わたれ+りつれ-凛月side-
あんなヤツと別れて欲しかっただけ。
兄者の中ではいつでも俺が一番だったのに、その一番を取られたのが悔しくて邪魔だっただけ。
ただそれだけだった。
だから、アイツが……『日々樹くん』が海外へ長期の演劇公演へ飛び立ったのを好機に『日々樹くん』の偽の熱愛報道の記事を作って兄者に見せつけた。
俺の作戦では勘違いをした兄者が『日々樹くん』に別れを告げるはずだった。
でも、兄者は……。
「……そうか………」
この一言だけを呟いて部屋へ行き、その日以来、兄者の様子がおかしくなっていった。
***
「渉……♡渉……♡後ろ…準備してきたから…ぬるぬるだから…♡すぐ…挿入出来るぞ…♡」
あの偽の熱愛報道の記事を見せた日から兄者は『日々樹くん』の名前を呼びながら俺の部屋に来るようになった。
発情したΩのように俺の上に跨って腰を振り、『日々樹くん』の名前を呼ぶ兄者。
-零side-
日々樹くんとは、セフレのような関係から恋人へ進展したようなものだった。
お互い、α同士。
名前も知らなければ顔も知らないΩのヒートのフェロモンに当てられ、それでもαの本能のままにΩを虐げ、ましてや強姦なんてしたくなくて残り少ない理性の中、お互いで発散させたのが関係の始まりだった。
「あっ、、ぅ……ッッ…わ、たる…うなじ、、強く噛みすぎ…」
「はぁ…はぁ…、はぁ……すみません…でも、止められなくて…」
「ぁ……あっっ、、ん…っん…ぁ……」
日々樹くんに噛まれたうなじの痛みと丁寧に解したとはいえ排泄機能しか持ち合わせてない後孔とナカの圧迫感と痛みは今も鮮明に覚えている。
普段のとんちんかんな行動をしてる時の顔とも演劇練習をしている時の真剣な顔とも違う、我輩のうなじを噛む時、ただの一匹の雄の顔をする日々樹くんを初めて見た時……。
このまま番になれたらいいのに…。
αの自分がαの日々樹くんにこんな事を思うなんておかしいと思うが、でも、確かにそう思ったのだ。
もしかしたら、我輩はこの時には既に日々樹くんに惹かれていたのかもしれない。
だから、日々樹くんと身体を重ねる度、日々樹くんがうなじを噛んでくる度、嬉しくもあり虚しくもあった。
セフレから恋人になってからも同じで、関係は強く深くなってもうなじに残るのはいつも痛みと痣だけ。