完全に油断していた。横からシュウが飛び込んできて、オレは持っていたグラスだけ間一髪で隣に座っていたミスタに手渡し、シュウにそのまま押し倒された。
目が据わっているシュウは、じっとオレの顔を見つめる。ていうかキミ、珍しく泥酔してさっきまでカーペットのところで寝てたよね?いつのまに起きたんだろう。
「るぅかぁ」
「ん?」
「るかだ〜」
酔っ払い故の舌ったらずな話し方は、正直可愛い。ふにゃっと笑ったシュウは、オレのお腹の上に座る。ニコニコしながらオレの腹筋を撫でて、ご満悦だ。
けれどここで問題が一つ。二人っきりなら、可愛いねシュウ、んーまっ!て、キスの一つや二つしてあげたいところだけど、オレたちはいま、ヴォックス、アイク、ミスタの三人(酔っている)に見守られているのだ。シュウのメンツのためにも、下手なことはできなくて、オレの中に緊張が走る。
「甘えん坊だな、シュウ」
「普段の彼からは想像できないね」
「可愛いよ、兄弟!」
「私の方が可愛いぞ」
「………」
いい酒のつまみを見つけたと上機嫌な三人を尻目に、オレの緊張度合いは高まっていく。だってどう考えても、シュウの目に熱がこもってきてるんだ。
変なこと、つまり、まあオレはいいんだけど、明日起きてシュウが恥ずかしくなるようなことは言わないで…!ってドキドキしてる間に降ってきたのは、熱烈なキスだった。
「しゅ、しゅう、うぷ、ん、んーっ!」
「いいぞいいぞ、シュウ!」
「シュウ〜いけいけ」
観客席は完全に盛り上がって、口笛を吹いて拳を上げて、もうお祭り状態だ。オレはというと、意外と力が強い酔っ払いに、上から退いてもらうことに苦労していた。
舌はうまく使えないのか、シュウは何度も何度もオレの唇を食む。その仕草が子供っぽく見えて、可愛い。酒臭いのも、愛嬌だ。できればキスは二人きりのときにしてほしいけど。…お互いのために。
「んんん、るかぁ」
「ん、なあに、シュウ」
「何で服着てるのぉ?」
熱烈なキスを終えたシュウは、唇の周りが唾液でベタベタなオレに、よく意味のわからない質問をした。
なんて?と聞き返す前に、シュウの指はオレのシャツのボタンに触れる。外されそうになって、慌ててその動きを制止した。
「脱いでもいいぞ、ルカ」
「ルカの胸筋を肴に飲むのもいいかもしれないね」
「どんな飲み会?」
ゲラゲラ笑っている三人を横目に、必死にシュウに話しかける。
「シュウ、シュウ待って。絶対後悔するよ落ち着いて」
「しないってばぁ!ねえるかぁ、」
「うん?わーーー!!待って脱がさないで」
「ねえ僕セックスしたい」
外野は馬鹿笑いに口笛にゴリラの真似にと大騒ぎだ。ミスタなんかもう立ち上がってる。オレは、あまりにもストレートなお誘いに(シュウからは普段なかなか誘ってくれない)戸惑いながらも少し興奮していた。
でもダメ!ダメ!他の人の前でそんなことする趣味はないし、ちゃんと止めてあげないとシュウにも申し訳ない。
「しないよ!!待ってシュウ、みんないるでしょ?」
「じゃあ部屋行こ?」
「あはは、行ってきていいよ」
「後片付けはやっといてやるよ」
「熱い夜を」
「るかぁ、ねえほらみんな言ってる」
「ちょ!!も、もおおおお!!」
とりあえず、今のシュウと三人は相性が悪すぎることだけわかった。引き離さないと、とシュウを担ぎ上げ、立ち上がる。(上がる歓声)
ふらつくところをなんとか耐えて、リビングを出た。シュウは満足そうに手拍子をしている。そのまま壁にぶつかりそうになりながら、階段を登って、シュウの部屋へ。
扉を閉めて、シュウのベッドへ彼をおろす。シュウはというと、多分セックスできると思って、オレにニコニコしながら手を伸ばしている。
「………」
「るか、る〜か」
「………」
揺れる理性。正直、したい。お酒のせいとはいえ、恋人がこんな熱烈にお誘いしてくれているのだ。したくないわけがない。
でも今家にはヴォックスたちがいる。しかも、シュウがしたがっていて、そのうえでオレたちが部屋に戻ったのを知っていて、かつお酒も飲んでいる。
絶対にやめた方がいいのはわかっている。状況が最悪だ。でも、でも…
「るーか、しよ?」
ダメ押しの一撃。
オレの理性はもうなくなりました。
シュウ手を引かれるままベッドに潜り込んで、キスをして、シュウの目がとろんと蕩けて…
「いだっ!ヴォックス!」
「お前が場所を取りすぎなんだ!」
「ちょっと静かにして!」
「………」
オレの理性が帰ってきました。
イヤイヤするシュウに布団をかけて、そこに転がっていたバナナのぬいぐるみを持たせて、とんとんと胸を叩いてやる。最初は抵抗してたシュウも、だんだんと目が開かなくなっていって、そのまま眠りにつく。
ほっと胸を撫で下ろして、立ち上がる。さあ、次はヴォックスたちの片付けだ。