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    さめはだ

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    さめはだ

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    成人済拓+二(拓二未満)

     吐き気を催して目が覚めた。電気もつけっぱなしで寝たのかと、やけに重たい瞼の隙間から天井を睨みつける。くあっとしたあくびすら酒臭く、昨晩自分がどれほど飲んだんだ…と苦笑いを漏らした。


    「……んんぅ…」
    「…………は、」

     ぴしりと身体が固まった。よく知った自室の風景に、これまたよく知った黒髪が目に入ったからだ。これがふわふわな栗色や、色鮮やかな下着が広がっていたらここまで動揺しなかっただろう。おかしいぐらい揺れ動いた目線が捉えたのは、肉付きの良い膨らみではなく骨が浮いた胸骨、可愛いと思って購入したドット柄のボクサーの横には無地のワンサイズ小さい同じ形の布地、身をよじった際に見えた数々のキスマークと歯型…。

    「…………」

     とりあえず、もう一回寝よう。拓也は現実逃避を始めた。

    「って、こんなん眠れるかぁああッ!!」
    「……んだよ……朝からうるさいなぁ…」

     聞き覚えがありすぎるテノールが掠れていて、それが拓也を更に焦らせた。

    「おいッ!起きろよ!こーじっ起きて起きてっ!!」
    「……んんっ………まだ、ねむたい…んだ…」
    「二度寝してる場合じゃねぇからっ!なあなあっお前、昨日のこと覚えてっか?!」
    「……きのぉ?……そりゃあ……おま、えと……酒、のんで………ばかさわぎし…て…」
    「お願いだから寝ないでくださ〜〜いっ」

     晒された肩を揺さぶれば眉間に深いシワが刻まれた。長い睫毛に縁取られた瞼を煩わしげに開き、眠気眼な眼差しが向けられる。

    「……朝から元気だな、お前は…」
    「んなこと言ってらんねーんだってッ!
    俺たち、多分ヤッてる!!」
    「………なにを…?」
    「えっち!!」

     ここでようやく意識が覚醒したようだ。じわじわ瞳が開かれて、低い低い地を這うような声で「………は?」と薄い唇からこぼれ落ちた。

    「……えっ、……ちって……お前、何いってんだ…」
    「前提として、俺は全く覚えてない。お前は?」
    「………俺もだ、な…」

     ゆっくりと上体を起こしにかかった輝ニの顔がその瞬間たしかに強張った。よく知った倦怠感と感じたことのない痛み。思い出そうと乱れた髪に触れ、そこが手櫛ではどうにもならないほど絡んでいることにも気がついた。

    「なんだこれ……うわっ…張り付いてやがる……なん…だ……」

     低血圧だからではなく、その顔面が蒼白になっていく。指通りの良い自慢の黒髪についたものが何なのか悟ったからだ。

    「………やばい」
    「なぁ?!やばいしかでないだろ?!」
    「…おっ落ち着け拓也……お前がデリヘル呼んだとかそういう」
    「なんでお前が寝てる横で女の子呼べるんだよっ!輝ニこそ落ち着けよ!!」
    「………まじかぁ…」

     起こしていた身体をベッドへと再び沈め両腕で目元を塞いだ。現実を見ないようにしている姿に、拓也が俺と一緒じゃんかと苦笑いを浮かべた。

    「……とりあえず…風呂、行ってこいよ」
    「……俺が先でいいのか?」
    「まあ、ここ俺んちだし…お前がシャワーしてるうちに部屋片しときたいしさ…」

     そわつきながら伝えた考えに輝二がなるほどと頷いてみせた。

    「じゃあお言葉に甘えて…」
    「うん、どーぞ」

     この部屋の浴室が、廊下に出てすぐ左手にあることは何度か使ったことがあるから知っている。冷や汗を浮かべた輝ニがベッドの下へと足を下ろし、ぎしりと軋んだ腰骨に目を見開いた。

