先生にも生徒にも評判の良い優等生で、学年でも優秀だと知られてる九井くんには噂があって、ガラの悪そうな人たちとつるんでるところを見たとか、真夜中に六本木のクラブから出てくるところを見たなんて話を聞く。
本当かどうかは分からない。
でも確かに九井くんには、その噂を「そうかも」と思わせるだけの雰囲気があった。
比較的裕福な家庭の子供が通うこの学校では、よく言えば穏やかで素直そうな、悪く言えばぼんやりとした呑気な顔をしている生徒が多い。そういう生徒たちと並んで立った時、九井くんの持つ雰囲気は異質なのだと言うことがよく分かる。
硬質で、鋭くて、ひやりと冷たそうなのに夏の熱帯夜みたいな湿度を持った九井くんは、ごく普通の家庭で普通に育ってきた自分とはまるで違う世界の人に見えた。
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