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    mctk2kamo10

    @mctk2kamo10

    道タケと牙崎漣
    ぴくしぶからの一時移行先として利用

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    尻たたき兼サンプル。12月のゆるパバでこんな書き下ろしの入った再録本が出ます(サンプルに道タケ要素少ないですが書き手が道タケなので道タケです)(あとレンレンこじらせています)

    #エムマス【腐】
    #腐向け
    Rot
    #道タケ

    ONES 序幕 無重力


     揺れる宇宙船の中で、大柄で軍服を着た者が舵を握っていた。その隣の貧しい身なりの者はひっきりなしに船外の様子を探っては伝えている。宇宙船ぎりぎりを流星がかすめ、貧しい身なりの者が冷や汗を流す。限界を悟ったのか、彼は振り返った。
    「『おい、神とやら! お前の力でどうにかならないのか』」
     神と呼ばれた者はふん、と鼻を鳴らした。
    「『もうやっている』」
     舞うように、その指先が虚空で曲線を描いた。それに合わせてまた船の外で流星が落ちる。もうやっている、というのは本当らしいと悟って貧しい身なりの者はまた様子を探ることにした。そして舵を握る軍服を着た者に伝えて、星を避けてもらう。
     船は今、流星群へ突入しようとしていた。三人と積み荷がいくつかあるだけの小さな船だ。流星群の中に進んでしまえばひとたまりもない。
    「『よもやここまでなのか、俺たちの旅路は』」
     貧しい身なりの者が耐え切れない、と言うように声を上げた。
    「『メーデー、メーデー、メ……』」
     その続きは自分自身で飲み込んだようだった。軍服を着た者が片手で貧しい身なりの者を制していた。神と呼ばれた者も舞いながらも視線を貧しい身なりの者に向けている。
     それだけで全員の意思を悟った彼は、首を振った。
    「『いいや、俺たちは』」
     振り返って、三人が頷き合う。
    「『いいや、俺たちは、俺たちだけの力で漕ぎ出そう』」
     まっすぐに前を見据えた瞳に光が映っている。


