無自覚なsweet【ウエサウ】「ウエスター君」
「どうした?」と振り向いたウエスターに、サウラーはとあるものを見せる。
「今日はほら……『これ』の日でしょ?」
サウラーが細い指でとんとん、と軽く叩いたのはポッキーの箱だった。
「ああ、そういえばそうだな。で、それがどうかしたのか?」
ウエスターの返答に、サウラーは小さく溜め息をつく。
「相変わらずキミは鈍いよね……仕方ない、ヒントをあげよう」
そう言うとサウラーは箱を開け、中に入っていた袋を一つ開封した。ポッキーを一本取り出すと、その端を口に咥えてそっと目を閉じる。
(……察しの悪いウエスター君も、こうすればさすがに気付くだろう)
ウエスターの「なるほど、そういうことか」という声が聞こえた、次の瞬間。
サウラーが咥えていたポッキーが、何故か引き抜かれた。何が起こったのかと思わず目を開けたサウラーだったが、自分の置かれている状況を理解するや否や驚きで一瞬呼吸を止めてしまう。
ウエスターが、サウラーにキスをしていたのだ。それもポッキーを辿ってではなく、いつものように直接。
「……まったく、お前は時々妙にまどろっこしいことをするな。キスがしたいなら、直接そう言えばいいだろう」
真っ赤な顔で固まっているサウラーには、ウエスターの言葉に反応する余裕は残っていなかった。
「このポッキーはもらって良いんだよな?」
サウラーの返答を待たず、ウエスターは先程サウラーの口から奪ったポッキーを齧る。
「うん、美味い!お前も早く食べたらどうだ。ぼうっとしてると、オレが全部食べてしまうぞ?」
「っ……!」
悔しさと恥ずかしさと、その他諸々の感情が入り交じった複雑な表情で、サウラーは声にならない声を上げた。
「どうした、サウラー?顔が何だか怖いぞ」
「ッ……ウエスターの、馬鹿!」
叫ぶように言うと、サウラーは足早に部屋を出ていってしまう。また何か怒らせるようなことをしてしまったか……?と首を傾げるウエスターは、部屋を飛び出したサウラーの耳が真っ赤だったことには気づいていないのだった。