薫零⬅渉『零が……零が…盗られる……』
『…渉……?』
『…そうです……!まずはその綺麗なお顔と体を傷だらけにしましょう!』
『…渉……!?』
『そうすれば、盗る人も減るはず…!!』
『やめろ、渉っ…!!』
***
「零くん。零くん!零くん起きて!」
体を揺すられハッと目が覚め、夢と現実の区別がつかないまま咄嗟に身を守る仕草をしてしまった。
大袈裟に反応する我輩を見て薫くんが心配そうな顔で覗き込んでくる。
そうじゃ…、今は次の仕事先へバスで移動中じゃった…。
「大丈夫…?うなされたけど……、嫌な夢でも見た…?」
「…ぁ…すまん……、ちょっと昔の夢を見ただけじゃよ」
そう…、昔の夢。
元彼の日々樹くんに殴られ、犯され、最後は刃物で皮膚に名前を掘られたあの日の夢。
日々樹くんと別れて1年はゆうに過ぎてるというのに今更何故こんな夢を……。
軽く頭痛がした気がして夢見の悪い頭を押さえる。
その間も薫くんは心配そうな顔で我輩の様子を窺っていた。
「………♪薫くん…♪そう、心配せずとも大丈夫じゃよ」
「本当に…?」
「ほんとほんと♪」
二枚看板で唯一無二の相棒、そして恋人として過ごしていくうちに気付けば移っていた薫くんの口癖を言えば、薫くんはもぉ〜!っと言いながら笑ってくれた。
今となっては日々樹くんは過去の男。
今の我輩にはこんなにも素敵な薫くんがいる。
そう言い聞かせながら夢の事は忘れることにした。
「じゃあ、零くん、また後でね♪」
「うむ、寮でまた会おうぞ♪薫くん♪」
午前は一緒の仕事だったが、午後はお互い別々の仕事為、名残惜しいが薫くんとは一旦さよなら。
移動バスが発車するのを見送り、現場のスタジオへ向かった。
「待っていましたよ、零♪」
「日々樹くん!?」
現場入りすると高らかな声で出迎えたのは今最も会いたくない男の日々樹くんだった。
忘れようとしていた夢が脳裏を駆け巡り首すぎから背中にかけて汗が流れる。
「ちょっと!何ですか?そのお化けを見たような反応は!?」
「ははは…。すまん、すまん。今日の仕事相手が日々樹くんじゃったことをすっかり忘れておったわい…」
これは本当。
日々樹くんと別れてからも何度か仕事を一緒にしたがそれはユニットメンバーや他にも人がいた時。
今日は別れてから初めての2人だけの仕事という事もあり、無意識のうちに緊張しあの夢を見てしまったのだろう。