     次の仕事はまた舞台の仕事だとプロデューサーが言っていた。舞台の仕事は嬉しい、やはりTHE虎牙道は生で動いて見せてこそだ。しかしタケルにとって文字を読むのはそれほど得意なものではない。読み合わせに先立って台本をもらってきたのは良いものの、やはり一人では台詞を覚えるのはおろか読み通すことさえ苦戦する。結局オフの日に、道流の家で声を出しながら一緒に読ませてもらえないかと誘われた。
     タケルはタケルの台詞を読み、そのほかの台詞を自分に頼ってくれた。読めない漢字や意味の理解できない単語の解説も与えつつ、なんとか読み終えたときタケルは首を傾げた。
    「アクションがメインじゃないのか」
     ないわけではなかった。けれど今までに比べれば「ない」と言い切っても良いかもしれない、と思うほどには少なかった。道流も「師匠がある種のチャレンジになるかもしれないと言っていたなあ」とプロデューサーの言葉を思い出しながら台本を捲る。
     宇宙船に乗り合わせた旅人たちの話だった。キャラクターに名前はなく、タケルは「貧しい身なりの者」、道流は「軍服を着た者」と表記されている。この場にはいないが、漣は「神と呼ばれた者」だ。彼らはそれぞれの事情を持って船に乗り、宇宙を旅する。その中で彼らは絆を深めていく。
     タケルも道流に倣ってぱらぱらと台本を捲る。難しい言い回しも多かった。彼はこの台詞を覚えられるだろうか、役に入り込めるだろうか。アクションがほぼないこの舞台を、どんな動きで作ろうか。いろんな不安が襲ってはまた別の不安にかき消される。
     意識して、一度息を吐いた。不安になるのはらしくない。こういうときはきちんと言葉にするべきだ。
    「確かに、ひとつのチャレンジだな」
    「そうだな。アクションが少ないから、ちゃんと演技力を磨いていかないと」
     頷いてみる。言葉にしてみると案外簡単に思えるのだから自分も単純だ。
    「役作りをしっかりしていかないとな」
    「そうだな……今回も最高のものを作って、頂点に立ちたい」
    「ああ」
     台本に目を落とす。チャレンジだというなら、これはTHE虎牙道として一歩前へ進むための物語だ。道流は思う。しかし今この場に漣はいない。わざわざオフの日にタケルが自分を頼ってくれたなら漣も連れてくるべきだったと反省するが、どうせ彼のことだから、と思う気持ちもある。
     自らを最強大天才と称し、(体を動かすことに限って)事実その通りに物事をこなす彼は、舞台仕事で失敗したことなどほぼない。道流の知る限りでは失敗はただ一度だけ。The Desert Kings Liveで動きが止まったあの一瞬だけだ。
     アクションが少ないと言えど、きっと今回の仕事も上手くこなすだろう。タケルははあ、とため息を吐く。
    「アイツ、どこにいるんだ」
    「さあ……いつも飯の時間になったらふらっと現れるからなあ」
    「そんな野良猫みたいな……」
    「それも漣の魅力だ」
    「魅力、なんて言って良いのか」
     道流は漣の気まぐれさをさほど気にしていない。それならタケルがどうこう言う問題でもないと判断したのだろう。それ以降何も言わなくなった。こんな読み合わせの前の読み込みなどなくても、やはり「最強大天才」という通りにやってのけるだろう。
     ぱら、と台本をもう一度捲る。宇宙船で星を巡る旅人たち。彼らの気持ちをもっときちんと知りたい。星とはなんだろう。地球も星のひとつ、と理解はしているけれど、他の星はどんなふうになっているのだろう。そういうことを知るなら――考え事をしていると、ちょうど道流と同じことを考えていたのかもしれない。タケルが「宇宙って、どんなところだろう」と呟いた。
    「そうだなあ……じゃあ、プラネタリウムにでも行ってみるか」
     タケルにはなじみのない場所だったろうが、これほど最適な場所もないだろう。いつか彼が弟妹に再開したときもプラネタリウムの話をしたら喜んでくれるかもしれない。ふたりといつか一緒に行くのもいいだろう。そういった予行演習になってくれたらいい。
     そんな親心にも似た感情でタケルを見つめると「円城寺さんが言うなら行ってみたい」とう返事があった。
    「それなら次のオフだな」
     となるとするべきはスケジュールの確認である。アイドル業もオフで、ラーメン屋もそれほど忙しくない時間帯を狙ってプラネタリウムへ行く約束をする。「アイツは」とだけタケルが尋ねるので、道流はなおさら嬉しくなって「絶対に一緒に行こう」と答えた。
     THE虎牙道として、一歩前に進むための物語。それを再確認して、もう一度台本の最初のページを開く。
     キャストの欄、最初に挙がった自分たちの名前を見て道流は微笑む。そして切り替えるように深呼吸を一度。
    「少し動きながら読んだ方が台詞を覚えられそうだ。付き合ってもらってもいいか」
    「もちろん」
     机を端に寄せて、台本を片手に二人きりで読み合わせを始める。


    「太陽だろうがなんだろうがオレ様がワンパンで倒してやるぜェ!」
     科学館には有言実行ということで漣を連れてきたが、その漣はやはり騒がしかった。こういうところでは静かに、と道流から注意を促されるも聞く様子がない。タケルはなんなんだと眉をひそめたがそれ以上は言及しないことにした。
    「プラネタリウムの開演まで余裕があるから、少し展示を見て回ろうか」
     科学館の常設展示へとタケルを案内し、チケットを買って通る。
     中に入ってみて、タケルは写真や解説の文字に圧巻されているようだった。道流は楽しそうにタケルの横に並ぶ。
    「この展示スペースは宇宙ステーションに似せた造りになっているそうだ。少しわくわくしないか」
    「ああ……宇宙ステーション、ってのがよくわかんねえけど」
    「それもこの展示を見ていったらわかる」
     道流は鉄道にも興味を示していたが、あのときの漣は鉄道なんかと切り捨てていた。タケルはどうだったろうか。自分と同じくタケルは漣に手を焼いていたようにも思うし、もっと家族について振り回されてしまったような気もする。ただ、それも懐かしい思い出だ。
     しかし、そんな思い出もこの展示の前では関係のないことだ。道流はもう待ちきれないとでも言うように「早く行こう」とタケルの背に手を回した。ああ、と頷いてくれたので一緒に展示を見て回る。
     プラネタリウムの時間と、読むのが遅いタケルのことを考えて写真をメインに見て回り、気になった部分だけ少しずつ読んでいく。その中に、宇宙に関するQ&Aというコーナーがあった。
     一問一答形式になっていて読みやすい。その部分にはすべて目を通すことにして読み進めると「宇宙には音がないって本当?」という質問があった。回答は「本当です」という。そうだな、空気がないものな、と道流が頷いていたところでタケルも同じところを見ていたのだろう。
    「音がない」
     そのままを呟いていた。何か反応を求めているふうではなかったので道流も同じくその先を読み進めていく。他にも宇宙の特徴が短い言葉でまとめられていた。音がなくて、それで――ふと時計を確認するとプラネタリウムの入場時間が差し迫っていた。
    「あ、タケル! そろそろプラネタリウムだぞ」
    「ああ、円城寺さん。今行く」
     道流に呼ばれてタケルがそちらに振り向く。



