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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。甘えて甘やかして甘やかされるらぶらぶなさいぼぐが好き。

    #PsyBorg

    『検査でサイボーグパーツの一部に問題が見つかった』
    そう言ってふーふーちゃんはサラダを食べた。あんまりいつも通りの口調だったから俺は作業をしながら「へぇ」と返して、数秒経ってから「うん?」と手を止めた。いま、なんて?
    「問題? 異常があったってこと?」
    『ああ。それでパーツを取り替えなければいけないんだが、俺のこの体はそこらへんで直してもらえるようなものじゃないんだよ』
    「ふーふーちゃんどこか行っちゃうの?」
    『いや、俺がどこかに行くんじゃなく、足だけ外してそれを直してくれる人のところに送るんだ。だから、配信はしばらく休むことになる。ただの休暇ってことにするから他のメンバーには特に言わないけど、浮奇には伝えておこうと思って』
    痛みを隠すのがうまい人だ。周りを落ち着かせて楽しくさせるのが上手で、自分のことを後回しにする優しい人。きっと何も知らなかったら俺が後から一人でうんと後悔することも分かって、こうやって先に教えてくれるんでしょう。
    「……俺、そっち行こうか?」
    『浮奇は配信があるだろう。それに車椅子を使えば最低限生活には困らないから大丈夫だよ』
    「ドッゴのお散歩は? お風呂だって大変でしょ? 配信なんてどこからでもできるもん」
    『そういうつもりでおまえに言ったんじゃない』
    「そうかもしれないけど、実際動ける人はいたほうが便利でしょ。配信ができないなら話し相手も欲しいんじゃない?」
    『積んでいた本を読んでのんびりするから』
    「わかった。ハッキリ言うね。俺が、ふーふーちゃんに会いたいの。きみの手伝いをするって言い訳をして独り占めしたいだけ」
    『……』
    「わがままな俺はきらい?」
    『……ずるいぞ、浮奇』
    「知ってたでしょ」
    自分のわがままを言うより人のわがままを聞くほうがいいなんて俺には理解できない性格だけど、それを利用するのは他の人よりうまいはずだ。好きって言葉はパフォーマンスじゃない。本当に、きみのことをずっと見てるんだよ。
    『……少しだけ、手を借りてもいいか』
    「俺がふーふーちゃんのお世話をしたいんだよ。俺のわがままをとらないでくれる?」
    じっと見つめるとふーふーちゃんは一瞬泣きそうな顔をして、それを誤魔化すように笑って見せた。ジョークにしてあげるために俺も笑みを浮かべてから、そっと不安を滲ませた目で上目遣い。
    「本当に行ってもいい? 迷惑だったら迷惑って言っていいよ」
    『……迷惑なんかじゃない。俺も浮奇に会いたい』
    「……ありがと。じゃあ会いに行く。お休みはいつから? ふーふーちゃんの配信機材とか借りても平気?」
    ふーふーちゃんがギリギリで言ってきたせいで俺が家に行けたのはその通話から一週間後で、すでに彼は数日を義足のない一人きりで過ごしていた。
    インターホンを押し、いつもの倍以上待ってから扉が開く。話に聞いていた通り車椅子に座っているふーふーちゃんを見て俺は玄関の扉を開けたまま覆い被さるようにハグをした。
    「おまたせ、会いに来たよ」
    「いらっしゃい、浮奇。わざわざ来てくれてありがとう。早く扉を閉めろ」
    「ふふ、はぁい。体調は? ちゃんとごはんは食べてる?」
    「ああ、今のところ問題なくやってる」
    ふーふーちゃんが後ずさったから追いかけるように家の中に入り、扉と鍵をきちんとしめてからもう一度ふーふーちゃんに向き直る。いつも通りに俺に手を伸ばすけれどその手は俺の鞄に届かないから、俺は肩に引っ掛けていたショルダーバッグを手に取りふーふーちゃんに手渡した。
    「えへへ、ありがと」
    「今日はスーツケースを持ってやれなくて悪いな」
    「転がしていけるから大丈夫。車椅子押してみたいから荷物置いたら手伝わせてね」
    「電動だから押す必要はないけど」
    「俺がやりたいだけ」
    「……ん、了解。いつもは下の部屋を使ってもらってるけど今は俺がそこを使ってるから、俺の寝室を使ってもらっていいか? スーツケースを二階まで上げるのが大変であれば荷物は下に置いたままでもいいし」
    「やった、ふーふーちゃんの部屋使っていいの? ベッドのシーツ替えたのいつ?」
    「ちゃんと新品に替えてあるから綺麗だよ」
    「嘘でしょ新品? 俺はふーふーちゃんの匂いがしたほうが嬉しいって思わなかったの?」
    「……夕飯は何を食う? 移動で疲れただろうし今日はデリバリーを頼むか」
    表情ひとつ変えずにふーふーちゃんは俺の言葉を無視してリビングに行ってしまった。笑いながらその後を追いかけて「冗談冗談、ちゃんとふーふーちゃんが寝てるベッドに潜り込みに行くから待っててね」と言えば今度こそ呆れた目を向けられる。
