無題 町の喧騒に紛れた、黒いコートの背中を見た。
あー、あれはまたなんかやってんだろうな。
詳しいことは聞いてないし、聞くつもりもないけれど。
ほんの少し悪戯心が芽生えたのは、仕方のないことだと思ってほしい。
なにせ、俺も男なので。
「ねぇ、そこのおにいさん」
足早に追った背中に声をかけると、反射的に振り返ったであろう顔がわずかに歪められた。
うわ、すっごい嫌そう。思わず笑いそうになるけれど、取り繕っているのはどうせ向こうも同じだろう。
「……なにか?」
返された言葉は静かで、口元には曖昧な笑みを浮かべているが、隠しきれない不機嫌さが透けて見えるようだった。
「ふふ、おにいさんかわいいから声かけちった。ねぇ、いま暇?」
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