    第一幕 失った者


    「『次に行く星はどんな星なんだ』」
     船の中で小柄で貧しい身なりの者が尋ねた。質問を受けたもう一人――逆に大柄で軍服を着た者は舵を握りながらなんてことはないというように軽く答えた。
    「『噂では神さまのいる星、と聞いている』」
    「『神さまのいる星』」
    「『そうだ。なんでもその神さまとやらはその祈りひとつでこの世のすべてを思う通りにできるらしい』」
     荒唐無稽な御伽話に出てきそうな話を、顔色一つ変えず伝える。貧しい身なりの者も特段信じてはいないようで簡単に頷いた。
    「『そうか。楽しみだな』」
    「『お前の言う星ではないのか。行きたい星があると言っていただろう』」
     軍服を着た者の興味は次に行く星よりも貧しい身なりの者にあるようだった。貧しい身なりの者は首を振る。
    「『どうやら違うようだ。あの星に、神さまなんていなかった』」
    「『そうか。ああ、もう星に着く』」
     そして船が轟音を伴って、星に降り立った。音と風が砂埃を巻き上げ、その衝撃をうけて人が倒れる。しかし船に乗る二人はその人間に気づいていないようだった。
    「『ここが、神さまのいる星……』」
     二人はあたりを見渡した。高い高いビルが所狭しと並んでいる。舗装された道を自動車と路面電車が走り、中空にもモービルの走る高架線が引かれていた。群衆は皆一様に地に足を付けて歩いておらず、浮遊スクーターに乗っている。
     なんだこれは。そう言いたげに貧しい身なりの者と軍服を着た者が顔を見合わせていると、星の民らが彼らに声をかけた。
    「『旅人よ。この船で宇宙を超えてやってきたのか』」
     その声色に警戒の音はない。軍服を着た者がそうだと答えると民らの表情が明るくなった。
    「『おお、そうか。船は叡智だ、我らの崇めるものだ。聞かせてもらおう、この船は何で出来ている』」
    「『これは鋼で……』」
    「『鋼というのか、鋼というのはどういったものだ、何とどんな反応をしてどのような原理で空を飛ぶのだ』」
    「『ええ、と……』」
     民らは興味津々と言った様子だった。二人がしどろもどろになりながら答えていくと、不意に「『おい、貴様ら!』」と誰かの声が届いた。高慢で、不遜で、しかし高らかに響く声だ。今までの民らの声とはまるきり違う。
    「『今、誰が声を……』」
    「『そんなことはどうだっていい、旅人よ。船のことを、叡智のことを聞かせてくれ』」
    「『そうは言っても』」
     突然聞こえてきた困惑する二人をよそに、民らは特段気にしていないようだった。しかし重ねて「『貴様ら! 黙って聞いてやっていれば!』」と声がして、そちらの方を向くと群衆の向こうに煌びやかな恰好をした男が立っていた。正しくは、恰好こそ煌びやかだが土とほこりにまみれて薄汚い。この者の声を、民らは聞き入れていないようだった。
    「『お、おい……こいつは……』」
     貧しい身なりの者が無視された者を指さすと、一斉に民らは表情を殺した。
    「『神などいない』」
     以降、聞けた言葉はそれだけだった。もう興味を失くしたとでも言いたげに民らはそのスクーターで方々へと散ってしまう。
     残された者の方に近寄ると、彼は悔しさを隠しもしないで、「『我は〈神〉という』」と言う。
    「『我が民は皆我を神と称えた』」
     神さまのいる星、とはそういうことか。貧しい身なりの者と軍服を着た者は頷く。神と呼ばれた者は街並みを見上げる。その視線の先を指差し、すいと曲線を描くように動かした。連動したのかモービルが後ろへ戻る。おかげで交差点での衝突事故が起こらなかった。民らはそれに気づいていないのか、誰も何も言わない。神と呼ばれた者ですらも。
     貧しい身なりの者と軍服を着た者は再び顔を見合わせる。神と呼ばれた者の力は本物ではないだろうか。その動揺をありありと表情に浮かばせながら、言葉が出てこない。
     神と呼ばれた者は目線を下ろした。手元を見つめてため息を吐いた。
    「『しかし、船がやってきて、科学というものを広めたのだ。それからだ、民が神を――我を崇めなくなった』」
     ああ、だから民らは船を叡智と呼んだのか。そのすべてを神に頼っていた民らに科学は衝撃だっただろう。この不遜な神を(今となっては不遇な神だが)頼らずとも、自らの力で物を動かせるのだから。科学を持ち込んだ船に感謝し、叡智を称え、そして神を神の座から引きずり降ろして科学をそこに座らせた。
     不遜な神に飽いていたのかもしれない。不遜な神に疲れていたのかもしれない。そのどちらもかもしれない。けれど民らはもう科学以外を崇める気など起こらないようだった。それは傲慢にも思えたが、神という奇跡を常日頃から目の当たりにしていればそう思うものかもしれない。貧しい身なりの者はそう考えて、少しだけ、この不遜さも愛そうと思った。
    「『その、神とやら。俺たちは旅人だ。この星にしばらくとどまりたいが、宿はないか』」
     尋ねると神と呼ばれた者よりも早く軍服を着た者が肩を掴んだ。
    「『おい、お前。危機感が足りん』」
     見ず知らずの人間を、しかも理解もできない力を使う人間を信じるなということだろう。しかし神と呼ばれた者は特に気にした様子もなく「『それなら』」とそっと手のひらを舞わせた。
     船の近くの大地が隆起し、建物のかたちをとる。二人が啞然と見つめている間に神と呼ばれた者は呟いた。
    「『世話役も作っておいた。思うがままにせよ。我は此処に在る』」
     それきり神と呼ばれた者は話をしようとしなかったので、仕方なく礼を言って、宿となった建物を覗いた。その中には随分と親切にしてくれる星の民がいた。しかしこの民もまた、神のこととなると口をつぐんだ。