    「うッ…ぁ、…ってェ…!」
    「えっ…なに、大丈夫かよ」
    「…なんでも、ない……気にするな…」

     なんでもないわけではないが、咄嗟に否定の言葉が口からこぼれる。瞼を手の平で抑え息を吐ききった。震えそうな両足に力を込め、ベッドの脇へとなんとか立ち上がる。

     苦しげな声音に心配そうな表情を浮かべ、真っ白な背中を目線で追いかけたどり着いた腰元をみて「あっ」と声が上がる。

    「…拓也こそ、なんだよ。どうしたんだ」
    「やッ…なっ、なんでもない!なんでもねーからっ!」

     目を白黒させる姿に疑問は沸いたが、そんなことより一刻も早くサッパリしたいと考え「そうか」と素っ気ない返しをした。妙に軋む腰骨と違和感しかない股間に眉間に皺をよせ、素足をペタペタ進ませた。

     そんな後ろ姿を、信じられないと言った顔つきで見つめる男が一人。この部屋の家主で、その”犯人”。

     細い腰にくっきりと手形が浮かんでいた。指のあとまでしっかりと目視できるほど色濃く残ったそれに、拓也の記憶が段々と紐解かれていく。


     昨晩のこと。近所の焼肉店で酒を酌み交わしながら会話に花を咲かせていた。同い年の他二人とも会うことは多々あるが、輝二と過ごす時間が心地よく、二人で遊ぶことが圧倒的に多かった。腹も膨れ、明日の予定もお互い特にないとなってからはトントン拍子で話が進んだ。近所の24時間営業のスーパーへ立ち寄って、大きいレジ袋二枚がぱんぱんになるまで買い込んだ二人は、拓也の部屋へと足を向けた。程よくアルコールが回りだしたからなおさら喉が渇いて仕方がない。気が付けば、空き缶と半端に開いた乾きものや総菜が散らばっていた。
     夜も更けて、二人しかいない空間。会話の内容も、ディープなものへと変わっていく。最後に女性と共に過ごしたのは?、そういやいつ童貞捨てたの?、変な性癖ありそうだよな、お前は淡白そう…。

    「だったら、試してみるか?」
    「上等」

     その言葉をきっかけに、お互いが噛みつくようにして唇が合わさった。



    「………」

     ガンガンと揺れる頭は飲酒だけが原因ではない。数か月前に自分のもとを去った彼女と使い切ることがなく、もったいないからと残していたコンドームの箱が空になってゴミ箱の横に落ちていた。現実を見たくないにしても身体を動かさなければ、この惨状を片付けるのは自分しかいないと項垂れていた頭を上げた。

    「ッ、てぇ…」

     全裸で片付けるのもな…、そう思った拓也が脱ぎ捨ててあったドット柄の下着へと手を伸ばした。その瞬間背中に激痛が走る。おそるおそる後ろへと手のひらを回しそっと撫でてみれば、肩甲骨あたりにざらつきがあった。痛みに顔を顰めながら指で優しくなぞり、それがかさぶただと悟る。もつれる足で輝二が消えて行った浴室へと向かい、洗面台で背中を確認する。

    「うわ……うわぁあ…!」

     きれいに残ったひっかき傷に、その場でへにゃへにゃとしゃがみ込んだ。悲鳴を上げまいと顔面を手のひらで覆い隠す。

    「…なにやってんだ?」
    「……上がんの早すぎんだろ…」
    「そうか?こんなもんだろ。それより、タオル貸してくれ」

     指の隙間から覗き見た輝二は、濡れた長髪をぎゅっぎゅっと絞ってる最中だった。浴室にぼたぼたと水滴を落としながら珪藻土のマットへ踏み出した。その姿に弾かれたように飛び上がった拓也がわなわなと身体を震わせた。

    「ばッ…バカやろうっ!輝二てめぇ…なに裸っ…前隠せよッ!」
    「は…な、なに…そんな今更…」

     かく言う自分は生まれたままの姿で、首元まで赤くした拓也が尻もちをつきながら壁際まで後ずさった。慌てる姿に驚き、呆れた表情を見せる。

     今更…子供のころは一緒に入浴していたし、大人になってからも銭湯や着替えを共にしていたじゃないか。そう考えての発言だったが、拓也にはそうは聞こえない。
     
     今更。昨日の夜さんざん楽しんだだろうが。そう言っているようにしか聞こえなかった。


    「はあ…いいから、さっさとタオル貸してくれ」
    「……ん」
    「ああ、あと、着替えも貸してくれ。できれば下着も…って、お前のはサイズ合わないんだったな」
    「ねー~!生々しいからやめてくれよ…!!」
    「…ホント、どうしたんだよ拓也」

