『兄さん助けて!バンが大変なんだっ』
番号を知るのは片手の指で足りるほどのプライベート用端末に突然電話がかかってきたかと思えば普段連絡を寄越すことなどない弟が必死な様子でそんなことを言い出すのでメノウは心底驚いた。
それまでの作業を中断して、端末からの声を聞き逃さぬよう耳を傾ける。
「ヒスイ、落ち着いて。一体なにが、」
『目が覚めなくて…ずっと眠ったままなんだ…、熱があって、食事もとってなくて…』
それは大変だ。
過去に敵対したこともあるとはいえ、大事な弟を預けている相手だ。大人という立場もある、ああそうですかと見捨てることはできない。
「医者にはかかりましたか?薬は?」
『近くの病院でもらった薬を飲んでた。でも、それから少し休むって寝始めてからもう何時間も経つのに、もし、もしバンになにかあったら俺…っ』
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