     それから数日を過ごして、いくつかの積み荷を売り、逆に次の星までの航行も可能だというほどの積み荷を用意し、日の出と共に船を漕ぎ出そうと決めたその日。貧しい身なりの者が神と呼ばれた者に声をかけた。
    「『お前、船に乗るか』」
     隣にいた軍服を着た者が目を丸くする。神と呼ばれた者すらも、目を丸めて彼を見つめ返した。
    「『何を言う。我に叡智へ屈せと宣うか』」
    「『いいや、違う。でもお前、この星のどこにも居場所などないだろう』」
     その言葉は神と呼ばれた者に真っすぐに届いた。数日間で感じたことをそのまま伝えたからだ。神と呼ばれた者は返事もせず貧しい身なりの者を見返して、そして視線を下ろした。両手を見つめてぐっと握りしめる。それだけで彼らが宿にしていた建物は消えて、世話役だという民は魔法が解けたかのように何事もなく町へ戻っていく。
    「『我はこの星と共に生まれた。生まれたときから神と呼ばれて、我は神として此処に在った。言うならばこの星のすべてが居場所だ』」
    「『でも、居場所を失くした』」
    「『科学というものは、我の力を民にも使えるようにしたものだ。もう民らに我の力は必要ない。それだけだ』」
     それだけだ、と繰り返し呟く神ではなくなった者を、貧しい身なりの者と軍服を着た者が見つめる。軍服を着た者が「『勝手な真似は許さん』」と呟いたが「『別に勝手じゃないだろ』」と貧しい身なりの者は言い返した。
    「『あんただって、この神とやらを救いたかったはずだ』」
     そう返した言葉を、神と呼ばれた者も聞いていたらしい。
    「『救う? 我を? 貴様らが?』」
     そう言って二人へ飛び掛かるように前に出て、空を指さした。
     星空に、太陽が昇る。日が差した星に活気が戻る。星全体が煌く。
    「『貴様らに救われずとも、我は救われている。とっくに、民が在る限り』」
     しかしその顔がくしゃりと歪んで、指先はゆっくりと船を指さす。
    「『我はどこに在っても神で居よう。我は我が民の安寧を約束しよう。神は此処に在り、神は民を守ろう』」
     乗船の言葉だと受け取って、貧しい身なりの者と軍服を着た者は頷いた。