     さすがに不安になった輝二が、体調でも悪いのかと目元に心配の色を浮かべ出した。

     男らしく仁王立ちの身体は女体のような柔らかさは見て取れない。だが、折れそうなほど細く、透き通るような透明感のある肌質に、自分が付けたであろう情事の跡が残されている。後ろを振り向けば、むごたらしい指の跡。ちゃんとは確認できなかったが、しなやかな背中には吸い跡と歯形がたくさん残されてることは容易に想像できた。

    「いっ、いいか輝二っ!」
    「あ、ああ…なんだ?」
    「昨日の事は、なかったことにしよう…!」
    「…なんだ、そんなことか」
    「そんなことって…」

     腰に手を当て、先ほどの心配と戸惑いを浮かべた眼差しを再び呆れへと変えた輝二がため息を吐き出した。やれやれと手を振って「当たり前だろ」と言ってのける。

    「まあ…あれだ、俺たちは酔ってたんだ。お互い相手もいないわけだし、特に問題にはならないだろう。…成人してからってのは、少しおかしいかもしれないが…」
    「……え?」
    「…言わせるつもりかよ、大概だよなお前って。
    ……抜き合いぐらい、同性なら特段おかしくはないだろ」

    「………は?」

     まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきになった。

     あれほど隠しきれない痕跡を目の当たりにして、目の前の親友は不貞はなくただの「触り合いっこ」だと言い出した。誤魔化しなどではない、信じ切った眼差しで。

    「子供のころなら笑い話になったが…俺たちもいい大人だ。お互い犬に噛みつかれたと思って忘れようぜ」
    「……」

     鯉のようにパクパクと動かした唇を舌で湿らせてゆっくりと開いた。なにか、言わねば…。

    「………そーーだよなぁ!抜き合いっこだもんな!うんうんっ、まあしゃーねぇよなっ!飲んでたしっ、うんうん!」

     拍手を繰り返す拓也にもう一度ため息をはき、「で、タオルは?」と言うものだから、慌てて部屋からタオルを持ちだした。ふかふかの布地がなまめかしい四肢を拭き上げる様に思わず喉が鳴り、大げさに咳ばらいをして見せた。

    「さっさとお前もシャワー浴びて来いよ。朝飯食いに行こうぜ」
    「そ、だな」
    「じゃあ、また後で…部屋で待ってるな?早く上がって来いよ」
    「おッ…」

     お前はまた…ッ!!叫びそうな言葉はなんとか飲み込めた。

     すれ違った時に鼻先をくすぐったシャンプーの香りが自分のもので、拓也が人知れずぐぬぬ…と唸り声をあげた。
     

     特大の噛み跡を残された拓也の苦悩は始まったばかり。



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    Replies from the creator

    さめはだ

    DONE成長拓2♀
     これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。

     でもさ……。

    『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』

     ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!



     待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
    1780

    さめはだ

    DONEモブ目線、成長一二。
     鍵を差し込んで解錠し、ドアノブを回す音が聞こえてきた。壁を隔てた向こう側の会話の内容までは聞こえないが、笑い声混じりの話し声はこのボロアパートじゃ振動となって伝わってくる。思わずついて出た特大のため息の後、「くそがァ…」と殺気混じりの呟きがこぼれ落ちた。

     俺の入居と入れ違いで退去していった角部屋にここ最近新しい入居者が入ってきた。このご時世にわざわざ挨拶に来てくれた時、俺が無愛想だったのにも関わらずにこやかに菓子折りを渡してくれた青年に好感を持ったのが記憶に新しい。

     だが、それは幻想だったんじゃないかと思い始めるまでそんなに時間はかからなかった。


    『あッ、ああっ…んぅ…ぁっ…!』

     
    「……」

     ほーら始まった。帰宅して早々、ぱこぱこぱんぱん。今日も今日とていい加減にしてほしい。残業もなく、定時に帰れたことを祝して買った発泡酒が途端に不味くなる。…いや、嘘です。正直、めちゃくちゃ興奮してる。出会いもなく、花のない生活を送っている俺にとってこんな刺激的な出来事は他にない。漏れないように抑えた声もたまらないけど耐えきれず出た裏返った掠れた声も唆られる。あの好青年がどんな美人を連れ込んでるのかと、何度想像したことか…。
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