地獄へようこそ「あーぁ……」
バタン。ドアが閉まり、走り去るタクシー。
その後ろ姿を恨めしく見送って、正守は思わず低い声を漏らした。
そして全ての音は夜闇に溶けていく。聞こえるのは、しとしと降る雨音と待合室の蛍光灯の音だけ。
「どうする」
これは問いかけではない。諦めのため息、それを表した言葉。正守は苛立ちを隠さず再びベンチへ腰掛けた。
先程やってきたタクシーを、ぽっと出の他人に譲ったのは良守だ。一時間待ってやっとそれを、見計らったかの如く居合わせた年若い女性。そんな彼女に「先、乗ってください」と良守は躊躇いなく譲った。
いいよな?と言いたげに目配せをされた、あの瞬間を……思い出しただけで本当に胃が痛くなった。
暗転。
タクシーの待合室、苛立ちを隠さない正守。その正面に良守はいた。
3483