    「弱っちぃ奴」
     漣は台本を投げた。稽古のあと、メインキャストとなるTHE虎牙道だけで自主練がしたいとスタジオに残っていた。鏡の前に漣の台本がばさばさと音を立てて落ちる。タケルは「台本を雑に扱うな」と本人の元に向かったが、返ってきたのはタケルへの文句ではなかった。
    「誰がなんと言おうがオレ様はオレ様だろうが」
    「どういうことだ?」
     道流が台本を拾い上げながら尋ねてみれば、漣は嫌な顔を隠しもせず吐き捨てる。
    「自分が神だって言うなら神だろ。それがなんだ、誰にも崇められなくなったくらいで」
    「なるほど、役のキャラクターに納得がいってないんだな」
     漣の前に台本を置き直して、道流は苦笑する。こういうときに普通なら台本を読み込んだり、キャラクターについて議論を交わしたりして役作りとするのだろう。しかし自分たちはTHE虎牙道であって普通ではない、と道流自身よくわかっていた。特に、漣に協調性を求めても意味がない。話し合いではない解決方法と言えば、ひとつだ。発破をかける。それだけ。
    「漣、最強の演技を見せてくれるんだろう?」
     笑ってみせると、漣はふん、と唸って、台本を拾い上げた。ぱらぱらとページを捲って台詞を読み上げる。
    「……『我が目をやれば果実は実り、我が指の一指しで星は瞬いた』」
     台詞を読み上げるその声はいつも通りの漣でありながら神らしい高潔さをも持ち合わせている。その後ろでタケルが息を飲んだ。
     こういった、たった一声で世界に引きずり込むだけの力が漣にはある。
    「『我が声は民の安寧を約束しよう。必ずや』」
     しかしこの神は民に否定されている。科学でもたらされた繁栄に民は流れ、神を崇めなくなった。それに何を重ねたのか、漣は苦虫を嚙み潰したような顔をして、クソ親父、とだけ呟く。
    「オレ様は最強だ」
     台本を置く。頭痛を抑えるように頭を抱えて、次に顔を上げたとき漣はまっすぐにスタジオの鏡の前に向かった。
     自分自身に挑戦をするように、その中の自分を睨んでいる。
    「誰になんと言われようとオレ様は最強大天才だ。オレ様は頂点に立つ」
     そうして踊り始めた。殺陣にも似たTHE虎牙道の曲のダンスは、格闘技を意識した部分もあってTHE虎牙道にしか踊れない。それを何曲も、何曲も歌いながら踊って、息を切らす。
     それを見ていたタケルが道流の裾を引いた。
    「円城寺さん」
    「ああ。ひとりにしてやろう」
     行き詰った時に、ひとりで向き合う時間を。それはTHE虎牙道がこれまで辿ってきた道だ。ためらうことなく二人でスタジオを出て、シャワールームへと向かいながら道流はうーんと唸った。
    「漣にも自由を失った経験があるのかもな」
    「自由?」
    「自分を誇示できる自由」
     コジ、とタケルが繰り返してきた。わからない言葉だったようで、笑いながら「自分はこうだとアピールすることだ」と解説をやる。
    「漣の主張の強さはそこにも理由がありそうだな。もともとのような気もするが」
    「もともとだろ……」
    「まあまあ。それで、漣がもしそうなら、今回の役にぴったりだと思わないか」
    「……神として崇められる自由を失った神さま、ということか」
    「ああ。それだけにこの『神さま』も強かに生きていくだろうと思わせてくれる」
     どういうことだ、とタケルは言いたげだった。見上げてくるその顔に、笑い返す。それは道流が普段から思っていることだった。
    「希望のあるエンディングは良いものだろう」
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