まどろみの楽園霧の深い夜だった。
森を満たす細かな水滴は、辺りにあるものの表面を舐め取って複雑な匂いを成す。生い茂る木々から、ぶよぶよした腐葉土から。そして、そこら中に転がった細切れの死骸から立ち昇る血煙から。
地に伏す骸はいずれも鬼殺隊士たちのものだった。背中に負った「滅」の文字は千切れ、どす黒く染まり、最早夜闇と同化しつつある。ただ独り残った隊士は、恐怖と疲労で荒くなった呼吸で、同胞の血を吸った霧を取り込み続けている。
対するのは洋套を纏った少年だった。揺らめく炎のような痣で顔中が覆われ、うすく開いた唇からは尖った牙が覗いている。そして、かつて彼の象徴でもあった花札のような耳飾りは外され、耳朶に空いた穴だけがくろぐろと夜にその虚ろを晒していた。
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