ジョハリの箱庭・Ⅴ『盲点』(1/2)
『たみおくん』
誰かが呼んでいる。
『民尾くん』
懐かしい声。
『ねえ、また聞かせてよ。列車の話』
柔らかい笑顔が、民尾の隣に咲いた。
気づけば、また民尾は夢の中にいる。あの、幼い頃の記憶を継ぎ接いだ世界に。
普段はそれを認識した途端に意識が現実を指向し始めるのだけれど、今日は勝手が違った。隣にいる幼い友人が呼んでいるから。その声が、微笑みが、民尾のたましいを優しく掴んで、留め置いてくれている。あどけない面立ちの後ろで、鉄道模型が無限の轍を巡り続け、車体がレールを引っ掻く軽い音だけが、子供部屋には満ちていた。
『しょうがないなぁ』
勿体ぶってみるけれど、緩む口元は抑えられない。
本当は、こうやって友人と時間を共有できることが、嬉しくてたまらないのだから。背伸びをして、わざと冷淡に振る舞ってみせても、彼はそれを嫌味と取ることもない。いつでも心から驚嘆し、素直な歓声を上げてくれる。それを確かめたいからこそ、民尾はいつも無理に彼へすげない態度を取っていた。
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