曹は罪を免れることは出来ず、また本人もそれは望まなかったため、免官となり再び陸軍監獄へ入ることになった。

    何年かが経ち、そんな争奪戦のことも知らない若い兵士が新たに師団へやってきて、進級して大尉になっていた鯉登元少尉の下につく。休暇ともなると、鯉登閣下は誰にも何も言わずに外出しているので、ある時どこへ言っているのか尋ねると「想い人に会いに行っている」のだという。それからも時々休み明けに気力充実している鯉登閣下の顔を見ては、「あ、想い人に会ってきたのだな…」と部下は微笑ましく思っていた。いつも閣下が会いに行くばかりで、一緒に外出やご旅行などもされた様子が無いし、もしやその想い人とはどこぞで囲われている芸者か遊女であるまいか、と心配にもなったが、何より鯉登本人が嬉しそうなのである。「囚われの姫のようですね」と言うと、鯉登閣下はキョトンとした顔になってから大笑いして、姫か、それはいい、あいつはどんな顔をするだろうなと目を細めた。
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