《 偏愛2 》「ジェイド先輩の好きなところ？えーっと頭が良くて格好良くって、それから、」

　へーへー、お熱いこって。
　呆れた声に返されたのは、すでに懐かしい学生時代のこと。
　
　◇

「ならばここを出て行きますか？あなた、僕無しでどうやって生きていくおつもりで？」

　ちょっとした言い合いの最中に投げつけられた言葉。歪に口角を吊り上げたジェイドの挑発的な瞳に見下げられたユウは、頭の中心が急速に冷えていくのを感じた。自身を取り囲む空気がどろり、と澱む。それはまるでスライムが肌を滑り落ちていくような、粘性をもった不快感。

　何故
　何故、
　何故。

　どうしてそんな、つまらないことを言うの。

　彼女の心を満たしたのはありがちな悲しみなどでは無い。真っ赤な怒りだ。

知っていますか、僕の心の激情を　裸に剥いた体をバスタブに投げ入れコックをひねる。冷水を頭から浴びた監督生さんは咳き込んで苦しみ、もがくように頭を振った。
　手足を縛られ、身動きができないその姿はまるで打ち上げられた人魚のようだ。環境に適応できない陸の人魚は酸素を求めて大きく口を開ける。僕はシャワーを止めて、急ぎその唇を自分のもので覆った。
　監督生さんの体が震えているのは寒さのせいかそれとも。いずれにせよ早く安心させてあげなくては。
「故郷の海はこれよりもっと冷たいんです。あなたが望むのならすぐにでもお連れしますよ」
　優しい言葉を与えるつもりだったのに、口から出たのは正反対の脅し文句。その言葉にようやく、僕は僕自身のうずきを知る。