    「今日はお休みにしたから家のことをさせてね。洗い物と掃除、できてないでしょ」
    「……悪いな」
    「「ありがとう」だよ、ふーふーちゃん。ほら、言ってごらん」
    「……ありがとう、浮奇」
    「どういたしまして。本当に気に病まないでね。俺、好きな人には尽くしたいタイプなんだ。知ってた?」
    「……ああ、知ってた。……少し近くに来てくれるか?」
    リビングの片隅に荷物を置いてから、ふーふーちゃんのすぐ目の前に立つ。首を傾げて見せるとふーふーちゃんは俺に手を伸ばした。荷物は持ってないし、上着だってもう脱いだ。あとふーふーちゃんが欲しがるものは……俺、かな? なんて。
    「なぁに、ふーふーちゃん」
    その手でいつもみたいに頬に触れて欲しくて、俺は身を屈めてふーふーちゃんに顔を近づけた。期待通りに頬に触れた手はするりと輪郭を撫でて首の後ろを優しい力で引き寄せる。慌てて車椅子の肘掛けに両手を置いて、俺は目を丸くしてふーふーちゃんのことを見つめた。
    「困ったな……」
    「へ、え、なにが」
    「キスをするにも浮奇に動いてもらわないといけないみたいだ」
    「っ」
    ほんの少し腰を浮かせたふーふーちゃんに、俺は慌てて自分からグッと顔を近づけた。唇が重なって、ふーふーちゃんが俺の後頭部を撫でる。
    「ありがとう、浮奇」
    「……心臓に悪い」
    「ごめんな?」
    「いいよ! ふーふーちゃんより俺の方がちゅーしたかったしっ!」
    「ふ」
    優しい笑い声をこぼして、ふーふーちゃんは俺から手を離した。ちょっと? もう終わり? ムッとして睨むとふーふーちゃんは少しの間その視線を味わってから、耐えきれなかったように「ふはっ!」と吹き出し、もう一度俺に手を伸ばした。俺はふーふーちゃんに引き寄せられるより先に顔を近づけて、何か言われる前にキスをした。ちゅっと甘い音を数回立て、薄く目を開けて視線も絡ませる。
    ソファーに並んで座ってキスしたり、キッチンで立ったままキスしたり、ベッドで寝転がってキスしたり、いろんなところでいろんな体勢でキスをしてきたけど、ふーふーちゃんが全然動けないって状況は初めてかも。キスを始めるのも終わらせるのも、俺のさじ加減だ。いつもならそろそろ唇を離して、でも額をくっつけたまま呼吸を混じり合わせて息をつく頃だけど、ふーふーちゃんはそのままキスを受け入れてくれている。顎を上げて俺を見上げる彼の頬に手を添え、俺は唇を食み続けた。知ってたけど、俺って本当にキス魔みたい。
    ふーふーちゃんの手が俺の肩を弱く押したところで俺はようやく唇を離した。でもいつもよりいっぱい触れていたからまだそばにいたくて、彼の頬や目元、鼻や額と、顔中にキスを降らせてしまう。そろそろ本気で呆れられちゃうかな。
    「うき、うきき、ふっ、くすぐったい、こら」
    「……わんちゃんに言うみたいに言わないでよ」
    「やってることはほとんど犬じゃないか。ほら、その可愛い顔を見せてごらん。ああ、犬じゃなくて浮奇だったみたいだ。どうりで舌使いがうまいはずだな」
    「ドッゴとでもベロチューしたら浮気なんだけど」
    「するわけないだろバカ。はあ、もう、……ふふ」
    「……ふーふーちゃん」
    「ん?」
    「……洗濯してくる」
    「いま? ……浮奇、待って、もう一回」
    このままじゃずうっとふーふーちゃんにキスしてて、ここに来た意味がなくなっちゃうから、彼から離れて意識を逸らしたいって思ったのに。可愛く両手を伸ばしたふーふーちゃんを無視できるわけがない。
    キスしたいの、俺だけじゃなくてふーふーちゃんもなんだって。ねえ、本当にそんな幸せなことある? うまく言葉にできないまま再び背中を丸めてふーふーちゃんに顔を近づけた。ちゅっと、触れるだけのキスをして唇を離す。ふーふーちゃんの手が俺の後頭部を引き寄せて何度も唇が重なる。
    一人じゃ大変なふーふーちゃんと一緒にいられる間俺がいっぱい甘やかしてあげようって思ってたのに、結局俺がふーふーちゃんに甘やかされてるじゃん。
    「っん……ふーふーちゃん、俺のこと、あんまり甘やかさないでよ……」
    「実は俺は好きな人はとことん甘やかしたいタイプなんだよ。知ってたか?」
    「……しってた」
    「じゃあ諦めて甘やかされてくれ」
    ん、と唇をちょっとだけ突き出し、ふーふーちゃんは笑って俺を見つめる。甘えられてるようで嬉しくて、結局それって俺が甘やかされてない?って不満にも思う。でももう、どっちでもいいかな。だってふーふーちゃん、好きな人をとことん甘やかしたいタイプみたいだから。俺がたっぷり甘やかされてあげなきゃでしょ?
    隠しきれずに溢れた笑みを浮かべて、俺はふーふーちゃんにとびきり甘いキスを降らせた。
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