妖の攻撃を受けて嗅覚が異常に鋭くなってしまった兄貴。医療班曰く解除方法がわからず、おそらく時間経過で治るとのこと。ま、そのうち良くなるだろって思ってたけど日常生活をするのも困難で常に薄く絶界を纏ってないと色んな臭いに耐えられなくてダウンしてしまう。結界や絶界を使用しても真空状態にしない限り臭いを断つことは不可能と判断。それでも使っていればマシなので薄く絶界を纏って生活することに。夜行内でも子供たちとぶつかったら危ないし正守の体調も考慮して部屋に籠るようにしたり、仕事も単独でこなすことで何とか生活してきた。単独仕事で烏森付近に寄る用事があったので、仲間に迷惑かけてばかりなのもいけないし、これを機に一旦実家へ帰るよと1日休みを取ることにした正守。
祖父には事情を説明し絶界を纏ったまま帰省。
修史や利守は家にいたので繁守から正守のことを聞かされていたが、学校から帰ってきていない良守は当然のように何も知らされてない。
良守がいつも通り帰宅したとき。
「おかえり」
偶然廊下にいた正守が笑顔で良守を出迎える。
が、笑いながら絶界を纏って近づいてくるので良守は真っ青になって咄嗟に扉を閉めてしまう。
「なんで閉める?上がっておいでよ」
正守は扉を開け玄関から外に顔を覗かせる。
良守がすごい顔して「う、うわぁああ!」
と後ずさって尻餅を着いたので顎髭を撫でて怪訝な顔をする正守。
「平気か」
手を差し伸べられて良守は微妙な顔をして正守を見上げる。
「あぁ、そうか」
正守はうっかり自分が絶界を纏っていることを忘れていた。日常になりすぎて。
すぐに絶界を解いてもう一度手を差し伸べる。
良守はそれにもあまりいい顔はしなかったが、今度は正守の手を取って起き上がった。
「お前なにしてんだよ」
それは割とこっちのセリフかな、と思いながら正守は「サマーバケーションだよ」と真顔で戯ける。
「はぁ?」
良守が正守の手を離すと正守がすぐに絶界を纏うので良守は益々眉間のシワを深くした。
「全然休めてなさそうに見えるけど」
ごもっともだな。肩を竦めて正守は肯定する。
絶界は攻撃型の結界だ。それを常時発動しているとすれば良守も困惑する。こんな警戒態勢で実家にいられちゃ堪らないか。
「常時絶界発動しなきゃなんねえような敵に狙われてんのか」
そっちの心配?
正守はちょっと笑ってしまう。
相変わらずお人好しな良守に、こっちが参ってしまいそうだった。
「説明するより手早いから、実演してやるよ」
「は?」
正守が絶界を解いて素早く良守の腕を引っ張り、自分の胸に倒れ込ませた。
絶界を解いたことで外気臭だけでなく良守を抱くことで体臭や染み付いたその他の臭いで、正守は良くて倒れるか最悪吐き出す。
と、思っていた。
「あれ」
良守の周りは臭いがしない。
「???なに」
怪訝な顔で見上げられて、正守は何かよく分からない感情に支配されかけて生唾を飲み込む。
良守の周りは無臭だった。
正守は久々にまともな呼吸ができた気がして、掴んだ良守の腕を強く握って離せない。
「正守ー」
背後から修史の声がした。ハッとなり正守は良守を咄嗟に突き飛ばしてしまう。
簡単に倒れた軽い体に冷や汗をかきつつ修史のほうへ振り返った。修史は手招いて廊下から正守を呼んでいる。
「電話だよ、夜行の隊員さんから」
「あ、あぁ」
修史は正守の影に隠れてしまったせいけ良守の存在に気がついていなかった。
「今行く」と正守は声を張り上げてからもう一度絶界を纏い直す。そして正面にいる良守に正守は小さな声で語りかける。
「何でこんなことになったか説明したいから、あとで客間においで」
「あぁ?何だって???」
突き飛ばされたことできょぜつさ